「第4話」憂うつな帰宅
さきは、悲しみを胸にしまい何日ぶりかに登校した。
噂は駆け巡り、学校中で知られることとなっていた。
みゆはあまりの事態に声かけすら出来なかった。精一杯考えた挙げ句、さきの肩にそっと手を乗せるだけで席に着いた。
さきは、学校で何があったのか全く覚えていない。話しかけられてもうわの空だった。
帰宅しても誰もいない。お母さんはどこに行ったのか。。
ただ学校に行き、帰って一人ぼっち。
本当に一人ぼっちなんだ。。。
そんな生活が1ヶ月くらい続いたある日、帰宅すると、鍵が開いている。
さき「お母さん?」
しかし、中にいたのは取り立てだった。
取り立て屋「お嬢さん。この家は借金のカタで、もうお嬢さんの家じゃない。どこかへ行きな。」
さき「えっ?」
取り立て屋「この家で借金はチャラさ。お嬢さん。お嬢さんはな。もう自由の身だ。もう返済する必要もない。」
さき「あの。。お母さんは?」
取り立て屋「あいつか。。。言いたくないけどな。。。家は手放したくないから、娘を買ってくれってさ。いくらアコギな商売と言っても昔とは違うから、今の時代はそんなことはしないんだ。ずっと断わり続けたら、ようやく今日家を渡したのさ。いいかい?お嬢さん。あんな母親は忘れて、いい人生を歩むことだ。」
さき「そんな。。。」
取り立て屋「お嬢さん。あんたは、まだ高校生だ。俺達とは違って、人生やり直しは出来るんだよ。あんな母親忘れることだ。」
さき「お母さんはどうなったの?」
取り立て屋「。。。」
さき「教えて。お願い!」
取り立て屋「その。。何だ。あのな。あいつ、ずっと付き合っていた男がいたらしくてな。その男のところに行ったよ。どのみち別れるつもりだったそうだ。いいか、お嬢さん。あんな母親は忘れろ。あそこまでの人間は初めてだ。今まで、耐えたお嬢さんと、死んでいった父親に同情する。」
さき「。。。そんな。。。」
取り立て屋「お嬢さん。いいか!あんたの母親はな、自分で言いたくないから、俺にお嬢さんに伝えるのを条件に家を渡したんだ。お嬢さん、あいつがどんな人間か気づいてなかった訳ではないだろう?お嬢さんは幸せになるべき人間なんだ。こんなことは忘れてしまえ。。いいか、忘れなかったらお嬢さんは幸せになれないんだよ。絶対に幸せになれ。」と伝えた取り立て屋の目から涙がこぼれる。
茫然としながら、まだ信じられないさきはスマホを取り出すと、朝は表示されていたはずのアンテナマークが消えている。家族まるごと解約されたようだ。
取り立て屋「会って聞こうとかするなよ。お嬢さんのためだから。」
いくらアコギな取り立て屋とはいえ、あまりに可哀想なお嬢さんには同情した。母親には決して会わせてはいけないと感じた。
この人、たぶんいい人。ウソは言ってない。さきは理解した。
あてもなく、慣れ親しんだ、辛く憂うつだった悲しみの家を去るさきだった。