荘厳なる少女マグロ と 運動会
"母親":
「…さっきの何?」
"マグロ" と "姉" の姿が見えなくなるや否や、
"母親" が切り出した。
言葉は――
「峠」
「峠」
――針鼠の様。
"父親":
「……娘を
<ショーフ>
にでも
するつもりなのか?」
"父親" は
”同じ種類の物”
を返した。
"母親":
「は?」
"母親" が "父親" を見た。
"父親":
「君は、娘を
<ショーフ>
にでも
するつもりなのか?」
"父親" は見返さなかった。
"母親":
「何言ってんの?」
"父親" は
――突然
"母親" の口調を真似する様に、
言った――
"父親":
「もっとケツを突き出して!」
"父親":
「もっと優雅に!!」
"父親":
「男を誘惑する様に!!!」
"父親":
「女らしく!!」
コム・ァン・フー。
そして――
"父親":
「いつの時代のジェンダー観だよ………」
全ての台詞は、嫌味に満ち溢れている。
"母親" は腹を立てた。
"母親":
「だってしょうがないでしょ?
――勝つ為なんだから……」
"父親":
「勝つ為なら
娘を
『くねくね』
<ショーフ>
みたいなマネさして
いいのか?」
"母親":
「だって<芸術点>がそう…」
"父親":
「<芸術点>なんて馬鹿げている」
"父親" は言い切った。
"母親":
「何を今更……」
"母親" は "父親" を見ないようにした。
"父親" も、相手を見なかった。
"父親" は黙った。
"母親":
「どうしたの?」
"父親":
「別に」
"母親" は "父親" を見た。
"母親":
「今日はどうしたの?」
"父親":
「どうもしない」
"母親":
「文句があるなら話し合いましょう?」
"父親":
「………話し合えるのか?」
"父親" は
――横目で
"母親" を見た。
"母親":
「試合が終わったら……」
"父親":
「これまで、
何十回と
試合が終わったが、
話し合いを
したか?」
"母親":
「これまで何も言ってくれなかったじゃない!」
"父親" は黙り込んだ。
"母親" は
――機に乗じて
相手を追い詰める様な事を
しなかった。
ただ視線を逸らしただけだった。
"父親":
「ただでさえ君は、
”機密情報を管理する仕事”
をしている。
だからこそ…――
だからこそ、
あまり話せなくても
『しょうがない』
と思っている。
愚痴を分かち合う事さえ、
自分等夫婦には出来ない。
でも……――
話し合えるのか?」
"母親":
「子供の事は違うでしょ?」
"父親":
「自分は、娘を
<ショーフ>
なんかにさせたくない!!」
そして――言った事を繰り返した。
そこで――
"母親":
「わたしだって………」
"父親":
「でも――」
相手を遮ってから――
"父親" は、言葉を切った。
すぐに繋いだ。
"父親":
「最近あの子等にやらせている事は、
<ショーフ>
みたいなマネばかりじゃないか……
――それも
――あんな小さな子供に…」
"母親":
「もう子供でもないでしょ?」
"父親":
「子供だよ」
"母親":
「とにかく――今日は止めて」
毅然と言った。




