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第32話 異常事態




――――アーマト視点――――




 「……おかしい」


 現在、僕は主の様子を主の中から観察していた。観察していて一つ不思議な点が見つかった。


 「これが一之瀬大和……?」


 僕の知っている一之瀬大和はいわば甘ちゃん、人を殺すなんてそうそうにできる人間ではない。しかし目に前に写っている男は先程助けた人間を殺すと本気で言った。


 これは僕が知っている一之瀬大和ではない。


 「これは貴様の仕業か?……花音」


 問いかけながら、僕は隣に視線を向けた。そこに座る女――花音は、僕の問いに答える様子もなく、ただぼんやりと空間に浮かぶ『テレビ』を眺めていた。


 テレビに映っているのは、外界の光景。つまり、大和が見ている現実だ。彼女はまるでお気に入りの映画でも鑑賞しているかのように膝を抱え、瞳に青白い画面の光を反射させている。その表情には、自分が殺されたことへの恨みも、大和を狂わせたという罪悪感も、欠片ほども浮かんでいない。


 「何のこと?にしてもここ白いね、テレビ以外何もないじゃん」


 のんきに辺りを見渡していた。


 横に座っている女は、殺された人間の中でも異常だ。普通殺された人間の意識は能力の中に眠っている。しかし花音だけは僕と同様にテレビから主を見ていた。


 「ここは主の深層心理の中に空間を作っただけ、僕が何もしない限り白いままだぞ」

 

 「へぇ~、じゃあ変えよう。どうせ暇でしょ」


 急かすように肩を揺らしてくる。三半規管の弱さだけが僕の唯一の弱点なのでやめてほしいものである。


 「暇なわけないだろ、こっちは主の異常が気になる」


 流石にこれはおかしい、このままの方が都合がいい。だが理由が分からない現象に頼るわけにもいかない。せめて理由だけでもわかりたいため注意深く主を観察する。


 「変わったといえばそんな気もするけど、なんでだろう……」


 両手を組み真剣に考え始めた。が、すぐにあきらめてテレビに視線を戻す。


 (こいつじゃないのか……?)


 そもそも、僕には「知らないこと」が多すぎる。


 僕は主、一之瀬大和が花音を殺した瞬間に産声を上げた存在だ。主の肉体的なスペック、本来の性格、そしてこの監獄のシステムや「神」を自称する者たちの能力。それらは知識として脳内に刻まれている。


 だが、僕はこの女を何も知らないのだ。橘琴佳や赤羽優のことは知っている。これから主が会う予定の人間も悲劇も知っている。


 その僕が彼女を知らない。つまりイレギュラーな存在なのだが……


 (考えてもどうしようもないか)


 心配ではあるが、これだけ考えて分からない以上諦めて見守ることしかできない。


 「せいぜい足掻けよ」


 花音にも聞こえないようにつぶやいた。




――――一之瀬大和視点――――



 「……………………は?」


 主人公君の思考が、真っ白な空白に塗りつぶされる。


 あまりに現実味のない言葉。それを脳が処理しきれず、感情が追いつく前に、彼の口は防衛本能のように「確認」の作業を始めた。


 「俺たちを、殺す……? それが俺の願いを聞き入れるための、対価だっていうのか?」


 一音ずつ、噛みしめるように主人公君が問う。


 「そうだ、大人しく殺されてくれ」


 「はいわかりました、は無理だな」


 俺に警戒心を出しつつ即答してきた。思ったより冷静なことを言われて内心びっくりした。


 「じゃあ今ここで殺す」


 逃げ道をなくすことで強制的に選ばせる。口論が苦手なのが悟られたくないのだ。そもそも俺がこいつらより絶対強いなんて保証もない。半分賭けだ。


 「……俺たちが生き残る方法はないんだな」


 諦めるように呟く主人公君。


 「唯一あるとすれば……死体を回収した後に一之瀬くんを殺せばいいんじゃないかな?」


 ここで右側で大人しくしていた水谷がようやく口を開いた。水谷の言う通り、俺を利用して必要なくなったら処分すれば丸く収まる。


 「それでいい、好きにしろ」


 短く肯定し、近くに来た人間を殺すために席を立ち聞こえる場所に向かおうとしたが、東雲に止められてしまった。


  「これ以上、何人を殺せば気が済むんですか? ……一之瀬くん。あなたの目的は、一体何?」

 

 振り返り、主人公君達を見つめ告げた。


 「親への復讐、そのためならなんだってする」


 最初に比べれば気持ちは薄れているが、それでも親への復讐を忘れたわけではない。


 これ以上話すことはないと思い今度こそ人間の場所に向かった。 


 

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