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第20話 化け物




 「ぜぇ……、はぁ……っ、……っ」


 「アアアアアアアア」


 「もうっ……!しつこい!『幻想曲ファンタジア』!」


 「アアアアアアアア?」


 「これでっ……!少しはっ!」


 現在、化け物と出くわし交戦中だ。この化け物はとにかく硬いしパワーはあるし傷ついても直してしまう。核みたいなものはあるが、私程度のパワーじゃ肉体が硬すぎて核を貫通できない。なので時間稼ぎとして幻想曲を使用した。名前の通り幻想、これを聞かせることでしばらく幻想を見せる事が出来る。


 (……しばらく休める……かな)


 そう思い木の裏に寄りかかる。あの化け物と戦い始めて数分が経った。その間動きっぱなしだったせいで息が上がっていた。


 「アアアアアアアア!」


 しかし1分も持たずバレてしまった。いくら視界を惑わせようが匂いや音でばれてしまう。離れた場所から木が倒れていく音が近づいてくる。


 「あぁもう!――――『序曲オーヴェチュア』!」


 序曲オーヴェチュア、始まりを意味する技であり、ここからが花音の本当の闘い方が始まる。


 いつの間にか、彼女の右手には指揮棒を携えていた。


 「―――嬉游曲ディペルティメント


 瞬間、彼女のステータスが大幅に上昇した。五感は何倍にも敏感になり、筋力は化け物には劣るがそれでもアニマで強化された雷門と同等の力を引き出した。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 「ガガガガガガガガガガガガ」


 溜めた力を左拳に凝縮し、化け物の腹部——核の所在へ叩きつける。硬い外殻に拳がめり込み、骨を伝って鈍い衝撃が脳まで響いた。パーティの役割に分類するとサポーターである彼女にできる最高火力だ。


 「…………」


 「……止まった」


 核が壊れたわけじゃない、核の一部分に傷が入ったのだろう。無機物のように動かなくなった。


 (……急げっ!)

 

 ずっとこの状態が続くわけじゃない、次にしないといけないとを考えろ。


 さらに奥へと走る……みんなから離れるように。


 振り返らずに地を蹴る、どれだけ走っただろう、足裏が痛い。喉が熱い。でも足を止めるわけにはいかない、嬉游曲でステータスが上がってる今のうちに動けるだけ動かないといけない。心臓の鼓動が、終焉へのカウントダウンを刻んでいた。


 一度序曲を始めると3分しか持たない。おまけに3分経つと反動でしばらく動けなくなるため、彼女には時間がないのだ。


 「…………え」


 突如、彼女の体が宙に浮く。背中には激しい痛みを感じる。宙に浮いている間、後ろを見ると――─


 「アアアアアアアアアア」


 化け物に追いつかれていた……奇声を上げ、私の眼前まで飛んできて―――私の右目を切り裂いた。


 「い゛っ!」


 ドンッと地面と衝突した、ただでさえ先程化け物の一撃を受けた背中から落ちてしまった。────歩くことすらままならない。右目からは熱いものが溢れ、視界の半分が赤く染まっている。

 

 それでも、振り下ろされる絶望の腕を、私はただ見つめていた。


 (こ……きゅう……出来……ない……っ!)


 衝撃により呼吸が上手くできない。それなのに化け物は待ってくれず、化け物は待ってくれず花音に近づいてくる。


トドメを刺そうと化け物の腕が振り下ろされる─────刹那




 「アアアアアアアアアアア!!!」


 化け物の腕が吹き飛び、血が散乱する。そうして私の目の前には─────



 「─────遅いよ、いっちー」



 この世でいちばん頼りにしている男───一之瀬大和の背中が広がっていた。




─────十分前─────




  「……戻ってきたか」


 腹の底からじわりと熱が広がる。アニマの枯渇から丸二日。赤羽に話した通り、零時を過ぎてようやく俺の回路に「力」が還ってきた。


 だが、馴染みきっていない。全力で回せば、またすぐに焼き切れるような危うさがある。


 (……それでも、行くしかねぇよな)


 遠くから化け物の奇声が聞こえる。おそらく予定通り、天野が一人で相手をしているはずだ。


 昨日の夜、彼女と交わしたあの「お願い」が脳裏をよぎる。


 脚にアニマを集中させ、爆発的な踏み込みで地を蹴る。枯渇明けの身体には酷な衝撃だが、構わず全力で走る。


 何本か木が折れる音を聞いた気がするが、構っていられない。


 走って、走って、走って──ようやく、血の匂いが漂う戦場へ辿り着いた。


 視界に飛び込んできたのは、天野が殺される寸前の光景だった。考えるより先に、俺の身体は弾かれたように跳んでいた。


 「アアアアアアアアアアア!!?」


 化け物の腕を、愛刀が一閃。


 硬い外殻ごと切り裂かれた腕が宙を舞い、赤黒い血が夜の森を汚す。


 「─────遅いよ、いっちーくん」


 「悪い。……でもいいだろ別に、生きてんだから。立てるか?」


 「この状態の美少女に立てとか……いっちー以外誰も言えないよ」


 俺の肩を借り、右目を押さえながらも天野が起き上がる。その傷を見て、俺の奥歯が軋んだ。右目が深く裂かれ、鮮血が彼女の顔を伝っている。


 「……動けるか?」


 「無理に決まってるじゃん。アニマはギリギリ。立ってるのもやっとだよ……でも、いっちーのサポートくらいなら、意地でもやってあげる」


 「あぁ。……頼んだ」


 ようやく還ってきた俺のアニマと、彼女が命懸けで作ったこの隙。無駄にはしない。


 化け物が千切れた腕を再生させながら、怒りに狂った咆哮を上げた。


 俺はアニマで作った刀を正しく構え直し、『灯』でその「核」を見据える。


 そうして……化け物との、真の最終決戦が幕を開ける。

 




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