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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 "?":

 「ボクは

  出来るんだ――


  ボクは

  跳べるんだ!


  でも…――


  とべないんだ。


  とばせてもらえないんだよ!!


  <キテイ>

  があるからね!!!


  君には、

  ボクの

  <気持ち>

  なんか

  わかんないでしょう!!?」




 そしてまた――


 「Kunst」


 ――鼻で笑う。




 ―――――――――――――――――――――――――




 跳ぶ事――許されざる者。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ”重力スケート”

 という競技に於いて

 大会が行われる時、

 先ず


 <キテイ>


 で

 選手の篩い分けが

 行われる。




 <キテイ>

 で高得点を取って

 勝ち進めなければ

 ――上位にランクされなければ

 <キテイ>

 に続いて行われる


 <プログラム・クール>


 や


 <プログラム・ロング>


 で

 ジャンプをしたり

 演技をしたりする事は

 許されないのだ。




 どんなに高いジャンプを跳ぶ事が出来ようが、

 何回転が出来ようが、

 関係が

 ない。




 排除された者は、

 選ばれた者を

 <見る>

 事しか

 出来ない。




 ―――――――――――――――――――――――――




 視線の先には――泳ぐ者。




 境界内

 自由に

 空間を

 泳ぐ者達。




 そこに悲愴感はない。




 ジャンプ力もないのに……――


 <跳ぶ場が与えられる事になる>


 ――そんな者達がいた。




 それぞれ――希望がある。




 実力がないだけ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" は

 何と声を掛けるべきか

 決めかねていた。




 飛んで来る自嘲をただ――受け止めていた。 




 "?":

 「それに――


  ボクは

  やりたくて

  やってるんじゃ

  ないし………」




 言い訳が――来た。




 理想主義的 "?" が

 現実から逃げた事を示す

 子供じみた語りが

 始まる。




 "?":

 「ボクは、

  親に

  <やらされている>

  んだから。


  まだ

  ウチの親は

  離婚してないし、

  親との仲を

  <めちゃくちゃ>

  にしたくないから、

  キョーセー [強制] されても

  ヨージギャクタイ [幼児虐待] として

  訴えられないんですよね……」




 "?" は、

 プライバシーを


 「…toux」


 「toux……」


 と語る。




 隠す物などない者が

 隠すつもりもない様子で。




 そして、

 その語りは

 ――いくら言葉を積み重ねようと………

 事実の一面を提示しているに

 過ぎない。




 本当の

 ――決定的

 理由と云うものは、

 その隣の面にある。




 そして

 面と面は、

 線で

 区切られている。




 そして人は

 ”額面”

 を見るもの。




 それでも "?" は以下の様に続ける……――




 "?":

 「”重力スケート”

  なんか

  やりたくないんだ!


  親が

  『何かスポーツでもして

   身体を鍛えなさい!!』

  って言うから

  やってるだけで

  ――本当は

  やりたく

  ないんだから!!!


  身体も健康だし、

  こんな

  無駄に

  『くねくね』

  ばっかして、

  身体

  『ばっか』

  柔らかくなるだけ。


  走るのが速くなる

  訳じゃない。


  こんなのしたくないんだよ――


  ボクは

  <此処>

  が良いんだから!!」




 そして

 ――人差し指のティップで

 <此処>

 ――即ち

 ――蟀谷こめかみ

 を


 「ton」


 「ton」


 と叩いた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 小さな頭――膨大な知識。




 ネットの様に張り巡らされた――分析力。




 その顔――


 「tique…」。




 "?":

 「早くこんな無駄止めて

  本でも読みたいよ……」




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" は

 それまで

 見た事もなかった


 <現実>


 に、直面していた。




 当たり前の様に

 <キテイ>

 をクリアし――


 当たり前の様に

 <キテイ>

 で高得点。




 足切りされる者の事など

 ――あまり

 考えた事は

 なかった。




 そして、

 足切りされる者の方が

 世の中には

 多い事に

 気付かない。




 "マグロ" は、

 その

 それまで

 不可視であった者の


 <激情>


 を目の当たりにし

 ――ただ………

 戸惑っていた。




 それまでも戸惑っていたが、

 さらに戸惑いを濃くしていた。




 "マグロ" は

 場から

 逃げようとしていた。




 ただ――逃げなかった。




 タイミングを窺っていた。




 "?":

 「でもね……

  ――もう

  今日で

  <終わり>

  なんだ。


  今日で――終わり。


  サヨウナラ」




 その時だった。




 "マグロ" と "?" のいる

 <シュヴィメン場>

 に、

 人が

 ”ひとり”

 入ってきた。




 男であった。




 "マグロ" は

 その人物に

 見覚えがある。




 身体を固くした。




 男は

 まっすぐ

 "マグロ" の方へ

 進んでくる。




 光が満ちたその場所にぎる

 一抹の影。




 口笛が聞こえた。




 男は近づいて来る――




 直線的に。




 点と点の間――


 最短の距離を

 計ったかの

 様に。




 歩みの間、周囲に視線を巡らせない。




 まっすぐ。




 まっすぐ。




 男は

 "マグロ" の傍で

 立ち止まった。




 "マグロ" は息を飲んだ。




 そして、

 男が

 一文字いちもんじ

 唇を

 切り離した。




 不吉な声で…――




 "怪人":

 「……ちゃんと練習………しているぅぅぅ……?」



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