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【完結】王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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19.戦いのはじまり

「――悪いが、ここで倒す!」


 クロウ先生の指先から、目に見えない突風の弾丸が放たれる。

 メリッサは身をよじって攻撃を避けるが、風の弾丸は背後の壁に鈍い音を立ててぶつかった。

 古びた遺跡の壁がガラリと崩れて、穴が空く。


「ルーナ、こっちへ!」


 壁に空いた穴を通って外へ逃げようということだろう。

 固まっていた体をなんとか動かして、私はクロウ先生の手を掴む。


 しかし、次の瞬間。

 

 私の体は、強く後ろに引っ張られる。

 体に巻きつくのは黒くうねうねとした髪だ。


(なんで!? さっきメリッサの髪は切ったはず――)


 咄嗟のことにうまく反応できず、受け身も取れないまま私の体は地面に叩きつけられた。

 

 私の手を引いて穴の向こうに逃げようとしていたクロウ先生が、慌てたようにこちらを振り向くのが視界の隅に見える。


「逃がさない……!」


 クロウ先生の背中を追いかけていくのはメリッサだ。


 私は痛む背中を擦りながら体を起こして、目の前を見る。

 メリッサがクロウ先生を追いかけていった今、そこにいるのはただ一人。


 メディナちゃんだ。


「オブシディアは私の新しいお兄ちゃんなの……」


 私を睨んでメディナちゃんは言う。

 

「ルーナのおかげで会えたから、お礼を言おうと思ったのよ。こんなことのために呼んだんじゃない!」


 私はメディナちゃんの視線を受け止めながら、立ち上がる。

 

「ごめんね。でも譲れないの」


 言い訳の言葉はない。メディナちゃんの気持ちもよくわかる。

 だからこそ私は指先に魔力を込める。


 きっと話し合って、答えが出ることじゃない。

 そうなったらもうあとは奪い合いだ。

 

 私とメディナちゃんは、これから大切な人をかけて戦うのだ。


「悪いけど手加減しないよ。炎の弾よ!」


 先手必勝とばかりに、私は手のひらから火球を出してメディナちゃんの立つ場所に打ち込む。

 メディナちゃんは華麗に飛び退き、その赤い瞳で私の目をまっすぐ射抜いた。


「ルーナなんか石に――ならない!? どうして……!」


 硬化魔法を使われたようだが、服の下に身に付けたお守りがそれを弾いてくれた。

 私の体を包む呪い除けのメイルが、ほんのりと熱くなっているのを感じる。


 硬化魔法何回ぶん()つかわからないけど、これならまともに戦える。

 

 怯まない私を見て、硬化魔法では効き目がないと悟ったメディナちゃんは、再び攻撃の主体を髪に切り替えた。

 長い髪がひとまとめに尖って、私の喉元を狙う。


「これなら……どう!?」

「――っ!!」


 身をよじって急所は避けたが、鋭い髪の槍が私の肩を掠めた。

 皮膚が破られる痛みに、私は思わず声にならない声を上げる。


「風のムチよ。メディナちゃんの髪を留めて!」


 しかし私もやられっぱなしではない。

 反射的に出した風のムチを使って、なおも攻撃を続けようとするメディナちゃんの髪を、ぐるぐると縛り付ける。


 メデューサは風魔法に弱い。

 強度のあるムチで縛り付けてしまえば、簡単に拘束は解けないはずだ。


 メディナちゃんは痛みに耐えるように顔を顰めながら、自分の髪を引っ張る。

 なんとかムチを解こうとしているのだ。


 私も負けじと、ムチを持つ手に力を込める。


(状況は悪くない。けど、さっきの傷が……)


 斬られたばかりの肩の傷が痛む。

 これでは、手にうまく力を込められない。

 拘束は解けなくても、力で押し負けるのは時間の問題だ。


「水の網よ――万物を押し流すうねりの源よ……!」


 強硬手段に出るため、私は手も塞がったままだが、魔法の詠唱を試みる。

 意識を視線の先、メディナちゃんの足元に集中させた。

 そこから、ふつふつと水が湧き出してくる。


 コントロールに自信はなかったけれど、これならいける。

 髪に気を取られている隙に、メディナちゃんの体も拘束して、部屋の外へ押し流してしまおうという魂胆だ。

 

 一瞬はうまく行ったかに見えた私の魔法だが、メディナちゃんは湧き出す水を見て顔色を変えた。


「ふざけないで……! ふつうの魔法で、あなたが魔物(わたしたち)に勝てるわけない!!」


 次の瞬間、メディナちゃんの足元から火柱が立ち上がる。

 詠唱もせずに、私が使える魔法の最大火力を優に超えるような威力の魔法を使ってみせたのだ。


 私が出した水の網なんて一瞬で蒸発してしまう。

 眼前に迫る熱気に怯んだ私は、そのままメディナちゃんの力で引っ張られる。


「――きゃあ!?」


 かろうじて、風のムチを握る手は離さなかった。

 メディナちゃんの体もろとも、私は遺跡の部屋から転がり出る。

 その先に続くのは、私がここにやってきたとき通ってきた道だ。


 先に立ち上がったメディナちゃんは、髪に絡まったままの風のムチを解いて、私を見下ろす。

 体じゅう痛んですぐには立ち上がれない私に向けて、メディナちゃんは微笑んだ。

 

「わかったわ」

「なに……」


「オブシディアのことは返してあげる。代わりに、ルーナ……あなたがずっとここにいてよ!」


 彼女の瞳には、仄暗い愉悦が宿っていた。

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