第1話 勝ち確女子、ぼっち男子に注文する
駅前通りの一角にあるネットカフェには、昼夜問わず沢山の人が利用する。
日常的、あるいは定期的に利用する人は若い世代や、もしくはネットカフェ難民――所謂一時的に宿泊したりして生活拠点にしてる人が多数だが、時々リア充(滅びろ)なカップルなんかもいる。
俺はそのネットカフェでアルバイトをしている高校生。
テスト期間の融通があり、学業と両立出来るうえ、週二日や三時間だけでもいいという条件だったので、即決したバイトである。
客のほとんどは基本的に若い男性の利用が目立つが、漫画好きの女性や、暇潰し目的で利用する女子軍団なんかも見たりする。
やる仕事はマニュアル化されているうえ、接客も比較的少ないので、あまり人と関わらないぼっちな俺でも始めやすいのが良かった。
何せ教室では完全なるぼっち。普段から女子はもちろん、男子とも話したくない俺にとっては最高の環境と言える。
とはいえ、短時間でもフロントに立てば接客しなければならない時があるわけで。
そして今日はまさに、そんなフロント業務シフト日な件。
「すみませ〜ん!」
この声がかかる時の用件は大体、セルフレジの使い方を聞かれた時だ。
この時ばかりはぼっちな俺でも、仕事をこなさなければならないのですぐに対応をする。
「はい、どうされましたか?」
「セルフレジの使い方って〜って、あれ? 君ってアレじゃない?」
客からアレ呼ばわりはたまにある、いや、ないが、とりあえずどんな奴だよと顔を見るとその客は俺のクラスメイトの女子だった。
顔で分かったが、姉と来てる常連だ。
このご時世に容姿端麗という言葉で片付けたくないが、この女子はクラスの男女どちらにも大人気な女子――勝ち確ヒロインと言われてもおかしくない女子である。
席近の声だけで聞いた評判は、人への気遣いが素晴らしいだとか、一緒にいて楽しい人らしい。
だが、同じクラスにいるぼっちの俺が気遣われたことはなく、至近距離にいても楽しい気分になったことはない女子だ。
何せアレ呼ばわりするくらいだからな。
「何ですか?」
「ほら、同じクラスのアレ!」
「……それは分かりませんが、セルフレジの使い方をお教えしますので……」
そう言って、カウンター横のセルフレジ前に移動すると、その女子は思い出したかのように両手をパチンと叩いて俺を見てくる。
「アレだ! 孤高のぼっち男子くん!」
ああ、はいはい。
別に俺の異名でも何でもないのだが、一部女子の間でそう呼んでいるらしい。
孤高は一見誰からも相手にされない奴と思われがちだが、俺はやるべきことはやる奴なので、先生からはポジティブな評価をされている。
回りに流されない気高い奴と思われているとかで、一部女子にはそう呼ばれているわけだ。
そんな俺をいやに見てくるが、たとえ美少女枠の女子だろうと関係なく対応する。
「それで、佐倉様。このセルフレジですが……」
「え? 何でぼっち男子なのに私の名前知ってるんですか?」
そりゃあ、お客様だからな。会員情報で出てくるわけだし。そもそもぼっち男子は無関係だろ。
「お客様は会員なので」
「……あ。ごめんなさい、ですよね」
目の前の佐倉は、このネットカフェのれっきとした会員で、そこそこの利用者でもある。
だが、ほとんどは一緒に来ている姉に任せきりなので店員に聞いてくることはなかったと記憶している。
個人情報なので普段は名前を読み上げることはあまりないが、クラスメイト特権を発動させてもらった。
「――で、この矢印をスライドさせてOKを押していけば出来ます」
などなど、一通り教えた結果、佐倉はすぐに操作出来るようになっていた。
「ありがとう! えっと……」
「いえ、お客様に案内するのが仕事なので」
「そうじゃなくて、ぼっち男子くんの名前って聞いたことなかったかなぁと」
――と、佐倉は何故か気恥ずかしそうに俺を見てくる。
つまり、教えろくださいなわけか。
だが最近はイニシャル名札になっている関係で、知り合いならともかく、おいそれと名前を教えるのは禁じられている。
そんな俺が出した答えは。
「NNです」
俺の名前は名取成輝。だが、イニシャルでほぼ正解なので何も問題ない。
「……私、同じクラスの女子ですよ? なのにイニシャルって、それって酷くないですか?」
「個人情報を教えるわけにはいかない決まりなので」
これは本当である。
「私、佐倉ってバレちゃってますよ?」
「そうですね、失礼しましたお客様」
「むむむ……」
うん、仕草とか反応とかが可愛いのは確かだな。
「ちょっと、理乃! 何してんの? ポイント利用出来てないの?」
そして現れた姉により、下の名前も判明する。
「ごめん、出来てた〜っていうか、名前バレちゃったじゃない!」
「え、何が?」
などなど、客の会話は関係ないので俺は定位置に戻り、時間がくるまで仕事に徹した。
夕方までの短時間バイトを終え、駅に向かおうと外に出ると、それまで利用していたらしい佐倉姉妹と鉢合わせしてしまった。
姉の方は当然ながら俺を見ても何の反応も示さないが、妹である彼女はすぐに俺に気づいた。
「あの〜ぼっち男子くんって、彼女とかいるんですか?」
おいおい、いきなりなんてことを言ってくるんだ?
そして何で答えねばならないのか。
「……知りません」
「や、自分のことですよ?」
そんなのは分かってて答えているのだが、教える義務などあるわけもなく。
「俺、駅に向かうんすけど、帰っていいすか?」
「私たちも同じ駅だから大丈夫です」
大丈夫の意味が不明だ。
「どうなんですか?」
「どうもないです。じゃ、またのご利用お待ちしてます〜」
「……そのままだと、ぼっち男子くんはぼっちのままだと思うんです」
俺の何を見てそう言っているのか。
「それでいいと思ってるんで」
もしやこの女子、すでに勝ちが確定してるからこその上から目線なのか?
「理乃、電車来ちゃうよ?」
グッジョブだ、姉。
「なので、提案……注文しちゃうんですけど、恋愛してみたらどうですか〜?」
「……お客様とですか?」
「あ、それは違うんですけど」
違うのか。
「ぼっち男子くん、人当たりいいし恋したらもっと良さげになりそうな気がしました! それじゃ、行きますね、ごめんなさい」
良さげの定義が分からないが、俺に恋をしろとか言ってくるあたり、勝ち確ヒロインは容赦ないことが分かった。
同じ駅を利用してるので仕方なく一本遅らせて帰ったのは自己防衛――でもないが、そんな気分だった。




