プロローグ
夕方から降り続いた雨はもうすっかりあがっていた。
午前3時の夕食?の買出し。
ユウはおなかもすいていたが、それより頭が痒かった。
頭を掻きながら、ジーパンのポケットから、マルボロを取り出して、
お気に入りのZIPPOで火をつけた。十字架のついたやつだ。
煙を大きく吐き出して、起きたばかりの目をこする。
少し寝すぎたようだ。
Tシャツ一枚では、外はまだ少し肌寒いが、夏の夜の匂いがした。
ジメッとべた付いた体には、ひんやりとした風が心地よい。
この時間は、人が歩いていない。
だから好きだった。
静まりかえった住宅街の中に、たった一人の特別な存在。
そんな自分に酔いしれながら、安い調理パンを買って部屋に帰るだけの外出。
他に行くところもない。
ユウは極端な人間嫌いでも、引きこもりでもなく、普通のどこにでもいるような
青年だが、仕事がなかった。
当然お金もない。
だからなのか、あまり外出をしない。
もっぱらテレビを見るか、ゲームをして一日を過ごす。
むなしさが胸を大きく支配する。
死のうとも思わないし、特別にネガティブというわけでもないのだが、
ユウはとにかくむなしかった。
何をどうすれば良いのか分からないのだ。
友人も何人かいたのだが、そのむなしさの為なのか
あまり付き合う気がせず、疎遠になってしまった。
ただ時間だけを消化する生活。
さっき買ったばかりのパンをかじりながら、
アパートの階段を上る。
コッゥン カタン カタンと。
ユウは部屋に入ると、すぐに服を脱ぎ捨て、せんべい布団に身を投げ出した。
見飽きた天井を見上げながら、小さくため息をついた。
布団の横には、請求書の入った封筒が、封も切られずに束になって置かれている。
さっき起きたばかりなのに、やることがない。
ユウは布団の上で、
ケータイをいじりながら、うじうじしているとまた寝てしまうのだった。
その翌々日そんなユウの悠々自適な生活に、終わりが来た。
来るべくして来たという感じだが、
ついに保証会社から、退去の連絡が来たのだ。
家がなくなる。
ユウは言いようのない不安に駆られる。
頭ではわかっていた。
家賃を支払わなければ、いつかこの生活に終わりが来ることも分かりきっていた。
ただ、それがこんなに近い将来だとは、思わなかった。
現実感がなかった。
電話では、一週間後に今までためていた分の家賃を支払うと約束したが、
当然その当てはなく、ユウはついに一大決心をする。
(夜逃げしよう。)
そう心に決めていた。
一週間後、保証会社の人間が取り立てに来るまでぎりぎりまで住んで、逃げてしまおう。