荘厳なる少女マグロ と 運動会
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"バレエ座の怪人":
「チューリング――チューリング、メイドノヒキャク…。
イルゾン・サン・ルコネッサンス――ァンバリァブルマン……」
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"マグロの母親":
「実際、あの子 ["鼈"] は
――去年
世界では勝ててなかったでしょ?
――今年はどうだか………。
海外では、
あの子 ["鼈"]、
全然評価されてないじゃない……
――芸術点だって低いし…
――トランジションは甘いし……。
気にする事ない。
柔軟加点だって認定の最低限を
『やっと』
クリアしている――そんな程度でしょ?
あんたのレベルに行ける筈がない。
あの子 ["鼈"] に
あんたの
<孔雀の尾 [ピーコックステイル]>
が出来るの?
――出来ないでしょ?
それに
『勝ててる』
って言ったって………
――国内でだけ。
あんたの方が、サーキットポイントは高いんだよ
――忘れたの?
<全国大会>
の順位は、
海外派遣に選ばれる上では
重要だけど、
海外に行ったら
問題じゃないでしょ?
それに
五回転SJ [スピンジャンプ] って言ったって
アクセルが出来るわけじゃないし、
まだFJ [フォーロールジャンプ] も
――BJ [バックロール] も
『三回転が入った』
って話はない」
”重力スケート”
の世界は
<狭い>
為、すぐに
――競技者の
噂が広まる。
その上、
シーズンオフでは
――新しく
――難しい技に挑戦する
――多くの選手が
全国に散らばる競争者への牽制の為に
<新しい技の成功例>
を、仮想空間に
――映像ニュースとして
流す
そんな傾向にある。
見せびらかす事で、
ライバルの気を挫こうとする――
駆け引き。
また、
"マグロの母親" は
”ドラフト”
時代に鍛えられた情報収集能力で
”重力スケート”
に於ける
全国の有望な少女達の出来栄えを
知る事が
可能だった。
以上の点から――
「もし ["鼈" が新しい技を]
出来てるなら、
話がとっくに
["マグロの母親" のトコロに]
来ている筈……――」
と
――"母親" は
結論付けた。
そして
「だから心配する事はない」
という主張を
続いて
導き出そうとするが――
"マグロの姉":
「でも、["鼈" は]
BJ [バックロール] の三回転に挑戦してる
って…――」
――と反論がある。
"マグロの母親":
「誰に聞いたの?」
そこで、"マグロの姉" は、名前を上げた。
それは、
<"マグロの姉" と同じ練習場に通っている子供の名前>
だった。
その
<"マグロの姉" と同じ練習場に通っている子供>
の "友達" は、
<"鼈" と同じスクールに通っている>
という。
"母親" は
娘に
詳しい説明をさせなかった。
"マグロの母親":
「……『BJ [バックロール] の三回転に挑戦してる』
って言ってるって時は
――大体
まだ出来ていないって事」
そう断言した上に――
"母親":
「大体、
『挑戦してる』
って言い方は、
『まだ高確率で成功する程安定していない』
って意味なんだから。
だってそうでしょ?
――実際に出来るなら
――やればいいんだから。
前に
あの子 ["鼈"] が
学校のスケートショーに出た時の映像を見たけど、
BJ [バックロール] は、
一回転だったよ………」
因みに、
将来有望なスケート選手は
――どこの学校でも
表彰され、
演技を
全校生徒の前で
見せる機会があるものだ
――"マグロの姉" も
――何度も
――学校で
――滑った。
[※ただ――学校のショーで本気を出す者はいない]
"マグロの母親":
「それに
BJ [バックロールジャンプ] の三回転・単発より、
あんたのSJ [スピンジャンプ] 四回転、四回転、四回転
の方が
点数高いんだよ
――前も言ったけど」
耳に蛸が出来る程、繰り返された事。
同じ言葉ばかりで
口内が酸化する程。
それでも――"母親" は繰り返した。
"母親":
「もっと自信を持ちなさい
――物事の悪い面ばかり見るのは
――あなたの悪い癖なんだから」
"マグロの母親" は知っていた
――スポーツは
――メンタルで
――左右される
――事。
"マグロの母親":
「とにかく、今年は気を付ければいいの。
あの子のペースに乗せられたら終わり。
メンタルを強く持てば良いだけ。
とにかく
<顔見世>
では、徹底的に避ける事。
去年だって、
接触に見せかけて
あの子 ["鼈"] に
”殴られた”
子がいるんだから」