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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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35/59

*待ち受ける現実3*

 そこかしこが崩れて外の光が燦々と降り注ぐ昔の遺跡とまではいかないが、それでも、十分に補修が必要とされる建物の廊下を、立派な体躯を黒いスーツに身を包み、その上に羽織ったコートの裾をなびかせ、数人の供を連れて歩いていたコウキは、瓦礫に目をくれることもなく、ただその長い通路を歩いていた。


 二年前、この廊下を通ったのは侵攻のあった前日で、亡きブルームの代表責任者であったコウキの父は、この建物の中で数人の腹心の部下とともに稼げるだけの時間を稼いだ後、攻め込んできた帝国軍を道連れにして自決した。

 遺体は帝国の手により晒されて、コウキは父をモニターから見つめて、こみ上げてくるものをぐっと堪えていた。

 自決が正しい道であったとは思えないが、だが完全に否定をしてしまう気にもなれない。

 父は父なりに考えてその道を選んだのだ。

 後に生き残った人間達に、国の未来を託して。

 その未来を今、コウキは必死に模索している。


 通路の先で、一人の見知った女性が黒いスーツに身を包み頭を下げて立っているのを見つけると、今度は別の意味で緊張がコウキの体を駆け抜けた。



「公爵に移されたダイ様は今のところは無事です。ですが救出には少々時間がかかりそうです。アペラに関して、ある噂を耳にしましたのでそれをご報告に参りました。それと、かの国が非公式ではありますが回答をしてきました。暫定政権樹立に案に協力すると」

「では…黙認するということだな。アナ、お前はこのまま連邦のアペラ救出に回ってくれ。ダイの救出は組織に一任する」

「わかりました。それから、ルクからの報告ですが、ルリ様とルカ様に……アペラの話をされたそうです。そして、女神の話もされたそうです…」


 アナの口から出た女神という単語に、コウキは微かに柳眉をあげたが、すぐに表情を引き締める。


「そうか…。私はこれより議会に向かい支援と指示を訴えてくる。……まあ、議会といってもなんの拘束力もないから、結局は連邦の言い分のまま、敵が帝国から連邦に変わるだけだがな。だが、連邦に対して多少なりとも反発を感じている国がそのまま静観していてくれるなら、これほど有り難いことはない。コクーンの方はルル総帥がなんとかすると言っている……」

「お聞き及びかとは存じますが…身辺、お気をつけください。コウモリが飛び交っておりますから」

「やっと母国の地をこうして堂々と踏みしめられるんだ。ここで殺されてやるつもりはない」

「…では、失礼します」


 アナがその場から立ち去るのを見送ってから、その扉の前に立つとコウキは吸えるだ下の空気を胸に吸い込んだ。

 目を閉じてから覚悟を決めると、その扉を開き、部屋の中に足を踏み入れた。

 コウキの護衛としてついていた男達は、この場がどういう場であるか理解していたので、彼にそっと頭を下げると「こちらに控えております」と告げ扉の前で立ち止まる。

 その言葉に軽く頷くことで謝意を示すと、コウキは部屋の扉を閉めた。


 庭に面して設けられていたこの書斎は、角に位置していることもあり三面を大きな窓ガラスが支配している。

 そして、いざというときにはそこから出て、庭にある避難経路に出るための出入り口がこの書斎の机の下にあるのだ。


 二年前、彼の父は屋敷うちに残っていた、コウキの妻と二人の娘をその避難路から逃がした後、交渉に応じるふりをして時間を稼いだ。

 突然爆撃を開始してきたのだから、帝国もはなから彼の父を殺すつもりであったに違いないのだが。

 結局、コウキの父のキリアは自決、逃げた妻と娘も帝国軍に見つかり激しい暴力と、考えるのもおぞましい蹂躙を受けて殺された。

 娘に至ってはあの男リデリオの慰み者にされたのだ。

 帝国はコウキを捕まえるべく数限りない手を講じ、その中には二人の娘がリデリオや他の人間達に蹂躙される映像があった。

 必死に泣き叫んで助けを求めていた娘達が、最後にはすべてを諦めて瞳に光が失われる様が…。



 父として、夫としてどれ程に非力を感じたことか。



 今でもあの映像が目の奥に、娘の叫び声が耳の奥に、すべてを諦めてしまった瞬間にあげた絶望の、慟哭にも似た声が心に突き刺さったままだ。

 出来ればこの手であのリデリオを生きたまま切り刻んでやりたい。

 あの女帝のすました顔に傷を付けてやりたい。

 とにかく、この手で二人を、そして帝国の人間達を皆殺しにしてやりたい。

 だが、夫としてではなくそして父としててはなく、公人としての立場をとってしまった自分にはそれが許されないのだと、誰かに言ってもらいたい。



 初めてあったルリとルカを、あの二人をどれほど羨望したかわからない。



 同じ子供の立場でありながら自分の娘はリデリオの手により蹂躙され、たくさんの男達に汚された上で、自らその命を絶ってしまった。

 なのに、コウキの目の前にいるルリとルカは守られ命の危機もないまま、そして汚されることもないままに、こうして息をしている。

 様々な理不尽さで押しつぶされそうだったときに、知らされたルリとルカの事実に逆にコウキは打ちのめされた。

 自分の父が自決の際、すべてのことを後進に残したことを恨んだほどだ。

 そして、泣いたのだ、ルリが。

 コウキの娘がルリと同じクラスで、ルリにとっては数少ない親友であったから、ルリはそれを知ったとき、コウキの体に抱きついてそれこそ慟哭した「どうして、どうして」と何度も呟いてただ、ただ、泣き続けた。

 年頃の娘の泣くところなど見たことなど無かったコウキは最初、面を喰らった。


 それと同時に、ルリの姿を娘に置き換えた。 


 もし、娘が自分の友達の身に起きたことを知ったなら、やはりこうして泣くだろうと。

 そしたまた、この国に未だ残されている同胞達や子供達の未来を思うと、立ち止まることなど出来ないのだと悟った。


 妻の、そして娘への懺悔の念は、生きていればいつでも、それこそブルームを再興してからいくらでも出来るのだ。

 ただ、どうしても。

 自分の幸せの象徴であったこの屋敷を取り壊す前に、一度だけでいいから訪れたかった。








「思った通りの回答をしてくれたわねドーマスカーは。スネに傷を持つと大変ね…この話を聞いた時のドーマスカーの顔が、容易に想像ができるわね」


 フラーミングは悠然と微笑みならが、部下の報告を聞いた直後にそう呟くと、その脳裏に想像したのであろう、楽しげに含み笑いを漏らした。

 王宮の日当たりの良い部屋は室内だというのに花で埋められ、人工のものとは違い花が本来持っている甘い芳香が充満している。

 埋め尽くされた花の中、体に白いガウンを身につけただけの姿で数人の侍女達に傅かれながら、美しい体をより美しく保つためのマッサージを受けていたフラーミングは、自分の腹心の部下であるアレンからの報告に気を良くしてか、それとも自分のお気に入りの場所でのマッサージでリラックスしたおかげなのか、いつもよりも柔らかな空気を纏っている。


「兄上が螺旋階段を壊すために用意したのが、あの男の息子だとは、よもやドーマスカーも思わなかったでしょう。教えてやるつもりもないけど」

「陛下…実はその事でご報告があります。ドーマスカーが自分の腹心にルリ様の暗殺を命じたそうです。」

「自分の後継者候補をデュオンの血筋に渡してなるものかって事かしら? 滑稽だわ。それだけは兄上を誉めてあげたいわね……それにしても、トーマスカーは相変わらず姑息な男ね。まあ放っておきなさい」

「よろしいので?」

「あの男には何も出来ないわ。何かが出来ているなら、スネに傷なんてつけていないもの。それにいざとなれば黄昏が林檎のためになんとかするでしょう。それよりも、議会の方はどうなの?」

「それにつきましては、午後からの院会で担当者より詳しいご報告をさせて頂きます」


 横で静かに佇む部下の顔を見上げて、その顔から報告を悟ったフラーミングは今までの笑みを瞬時に納めると、軽くため息をつく。


「思わしくないということね。本当に役に立たないのが多くて困るわね。もっとも役に立つようじゃ、それは、それで困れど」

「リデリオの身柄は明日、公爵に移されます。本当によろしいのですか」

「あの男にも少しは役たってもらわないと。それにどうせ落とす命なら、落とす前に少しでも役に立ってもらいましょう。笑えるわね、あの男。自分の快楽を追求するばかりで愛人としても最低だったし、王室の人間としても役に立たなかったのに、戦闘では役に立ちそうなんだから」




 連邦軍の旧ブルーム共和国に在留していた帝国軍に対する総攻撃を間一髪でかわし、何事もなく母国に到着したフラーミングは、日をおかずにリデリオの処遇を王制議会にかけた。


 ウォーターリール王朝は絶対君主制ではあるが、元老院と貴族院とで議会を形成している。

 この場において国王の声は絶対であるが、二つの院にも拒否権もある。

 その辺りは理解しているから、対立をするよりは懐柔をした方がよいと判断した場合はもちろん懐柔するし、折れた方が得策だと思うときには、折れることにしている。

 そうすることで、彼女はこの帝国内で絶対的権力を手にすると同時に、圧倒的な存在感と、国民の心を掌握することに成功している。


 フラーミングは議会と国民に向けて「リデリオに関しては、亡くなった先代の親類として、数限りない王室の人間として王室には不適正だとしても、王室の名誉のため、亡き国王の名誉のために目をつぶってきたが、国益にならないことを、国を預かる者として、王室の人間としてこれ以上、見過ごすわけにはいかない」と断腸の思いで、処遇を求めるのだと議会にかけた。


 リデリオが過去にフラーミングの愛人であった事実は公然であるから、最初は「はい、そうですか」と諸手をあげて賛成や賛同する者はいなかったが、時同じくしてリデリオの行いが、この時を待っていましたとばかりに、次々に明るみに出た。

 これに対しても国民は、許される行為でないことはもちろんだが、この時期に明るみに出たのは王室のリークだと勘ぐった矢先に、帝国にとっては由々しき事態として大騒ぎとなったのは、リデリオがルリとルカを前国王の烙印と偽って国民を騙しただけでなく、ルリを妻に迎えて自分が国王に就任しようとしたという謀反が発覚したのだ。

どんなスキャンダルよりもその事実は、国民感情を逆撫でするには十分であった。



 そして数日前、フラーミングは国民の要望に応えて、リデリオの処遇を発表した。



「リデリオ殿下の称号を剥奪し、その身柄をデュオン家が管理する公爵に預ける」というもので、デュオン家が管理する公爵というのは、帝国内にデュークと呼ばれる地方があり、この地にあるロックと呼ばれるデュオン家が所有している城は、別名死人の岩と呼ばれデュオン家の繁栄の影のすべてがある場所である。

 そこに預けられるということは、一生を監獄で暮らすという意味に他ならず、リデリオは事実上の「死」を宣告された。

 リデリオの一件が片づかないうちに、今度は王室とは時として一線を置く元老院が、リデリオが祭り上げたルリとルカの事を持ち出してきた。

 それに対してフラーミングは、双子の兄が存在していること、兄はデュオン家の慣例に従い分家のカーディナル家に養子に出されたこと、ルリとルカはその兄の子であり自分とは姪と甥にあたり、デュオン家の血縁ではあるが、王室とは全く関係のないことを、包み隠さず発表した。

 ところが、その事実は月政府と復興を目指すブルームにとって事をややこしくすることになった。


 フラーミングは、地球圏国際議会の議会場へ直接で向き、帝国がブルームに侵攻したのは、帝国内で多発していたテロが、とあるテロ組織によって行われており、その組織に支援しているのが月と一部のコクーンであり、再三に渡り支援の中止を訴えていたにもかかわらず、月はその対応をしなかった。

 しかも、その支援者の中には、ブルーム共和国の民政委員の数人の名前があることも独自の調査で判明し、その組織の人間がブルームに滞在している事実も突き止め、ブルーム共和国に対して身柄の引き渡しを要求したが拒否され、帝国としては国内の被害を考えたとき、止む得ず攻撃となった。と説明した。

 ただ、その調査自体が帝国内で謀反を企てたリデリオが陣頭指揮をとっており、多少の不幸があったことも確かであり、帝国責任者として責任を感じると簡単に頭を下げた。

 一国の指導者が、責任者が公の場で頭を下げるというあまりにもセンセーショナルな出来事に、議会は紛糾したが、フラーミングは続けて「このように帝国側の落ち度は認めます。ですから、ブルームの復権について反対や異論などありません。もちろん被害の弁償も交渉していきたいとおもっております」と再び頭を下げた。

 連邦側は詭弁であると猛反発し、その反発の内容も詭弁ではあるが筋が通っており、月とブルームは今後の舵取りに苦慮していた。


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