第24話 天野花音 その2
「私……花音のことあんまり好きじゃなかったよ……なんなら今もそんな好きじゃない」
小学六年生の時の帰り道、初対面の雰囲気で分かっていたことなのについ自分の第一印象を聞いたことがあった。結果はご覧の通り、しかしこの時はそんなに落ち込んだ訳ではなかった。嫉妬されることには慣れていたから。というより勝手に琴佳ちゃんが私に嫉妬してると思ってたし。
「でも名前呼びはするんだね」
「……流石に2年間ずっと名前呼びお願いされたら、誰だって諦めるよ」
ため息混じりに話してくれる。
「聞いてもいい?嫌いな理由」
「うん、いいよ」
冗談のつもりで、軽く聞いたはずだった。だって、自分以上に自分を完璧にプロデュースできている人間なんて、この世にいないと思っていたから。
─────次に言われたことを、人生で忘れることは無かった。
「────花音さ……本音で喋ったことある?」
「───────────え?」
どうして、そんなことを考えているのだろうか。意味がわからないでいると、続けて口にした。
「私……花音が本音で喋った所見たことない。隠し事があるのはみんなそうだから隠されていることが嫌とかじゃないよ」
「……じゃあ、何?」
いつもより少し低い声が出た。内心琴佳ちゃんの言葉に少しイライラしたんだとわかった。今まで完璧美少女でいられていた……それなのに見抜かれてしまったことが少しムカついた。
「花音の場合……天野花音の全てに嘘をついてる。そんな状態の花音を好きになったら……本当の花音はどうなるの?ってこと……ごめん、上手く言えてないかも」
そこから琴佳ちゃんはどう言葉にしたらいいかとあれこれ喋っていたけれど───一切耳には入ってこと無かった。
今まで、考えたこともなかった。好かれる自分を作ってた。頼られる自分を作ってた。見てほしかったから、目立ちたかったから……そうしていた。そうすることで確かに私は人気者になれた。
……しかし彼女の前では意味をなさなかった。彼女に写っている私は、完璧美少女ではなく、ただの小学生なのだろう。
(……生意気)
心の中ではそんなこと言っても、顔が熱くなっていた。
正面を見たまま、彼女は告げる。
「……嫌いって言ったけどさ、尊敬はしてるよ。頭良いし、周りをよく見てるし、あと……私に話しかけてくれるし」
「嫌いなのに……尊敬……」
少し、わかる気がする。私は自分よりなにかに秀でている人が嫌いだ。
……でも、その人を認めていたところはあると思う。認めれないと、その人が秀でているとは理解できていないことになる。
「最後に────花音」
「っ!?」
そこに居たのは───微笑みを浮かべていた琴佳ちゃんだった。初めてみた笑顔に、この時は相当驚いたと思う。
「いつか……本当の花音と会って、本当の花音を好きになって───本当の友達になりたい。それじゃあ私こっちだから……また明日」
いつも通りの分かれ道で、いつも通りのペースで歩く彼女。しかし、いつも通りじゃなかったものもあった。
「………………」
もう、全身が熱かった。心臓がうるさいくらいに脈打ち、顔は火照って、まるで熱病にでもかかったかのようだった。
(あぁ……やばいなぁこれ)
ここまで来てようやくわかった。彼女を発言全てが嬉しかったのだ。私の建前を見抜いてくれたこと、尊敬してくれていたこと。
何より───私の本音を見て、好きになって、友達になりたいと言ってくれたことが、嬉しくてしょうがなかった。
言われたこと全部が初めてで……言われたこと全部が嬉しかった。
その瞬間、初めて特別が生まれた。
彼女の姿が見えなくなるまで───その場に立ち尽くしていた。




