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第39話 和解




 最初は雷門から逃げようとしたが、あの頃と変わらない態度で「話がしたい」と言われ新しく用意された部屋に雷門を招待した。


 「まぁ、そこ座れよ」


 「ありがとう」


 無駄に装飾の凝った椅子に座らせ俺はベットに座った。


 沈黙が続いた。お互いが相手の顔色を伺う時間だけが流れていく中、雷門から口を開いた。


 「悪いな、話がしたいって言ったのはこっちなのに黙り込んじまって」


 雷門は自嘲気味に口角を上げると、どこか申し訳なさそうに眉を下げて微笑んだ。その笑顔が、今の俺には猛毒のように体を苦しめる。


 「いいんだ、それで話したいことって?」


 「あの日……花音を殺した日のことだ、その真意を知りたい」


 正直、話していいものか分からなかった。雷門は冷静に判断が出来る男ではある。しかしだからといって俺の事情を誰かに言うのは雷門にとって苦痛になるかもしれない。


 「覚悟なら決めているんだ、話してくれ」


 そう告げる彼の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。かつての迷いは消え、射抜くような鋭い眼差しが俺を正面から捉える。


 「わかった、どこから話すべきか……」


 そこから俺が花音を殺した経緯を話した。


 「そうか、そんなことが……だからお前は、全てを一人で背負ったんだな」


 彼はしっかり俺の話を聞いてくれ納得してくれた。自分が悪なのは理解しているが、誰かに理解してもらい嬉しさを感じてしまう。


 「事情はわかった、でももう後戻りは……」


 かつての仲間である俺の行く末を案じ、彼の表情が曇る。そう、俺に後戻りなんて道は、ここに来た時から残されてなどいない。だが、それは俺を絶望させる未来にはならないはずだ。


 「元より後戻りなんかするつもりはない。『全員殺して全員助ける』、それが今の目標だ」


 拳を固める。もう迷わない、御門の時みたいに誰かに期待もしない。俺が……こいつらを殺して助ける、それだけだ。


 「それに……俺にはここに来た時の目標もある、どの道おまえらも神も殺さないと話にならない」


 「……わかった、話が聞けてよかったよ。これ以上話していると赤羽に勘づかれそうだからな、このことは誰にも言わないでおく。また明日」


 雷門と別れを告げ、ベットに倒れこむ。まさか誰かと和解が出来るとは思わなかったため、正直びっくりしている。雷門が大人でよかった。


 足をもつれさせながら、部屋の奥にあるベッドへと倒れ込む。

 シーツのひんやりとした感触が頬に伝わったが、それを楽しむ余裕さえ今の俺にはない。


「……くそ、限界だ……」


 樟田に付き合わされた三日間の不眠不休。そして、あの地獄のようなバトルロワイアルでの死闘。


 まぶたの裏側が熱を帯び、鉛でも流し込まれたかのように重くなっていく。意識の輪郭が急速にぼやけ、部屋の薄明かりも、遠くで聞こえる機械音も、すべてが遠い世界の出来事のように霧の中に消えていく。


 思考を繋ぎ止める力すら残っていない。俺は抵抗することを諦め、泥のように深く、暗い眠りの底へと身を投げ出した。





――――雷門武視点――――




 一之瀬と別れた後、一直線に部屋へと戻っていった。扉を開けると案の定赤羽が椅子に座っていた。姿が見えないと思えば、布団が膨らんでいることから寝ているのだとわかった。


 「それで、あいつには会えたの?」


 赤羽の声は低く、ひどく冷徹に響いた。その顔には氷のような冷ややかさが張り付いており、わずかな嘘も許さないという無言の圧力を放っている。


 「……あぁ、会ってきたよ」


 俺は努めて冷静に、短く答える。頭の中では、先ほどの一之瀬との対話がフラッシュバックしていた。あいつの覚悟、孤独、そして花音を殺さざるを得なかった悲劇的な経緯。


 すべてを話せば、赤羽の怒りは収まるかもしれない。だが、それは同時に一之瀬が一人で背負おうとしている「悪役としての覚悟」を泥塗りにすることでもある。


 「何をしてた。あいつは、何を言ってたの」


 「……相変わらずだよ。樟田の研究室で、新しい能力の実験に明け暮れていた」


 俺は嘘はつかず、だが核心である「和解」と「事情」だけを意図的に切り捨てた。


 「『お前らも神も全員殺して、俺が勝つ』……そう笑いながら言っていた。和解の余地なんて、微塵もなかったよ」


 赤羽の眉間の皺が、さらに深く刻まれる。彼女の瞳の奥で、冷たい殺意が確かな熱を持って揺らめいた。


「そう……。やっぱり、あいつは殺すべき屑野郎なのね」


赤羽は椅子から立ち上がり、窓の外の闇を見つめた。その背中からは、隠しきれない復讐心が静かに、しかし確実に溢れ出している。


(これでいいんだよな、一之瀬)


俺は布団の中で眠る橘に視線をやり、自らの嘘が招くであろう「次の地獄」を予感しながら、重い口を閉ざした。



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