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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*見失う未来4*

「なぁルカ…」


 目の前に座って不機嫌さを隠しもしないルカにルクは苦笑いを浮かべつつドリンクを渡すと、ルカは「何?」と、やはり不機嫌さを隠しもせず返答する。

 極一部の人間達しか入れない秘密の部屋で行われた極秘の作戦会議が終わると同時に、ルカは運営士官たちに「役立たず」を連発した。

 攻撃的な台詞と態度には、長い付き合いのルクですら辟易したのだが、言われても仕方がないのも事実なので、頭をかくだけで何をすることも出来なかった。

 二人は今、破損したヴィマーナの修理にかり出され、ブチブチ文句を言いつつも手先の器用なルカはルクの倍は働いていた。


「言いたいこととかあるなら、言ってよ。ただでさえ暑くてムカつくし、作戦内容もムカツクし、とにかくムカついてるんだから」

「………」

「今さら物怖じする方じゃないでしょ、ルク兄!」


 半ば怒鳴られていっそすっきりしたルクは思考を切り替えると、ルカの体中から発散される不機嫌さを黙殺する。


「さっきの話の続きだけどさ、結局、女帝の子供は帝位を継いだんだろ? で、その後はその皇帝も死んで今はあの女帝が帝位に就いてる……第一王子はどうなったんだ?」

「ルク兄……いくら現場重視の軍人でもさ、自分が敵対している国の情勢くらいは頭に入れた方がいいんじゃないの? 女帝のお腹の上で死んだ皇帝がね、実は毒殺されたんじゃないかって噂もあって帝国内は揉めたんだよ。カトリーヌっていう元正婦人はウォーターリール王朝の唯一の血筋を引いていた人だし、皇帝はそのカトリーヌ正婦人の従兄弟だったんだ。で、二人の間に生まれたのが第一王子。王朝の血筋だし、本人も人柄なんかも良くて信望も厚かったみたいだよ。女選びには失敗したけどね。図式的には正当な王朝血統か、それともデュオンの血統かってことになって、皇帝が政務のすべてをデュオンに任せきりだったのが仇になって、最終的には目論み通り女帝が産んだ子が帝位に就くことになったけど、それに納得できなかった人間達と揉めて、それが水戦争の引き金になったってワケ」

「なるほどな。正婦人が月に逃げ込んだということで、女帝は月に軍隊を送り込んだ……で、その第一王子はどうしたよ?」


 飲み残しのドリンクを砂の上に垂らしてルカは笑う。

 その笑いはつい先日も目撃した、あの背筋が凍りそうな笑いだ。


「自殺した。内戦が起きて直ぐにね。本当に自殺したのかは謎だけどね。生きていたら、パパと同じ年くらいの人らしいよ」

「ということは、女帝とも同じ年か」

「うん。パパと女帝は双子だからね。だから尚更、カトリーヌ正婦人はやりきれなかったんじゃない。息子と同じ年の子に愛情も、自分の地位も何もかも奪われたんだしね、それにしても暑い!」


 その後、もう少し話をしようと思っていたルクだが、整備主任であり現場総監督であるボブに「サボるな」と怒鳴られ「俺は一応、艦長代理なんだけど」との反論もむなしく、ルカと二人、暑い砂漠の砂の上をゾンビのように歩きながら、夕暮れ時までこき使われた。








「聞いたわよ、というよりも持ちきりっていった方がいいのかな?」


 声とともにドリンクをテーブルに置いて、何の許可も得ずに自分の目の前に座ったマリーに対してアッシュは軽くため息をついた。

自分も休憩時間で、ここにいるということはマリーも休憩時間なのだろうから、別に食事に来るのは構わないが。


「また来たのか、マリー」

「ええ。艦長代理の命令ですから」


 ここ数日、毎日繰り返される会話をまた繰り返す。

 マリーはアッシュと同艦に乗務しているわけではなく、アッシュが乗艦しているレッドストーンの護衛艦パープルレインに乗艦しているから、そうそう毎日、当たり前のように顔を見る存在ではない。


「艦長は……まだか?」

「ええ」


 マリーは短く頷くとテーブルに置いてあったドリンクに手を伸ばしゆっくりと飲み干す。

 パープルレインの艦長は、ある作戦の失敗を問われて、宇宙艦隊の本部にその身柄を拘束されている。

上層部は失敗と言っているが実は見せしめという見方もあり、アッシュの上官などは一刻も早く謹慎を解いてくれと必死に上申している。

 レインに派遣されてきた艦長代理は、人間的に疑問符の付く人物ではあるが、その地位の高さでは誰も足元に及ばない事も手伝って、レインの艦内は一種の緊張状態にある。

 その艦長代理が女性であるマリーを軽視して連絡係という名の雑用一切を押しつけられている。

 軍曹という立場でありながら、本来ならば兵長クラスがしていた仕事も「艦長代理」命令だと言われて。

 成績優秀で理知も自制心も人一倍持ち合わせているマリーは、女性であるというだけでステラになれず、あれだけ前線で活躍していたにも拘わらず、女性であるというだけで後方にまわされた。

 そして今また、女性であるというだけで艦長代理やその取り巻き連中のいい標的となりつつある。

 それでも不満一つこぼさないのだから、尊敬を通り越して呆れるほどの自制心である。


「お前も大変だな、マリー」

「いいわよ、別に。こんなことたいしたことじゃないわ、アッシュ。毎年、毎年、年の恒例行事となった家への査察に比べたら。それにね」


 ほんの少し悪戯っぽくマリーが笑う。


「私にとっても都合がいいのよ、色々と。それよりも聞いたわよ、アスランのこと」


 ごまかせるとは思っていなかったが、その話を持ち出されて食事していた手が止まる。


「かなり前から本部では話が出ていたんですってね……あいつ。どうするんだろう」

「どうするも、こうするも俺たちに出来ることは何一つもない……俺だってなんとかしてやりたいけどな、こればかりは俺達にはどうにもならない」


 マリーは何かを言いかけたが、思い直したように口を噤むと「時間だから行くわ」と立ち上がった。

横を見れば彼女を捜してしたらしき人物が敬礼している。


「お前も…がんばれよ」

「ありがとう」


 柔らかく笑ってマリーは今度こそ、その場を後にした。







        言葉は呪縛そして女神の呪い





「助けて……!」


 その声を発したのは自分なのか、それとも夢の中のあの人なのか。

 でも目を覚まさずには居られないほどの音でルリの耳に届いたのは悲鳴に近い声だった。

 ここ最近、よく見るようになっていた夢は、いつも強引にルリの目覚めを促した。


 二年前からよく見ていた夢は、薄れることなく鮮明になり、そして遠くで聞こえていたはずの声はより一層、近くで聞こえるようになった。

 静まりかえった広くもない部屋の中は、夜かと思えるほどに薄暗く一層、ルリの陰鬱とした気分に拍車をかける。

 月を出発する際「快適さとは無縁かもしれないが」と前置きしてルリとルカを居住区に案内したルクに「戦艦内の居住区に快適さを求める方がおかしいよ」と、ルカが笑った。

 通された部屋は確かに快適さとは無縁な気はしたが、ブルームの廃墟の中で生活を強いられている人間達に比べれば遙かに快適だと思えた。

 部屋は狭かったが、簡易でありながらもベッドは適度なスプリングを保っていたし、毛布も清潔なシーツもある。

 ルリやルカが過ごしてきた生活からはかけはなれた環境ではあるが特段文句を言う気もなく、また文句を言える立場でもないと思っていた。

 地球に降下してすぐに、ルリとルカはその一般乗務員用の部屋から、艦橋に近い戦闘要員用の居住区に移ることになった。

 体力の維持と回復を何よりも優先すべき立場となる戦闘要員用の部屋に置かれたベッドは快適なものに変わり、専用のスペースも持てるようになった。

 その辺りから、より鮮明に様々な記憶が夢となった。

一人押し込まれた部屋の中で反響するのは、自分の悲鳴とため息だという現実に、ルリはどう対処していいかも解らないままだ。

 起床にはまだ早い時間ではあったけれど、目をつぶれば先ほどまで見ていた夢が再び意識を支配しそうで、それが怖い。

 今起きてもまた、いつものようにこみ上げる気持ち悪さが襲い来るのが解るから、それも怖い。

 ルリはベッドから体を起こすと、いつものようにシャワールームに直行した。

 吐き出したいものを堪えることにも、吐き出すことにも慣れつつある。

 その慣れた感覚が自分の何かを壊し始めていることに、ルリは気付かない振りをして、鏡の前で微かに笑った。


(大丈夫、まだ平気。私はちゃんと笑えてるから…)


 言い聞かせた言葉の虚しさをルリ自身が一番、理解していた。

 






 戦闘にならなければ戦闘艦内でやることなど程度が知れている。

 それでも移動をしているであるとか、重大な任務の遂行中であるのならばまだいい。

 神経を常時張りつめることによって一定の緊張感を保つことが出来る。

 そして、それに伴う雑務に忙殺されれば余計なことなど考える暇すらなくなる。


 動かしたくても出来ない状況下にあるヴィマーナの中、中途半端に時間を持て余し、中途半端な疲労感と倦怠感にさいなまれているルクとラシエルは同時に気怠そうにため息をついた。


「……随分と思い切った作戦に出ることを決めたものですね……あちらも」

「まあ、な。でも正攻法でも駄目なら裏取引、それでもだめなら……というのは、常識ですよ。なんて言われたあげく、これは貴国の意志でもありますよとまで言われたら、下っ端の俺たちには反論できないしな」


 先日のラシードからもたらされた作戦を聞いたときには誰もが難色を示した。

はっきりと顔に出した者もいたが、その視線にすら動ぜずラシードは悠然と笑みを浮かべ「当然のことですよ」と言い放った。

 それを聞いてルクは、自分はやはりそっち方面には向いていないと首を振った。

 ルクの父親であるエイドリアンが、何枚もの舌を軽やかに扱い、難なく腹芸を披露出来るくらいならば、今頃、実の父親の手によって軟禁されたあげく、処刑も間近などという命の危機にも面していない。

 弟のアスランにしても連邦軍の兵士になどなっていないはずで、それを思うと父に似たのが幸いなのか、それとも悪魔の二〇枚舌ともまで称される祖父に似なかったのが不幸なのか判断が付きかねる。


 子供であったルクの目から見ても、父は素朴な人間で、何枚もの舌といくつもの腹を使い分けるような人物ではなかった。

 その辺りの性格は、弟であったアスランも良く似ていたものだ。

 ルクは自身を問われたら楽天的な母のアシェリーナに似たのだと思う。

 記憶の中の母という人は楽天的でいつも明るく、よく笑い、そして家族を誰よりも愛していた人だった。

 あの楽天的な部分をアスランが、そして父の素朴さをルクが継いでいればバランスが取れたのかもしれないのにと、父のエイドリアンはよく言っていた。


 ここ数日、余計な事を考える時間を持てた分、ルクは家族のことを考えるようになった。



 前から家族のことを忘れていたわけではない。



 父のことも、アスランのことも気にはとめていたのだが、自分の手に負える問題ではなく、また自分が手出し出来る立場にはいなかった。

 だから、敢えて考えないようにしていた。

 巻き込む形になってしまったルリとルカのこともある。

 ブルームのこともある。

 目先の事だけに囚われざる得ない状態にあったのだが、父が処刑されるかも知れないと聞かされれば、そちらに気を取られるのも仕方のないことだ。


「でも、いいんですかね……」

「いいも、悪いも。俺たちには口出す権利はないさ。それに、今の状況じゃ作戦ひとつ満足に遂行出来ない、役立たずなんだぞ、俺たちは」

「そんな、はっきり言わないで下さいよ、先輩」

「役立たずは、役立たずだろ、仕方ない」

 

 自分たちの置かれている状況はラシエルも理解しているから、その口から出てくるのは愚痴に近い。

 ルク同様に政治的な裏取引に疎いラシエルは今回の作戦についてはどこか承服出来ないでいる。


「ラシエル、気持ちを入れ替えろ。今さら正攻法でやったところでどうにもならないことだってあるさ。現に正攻法でやってブルームは二年前も、今もこんな状況なんだからな。それに今回の作戦が成功すれば、ブルームは正々堂々と帝国や連邦とやり合うことが出来る、他の国の賛同も得ることが出来る。それは大きい」

「理屈ではわかるんですけどね……」


 ここ数日で心配性に磨きが掛かったラシエルはやはり納得出来ない、上手くいく訳がないという疑心暗鬼も手伝っていささか抜けたような返答した。

 それを横目で確認し、ルクはここまで来てしまうともうどうにでもなれとばかりに、作戦自体については文句を付ける気にもならなかった。

 逆を言えばすっきりとしたくらいだ。

 上層部が決めた決定事項であるのなら、部下である自分は従うのが義務である。

 そして何か不都合が合ったときに対処するのが上に立つ人間の義務だ。 

 気分までもが暗くなりそうな発令室で聞かされた話は、ルクのみならずラシエルも、そしてその場に同席を命じられたルリやルカをも震撼させて、そして驚愕させた。

 自分たちが月にいる間に思っていたよりも国際情勢は急速に動いていて、ブルームはあと一歩で主権をその手にすることが出来る状態にいた。 

 同時に連邦軍と一戦を構えざる得ない可能性が飛躍的にあがっていた。

 その話に付随するように、ルクは父が連邦内でのテロを支援し反乱軍を組織していたという理由で軍事裁判にかけられ処刑を宣告されたことを聞かされた。

 軍籍でない身の父が、何故に軍事裁判にかけられなければならないのかという素朴な疑問は、当然誰しもが思っていたことであったが、それを察したようにラシードは揶揄を含んだ瞳をルクに向けて「何を今さら」と事も無げに呟いた。

 その瞳の色に居たたまれなさを感じるルクにお構いなしにラシードは今後の対応を淡々と説明していった。



『疑問も不満も何もかも。それらは全て貴国の担当者に聞いて下さい。そして聞きたければ今は我々の指示に従って貰うしかありません。生き残って自国に帰らなければ意味はなさないのですよ。余計なお世話ではあるでしょうが、貴殿にも、そしてこの艦にも、もっと言えば貴国も考え方を改めた方がよろしい』


 と、正論で締めくくられルクには何も言う事が出来なかった。


「ブルームは……俺の口から言うのも何だけど、氷の上にあった国だ。外交努力だけで持っていた方が奇跡だと思うくらいにさ。ラシエルだって気が付いていただろ。アンバランス過ぎたよ、確かに。その歪みが今だ。俺たちが学生の頃に地球の至る所で内戦や紛争があることを教えられたことはあったか? 月との同盟関係について詳しく学んだことはあったか? デュオン一族であるはずのカーディナル家とカーディナルフェル家がブルームに居て、その政治面を担っていたことも……よく国として成り立っていたと今さらながらに感心する……ブルームの平和は危うすぎた」

「考え方が甘いと言われるのは確かにそうかもしれません。……でも、ブルームだってコクーンや月との付き合い上、仕方のない事もあったはずですよ」

「全部を否定してるわけじゃない。だけど、そのやり方を間違えていたというのも一理だ。コウキ代表はそれを二年前イヤと言うほど認識したはずだ……だから今回ばかりはある程度、形振り構わないというスタンスをとるつもりなんだろう。あの人達の覚悟は半端じゃない………それは解るんだけどな」


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