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第35話 捧げる者





 先に動いたのは、主人公君だった。地を蹴り、殴りかかってくる。主人公君の猛攻を軽々と避けていく。アニマで身体強化すらできない彼の攻撃に当たる道理はない。


 隙を突き重い蹴りが彼の腹にめり込み「あがっ!?」とうめき声を上げて後退する。明らかに彼が弱者、俺が強者なのに、それのなのに。


 何故警戒心が拭えない……!?


 「威勢はいいが、何もできてないな」


 「……ハッ!ほんの小手調べだ。直ぐにでもその余裕崩してやるよ」


 不利なはずなのに、あざける。指先をこちらに向け何か放とうとしていた。


 「――――――『指先点火』」


 彼が唱えた瞬間、火が現れた。火球というにはあまりにも小さい、ロウソクぐらいの火だ。


 「それがお前の能力か?なら殺し合いにもなんねぇぞ」


 「決めつけんのが速いんだよ早漏、それとこれは俺の能力じゃない。千紗の兄貴、東雲辰也しののめたつやの能力だ」


 待て、東雲辰也の能力?つまりこいつは、他人の能力を使えるという事になる。


 「―――『コピー』、意外とモブ臭い能力だな」


 「安心しろ、そんな恵まれたもんじゃない」


 彼の体動いた。攻撃が来ると思ったがそうではない。指先の火を上に掲げ、叫ぶ。


 「――――我、ここに『悲しみ』を捨て、新たなる進化を欲する!」


 誰かへの宣言を決めた直後、ロウソクに宿されたような火が彼の手ごと燃え上がる。炎は留まるところを知らず、木すら超える大きなになる。


 火はどんどん温度を上げ、周りの草が焦げていく。


 だがそれよりも気になることがあった。『悲しみ』を捨てる?まさか……あいつの能力はコピーではなく―――!?


 「気づいたか、俺の能力は『等価交換』、何かを捧げることで何かを得る力。捧げるものが大きければ大きいほど得るものは自分の思い通りになる。あの小さな火がここまでの炎になるなら、捧げた甲斐があったな」


 「……なるほど、自己犠牲が好きなお前にぴったりだなくそ!」


 なんてものを隠していやがった、感情一つでここまでならこれ以上調子に乗らせると収拾がつかない。


 「こうだったか?―――流星群・焔」


 彼が告げた瞬間、天を衝くほどに膨れ上がった巨炎から火が出てきた。直後、無数の小さな火球が炎の渦から剥離し弾丸となって俺の視界を埋め尽くす。


 夜の闇を焼き切り、尾を引いて飛来するその火弾の一つ一つが代償として差し出された『悲しみ』の重さを物語っているようだった。


 (こいつ当然のようにアニマの放出、しかもアニマ技術と能力の組み合わせかよ―――!?)


 代償を払ったからだろう、アニマ技術を能力の範疇として使っていた。


 「星雲の殻(ネビュラ・シェル)!」


 寸前でガードが間に合い――――


 「甘いぞ」


 上からの攻撃は確かに防げていた。しかし誰が想像できる?地面が熱くなっていき汗が出てくる。今こいつがしている子は異次元だ、地面を炎で温めているのだ。


 いくら防御が硬くても地温をいじられると微弱なダメージが蓄積される。


 「無傷は無理か!」


 自身の足元を起点に、指向性を持たせた『爆破』を引き起こす。


 凄まじい衝撃波と爆炎が、熱せられた地面を粉砕しながら俺を天空へと突き上げた。

 

 背中を焼くような爆風を推進力に変え、重力を振り切る。一気に高度を稼ぎ、地上の灼熱から離脱した俺の下には、夜の森を赤黒く染め上げる巨大な火球とそれを操る主人公の姿があった。


 「『爆破』……辰也の時は別の能力使ってたし、お前重なりし者(ギフテッド)だったのか」


 「安心しろ、お前と同様そんな恵まれた物じゃねぇよ!それと、そっちが真似したんだから文句言うなよ!」


 俺は空中で身を翻し、眼下から迫りくる無数の火球――主人公君の『流星群・焔』へと指先を向けた。


 今度は俺が「簒奪」した力をぶつける番だ。


 「――――流星群・爆!」


 俺の指先から放たれた無数の衝撃波が、主人公君の火弾と次々に空中で接触していく。その瞬間、夜空のキャンバスは一変した。

 

 主人公君が丹精込めて放った炎が、俺の爆破に干渉され、一発残らずその場で炸裂していく。『焔』と『爆』。二つの異なる性質が激突した衝撃で、暗闇の中に極彩色の花火が咲き乱れた。


「っ……あ……!」


 地上の御門が、自分の炎が次々と爆ぜる光景に息を呑む。夜の帳を鮮やかに焦がすその輝きは、まるでフィナーレを飾る大輪の花火のようだ。


  しかし、その一つ一つは俺が計算して引き起こした「死の破片」に過ぎない。爆風に煽られ、火の粉が雪のように御門の頭上へと降り注いでいく。


 それだけではない、物量ではこちらに分があり彼の流星群・焔を打ち消し瞬く間に俺の流星群・爆が主人公君を襲う。少しアニマを使いすぎな気がしたが、流れを変えるにはこれしかないと思った。


 流星群、これは人を殺すための技。一発でも喰らえば間違いなく死ぬ。なのに……彼が死ぬ姿を想像することが出来なかった。


 ある意味、信頼の元放った技だった。これくらいで死ぬ男ではないと思ったからこその技。


 「――――我、ここに『喜び』を捨て、新たなる進化を欲する!」


 期待通り、俺が放った流星群・爆は彼の手のひらへと吸収されていく。


 「収納、手のひらで展開することでなんでも異次元に送ることのできる栄華の能力だ。冥途の土産に教えといてやる」


 無機質な声が聞こえてくる。先ほど二つの感情を捨てたせいだろうか、まるで別人のようだった。


 「じゃあ俺からも、俺の能力は『骸の王』、殺した相手の全てを奪う力。お前は俺に殺されて冥途にも行かせなくしてやるよっ!」


 その宣言と共に、周囲の空気が一変した。


 先ほどまで戦場を焦がしていた炎の熱気を塗りつぶすように、大和の足元からどろりとした漆黒のアニマが噴き出していく。

 

 夜の湿った空気は瞬時に凍りつき、吸い込むたびに肺の奥が裂けるような極寒の殺気が、一帯を支配した。

 

 感情を削り、進化を求めた主人公の輝き。


 死を積み上げ、全てを飲み込む王の暗闇。


 互いの理が激突し、夜はより深く、残酷に。今、この場所から「救い」という名の慈悲は完全に消え失せた。


───このゲームが終わるまで、残り2時間。


 

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