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スカウト

翌日ユウは2時半には、お店に来ていた。

さすがにこの時間に毎日出勤するかと考えると、本当に嫌気がさした。

何日か前まではあれだけ硬い決意があったのに、今はもう逃げ出したかった。今日が給料日じゃなかったら、今ここにいない自信があった。

今日もまだ日は高く、強い紫外線がユウの肌をさす。当然のように田村はまだ来ていない。

ユウはあきれながらもいつものように、外で田村を待つ。

田村が来たのは3時半。約30分遅れてきた。自分で言い出した事なのに相変わらず、遅れたことに対しての謝罪の言葉は一切なかった。暑さのせいもあってか、ユウは田村をぶん殴りたい気持ちで一杯だった。


田村とユウは駅前で、声かけを始めた。

スカウトはやってみると、結構きつい。ナンパもしたこともないユウにとっては、女の子に声をかけるだけでも至難の業である。

2時間ほどやっても収穫はゼロである。ユウのメンタルは完全に折れていた。

ユウは耐え切れなくなって、田村に話しかける。

「田村さん。どうですか?」

「ああっ。全然ダメだな。そっちは?」

田村は額の汗を、ワイシャツの袖で拭うようにしながら、繭をひそめて怪訝な顔をして言った。


「自分の方もダメです。」

「連絡先も聞けないのか?」


「はい。ゼロ件です。」

「情ねーな。」

田村はタバコを箱のまま口元に持っていって、起用に一本咥えると火をつけた。


「……。」

「俺は一応2人だけ聞けたけど、反応がいまいちだったから来るか分からないな。」

ユウはうそ臭いと感じた。いや、きっと嘘だろうと思った。

どうして、この人はこうやって嘘ばかりつくのだろうか?

ユウはわざとらしくズボンのポケットから携帯を取り出して時間を確認する。新着メールが一件来ていた。時刻は5時半を過ぎていた。


「どうします?そろそろ準備しないと…。」

「ああっ。収穫ゼロで戻るのかよ。準備は6時過ぎくらいからでも間に合うだろ。もうちょっと続けよう。」

「えっ。ああ…はい。」

開店準備をするのはユウ一人だ。田村は一切手伝ってくれない。遅くなってしまうと飯を食う時間もなくなってしまう。ユウは少し不満そうな顔をして返事をした。

それが気に食わなかったのか、田村がユウを睨みつける。


「何?嫌なの?」

「いや、あの…。でも遅くなっちゃうと…。」


「あっそう。じゃあ、お前先に行って準備しとけよ。どうせここにいても役にたたねーし。」

そういうと田村はベルトの横に吊り下げてある鍵をはずして、ユウに投げるように渡した。

「えっ。ああ。はい。」

ユウがそれを受け取って行こうとすると田村が呼び止める。

「まてよ。」

「!?。」

ユウが振り向く。


「あのさー。お前悔しくないの?俺にそんなこと言われて。」

「えっ。」


「だから、悔しくねーのかって?」

田村が語気を強める。

「それは…。」


「おまえさぁー。やる気あんの?」

「まあ、それはあります。」

ユウはカチンときた。そもそもやる気がないわけじゃない。だからこうしてきつくても仕事を続けているし、今日だって給料が上がるわけでもないのに、2時間も早く来ている。サービス残業だってどれほどやっったことか。


「じゃあ、どうして結果を出そうとしない?一生懸命やってるのかよ?」

一生懸命はやっている。今まで働いたことないぐらい働いている。未経験のわりには、結果も出している方だと思う。

「一生懸命やってますよ。」

ユウは珍しく強い口調ではっきりと言った。押し殺したつもりでも顔には怒りの感情が、あふれ出ていた。

田村は少しビックリしたようだった。ユウが田村に真剣な表情で反論するのは初めてだったからだ。


「…。あっそ。じゃあもういいよ。行って掃除でもしてろよ。どっちにしろお前の見た目じゃ、スカウトは無理かもな。」

田村は馬鹿にしたように笑いながら、右手を裏にして犬でも追い払うかのように振りながら言った。この坊主。明らかに喧嘩を売っている。

ユウは買う気満々だった。

今にも殴りかかってやろうかと思った。ユウの拳は硬く握り締められていた。

だが、今日の営業終了後にもらえる12万ちょっとのお金のことを考えて堪えた。

耐えた。

我慢した。

文字どおり、唇をかんで耐えた。

ユウは踵を返して、駅から店へと向かった。

夕方の商店街は多くの人で賑わっていた。

ユウの目からは涙が流れていた。

悔しくて仕方がない。なぜ、自分は言えない。何故自分は切れる事ができないのか。それは自分の性格の弱さもあるが、理由ははっきりと分かっていた。

金。

全ては金がないからいけないのだ。たった10万ちょっとのお金を貰う為に、ここまで嫌な思いをしなくてはならない。

情けない。

本当に情けない自分が嫌で、仕方なかった。


高校生の頃、ユウはお金や出世のためにへこへこと頭を下げて、働く人間を馬鹿にしていた。

そういう大人にはなりたくないと思っていた。

自分は何かプライドを持ってやりたいことをやるんだと思っていた。

ところが現実はどうだろう?

どうしようもない年下の人間に馬鹿にされても言い返すこともできない。

目先のはした金の心配をして、おべっかを使い、機嫌をとり、意地汚い薄ら笑みを浮かべる。

ビクビクとおびえて暮らし、自分の意見も言えず言われたままに、きつい労働を強いられる。

よく、上司を殴って辞めたとか、給料を貰わずにとんだとかそういう話を聞くが、ユウにはそれすらもできない。

そのはした金がないと、ユウには何もできない。

ユウは自分が一番なりたくない大人になった。その事実に気づいて涙が出てくるのだ。


ユウはお店についても、すぐに動く気にはなれずソファーに座り、少しボーッとしたあと、さっき来ていたメールを開いた。

アスカからだった。

『今日、終わったら会えない?話があるんだけど。』と入っていた。

やけになっていたユウは、アスカに返信する。

『いいよ。俺も話しある。』と。

ユウはお店をやめることをアスカに言おうと思っていた。

ここで働いていて、たった一人だけユウの一生懸命さを分かってくれた人だ。

ユウはアスカにはお礼が言いたかった。


ユウは立ち上がって、掃除を始めた。



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