第41話 初めての親友
気づけばバトロワから一か月経ち、デスゲームまで一週間となった。その間したことと言えば修行といった修行はしていない。樟田曰くこれ以上やっても今の俺に変化がないのだから、変に追い込むより精神を安定させることに尽力した。
それと、雷門を自室に何度も呼ぶようになった。今の俺となっては唯一の仲間である雷門しか信じれるものがなかった。
「よっ、呼ばれて飛び出て雷門武が来てやったぞ。感謝しろよ大和」
「どうぞお帰りください」
「お邪魔しましたー!じゃねぇよ!お前から呼んだよな?!」
勢いよくノックバックして戻ってきた雷門は、ぷりぷりと怒りながら俺の向かいの椅子に腰を下ろした。そのあまりにいつも通りな緊張感のない態度に、俺の唇の端が自然と緩む。
こうして雷門を自室に招くようになってから、俺の精神はようやく「人間」の形を保てていた。
「それで、今日は何の用だ? また人生相談か?」
「いや……料理を教えようと思ってな」
「は? 料理?」
雷門が意外そうに目を丸くする。俺は無言で、部屋の隅に用意していた簡易的な調理セットをテーブルに乗せた。
「今のあいつら……赤羽や橘には、俺の味なんて教えられない。でも、お前なら持っていけるだろ」
「……」
雷門の顔からふざけた色が消える。彼は俺が「悪役」としてあいつらと決別した真実を知っている人間だ。思うところはあるのだろう。
そこからお料理教室が始まった。
「まずはこれだ。野菜の切り方から。……おい、腰が引けてるぞ。戦闘であんなに動けるくせに、包丁を持つと途端に初心者だな」
「うっ、うるさいな! 敵を殴るのとキャベツを切るのは別だろ!」
俺が後ろから手を添えるようにして教えると、雷門は真剣な表情で包丁を握り直した。教えたのは、あいつらにもよく作った、なんてことのない家庭的な味だ。
一之瀬大和という人間が、かつてそこに存在していた証。
「……なぁ大和。これ、いつかあいつらに食わせてやってもいいのか?」
「……俺が教えたとは口が裂けても言うなよ」
「わかってるって。俺の隠れた特技ってことにしとくよ」
出来上がった料理を二人で突きながら、他愛もない話をした。世界がどうなるとか、神がどうだとか、そんな殺伐とした話じゃない。昔読んだ小説の続きや、他愛もない世間話。
「赤羽の時も思ったけど、お前ら二人が小説呼んでるのすげぇ違和感あるわ。大和とか特に」
「そうか?俺からしたらでかぶつのお前が百合好きだったことの方が意外だぞ」
こいつが百合好きと聞いたときは本当に驚いたのを覚えている。だが今になって思えば花音と赤羽のやり取りで鼻血出して興奮していたから片鱗はあったのだ。
「では素晴らしい提案をしよう、お前も百合好きにならないか?百合はいいぞ」
「…………考えておく」
ちょっと興味はある、俺と武は中身はかなり似ているのかもしれない。
「じゃあ明日ここにコレクション持ってきてやるから、存分に読んで感想を教えてくれ!ちなみに俺のおすすめは……」
そこから帰る時間になるまでずっと百合について聞かされ耳に胼胝ができそうだ。
ベッドに入り天井を眺める。思えば武とは最初の方はなかなか話すことがなかったが、今は親友と呼べるほどの男になった。
「最初に殺すのは………誰になるんだろうな」
楠田から聞いた話だと、デスゲームは俺が一人ずつ相手にしていくらしい。
出来るなら、最初は親友がよかった。
覚悟の刃が、鈍る前に。




