第26話 大切な人
――――橘琴佳視点――――
深い、深い眠りの底から、私は引きずり出された。意識が浮上するのと同時に感じたのは、肌を撫でる不自然なまでの「静寂」だった。
普段なら焚火の音が聞こえるはずなのに、それすら聞こえない。
(見張りの人寝ちゃったのかな……)
辺りを見渡すと雷門と優ちゃんがいた。二人しかいなかったのだ。
(…………………………え)
何故いなくなった、いや今理由はそこまで大事じゃない。いなくなったという事実が重要だ。私は急いで二人を起こし、周りを探し始める。
「どこ行ったのよ……?」
「せめて目印でもあれば…………」
三人で川の付近を捜しているが、それらしい人影が見当たらない。
「…………あれ、なんだろ」
何故か木がいくつも倒れていた。まるで化け物が通ったように
「…………行こう」
怖い、行きたくない、そんな雑念が頭をよぎる。しかし同時に大切な人である二人を失いたくない気持ちが足を進める。
アニマを使い果たした身体は鉛のように重く、肺は焼けるように熱い。視界は霞み、いつもなら鮮やかに視えるはずの「光」も、今は泥のように濁って何も教えてくれない。
「……はぁ、……っ……ん……っ!」
嫌な予感しかしない。
さっき聞こえた、あの耳をつんざくような化け物の咆哮。そして、それを断ち切るように響いた……真っ白な静寂。
「あっ!」
「ちょっ大丈夫?!」
森の暗がりに足を取られ、派手に転んだ。湿った土と木の葉の匂いが鼻を突く。涙で視界が歪んで、もう前がよく見えない。
起き上がろうと地面に手をついた時、指先に「布」の感触が触れた。
「……え?」
それは、見覚えのある少し硬い生地。301号室で何度も見た、いっちーの制服の切れ端だ。
(いっちー……?)
その先を見ると、まるで行き先を指し示すような不自然な形で木の枝に引っかかるようにして結ばれていた。
焦って引きちぎったのか、端の方はボロボロに解けている。
「なに……これ」
どう考えてもこれは意図的に作られたものだ。じゃあなぜこんなものを作ったのか
「こっちに来いってことよね……琴佳、立てる?」
「………うん、行こう」
ここでやめるわけにはいかない。二人を連れ戻して、また幸せなひと時を過ごしたい。 もし、彼らに何かあったら、そんな妄想が何度も頭をよぎり涙が出てくる。泣いている場合じゃないのに、涙はずっと出てくる。
――――走る、乾いた枝を踏み鳴らしながら
――――走る、草むらを分けながら
――――走る、彼らが生きていることを信じて
――――走って、走って、走って、走って
ようやく、人影が見えた。いっちーだ。いっちーがいれば花音だって簡単に見つけられる。
――――この時、安心してしまった。彼を心の底から信じていたから、彼は仲間思いだから協力してくれると、安心してしまった。
それがすべて間違いだと分かったのは、私たちが話しかけようとした瞬間に―――花音を殺したときのいっちーを見た時であった。
――――一之瀬大和視点――――
花音を、殺した。手に残る感触が、それは現実だと教えてくれる。そんな感傷に浸ってると、彼女たちから悲痛な声が聞こえた。
「なん……で……」
琴佳を見ると、酷い顔になっていた。当たり前だ、仲間が、親友が殺されたのだ。そうなって当然である。
「―――――っ!」
赤羽を見ると、声には出ていないが俺に対する警戒が見れる。
「………………事情を話してくれ」
雷門を見ると、流石というべきか、思うところはあってもまず状況だけで決めつけず話し合いに持ち込もうとしていた。一番冷静だった。
「事情……か。そうだな、話してやるよ。それは―――」
――――ここからが勝負どころだ。覚悟を決めろ、甘さを捨てろ、全力で天野のお願いを遂行しろ。
それが、俺達を決別させることになっても




