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3話 豪傑メート

 私は、その場で滑り転げ後頭部を強く打った。

 その時、衝撃的な頭痛に見舞われたが幸い命に別状はなかった。

 階段のやんわりとした、ゴム性の滑り止めがきっとそうしたのだろう。


 目覚めた時、私はひとり夕日の光が差し込む教室にいた。

 教室はほのかにオレンジ色に照らされ温かさが感じられ、ヒノキでできたいい香りのする机からは妙な懐かしさが感じられた。

 椅子と机の高さがほどよく、座ったお尻の感じや綺麗に消された黒板に私はなんの違和感も感じなかった。

 場所が違うので、不思議な所に迷い込んだ子猫のように色々な所を見渡していた。

 勉強机にかかっているシューズ袋、高さの統一された机がひとつの地面のように見えたり、時計の針が5時20分と25分の間をさまよっていたり、本当にただの教室なのだけれど――。


 後ろを見回した時、絵の具で書いてある数十枚の絵に「中黄 あきこ」と私の字で書いてあった。

 そこにあった私の名前をよく見てみると、中の文字の縦棒が左に向いているところや、きの文字のはらいの筆圧がこい所を見ると私の字とそっくりだった。

 書いたこともないプールサイドの絵が私の作品で、それが最優秀賞の金色のシールまでついていた。


「えぇっ!?」


 絵が下手な私にこんな賞は書とれないし、色がいつもにじんでしまうからこれほど綺麗な作品なんて作れっこないじゃない!!

 私は机から跳ね上がるように立ち、私の作品にとびついた。


「この作品は、水泳大会で銀賞をとった時に書こうと思いました。

 ここで練習していたので、卒業の思い出にもちょうどいいかと思いました……。」


 確かに私は水泳が得意な方だが、銀賞をとるとか大会に行けるほどの実力はなかった。

 どういうことなの、これは何かの夢なのかしら?

 私の心の中には大きな竜巻が現れていた。

 全ての記憶が風のように流され、そして小さくなってばらばらになり消えてゆく。

 きりきざまれた記憶は再生できず、つなぎあわせることもできないのだ。

 ここでの記憶が驚くほどない。

 この絵は誰のもので、誰が泳いだのだろうか――、デジャブすらもないなんて。


「あっきぃ。みーっけた。」

「まぁっ!」


 声が聞こえて、私は顔を向けるとそこには中学校の頃の友達の山田 幸介(こうすけ)君がいた。

 オレンジ色に染められた空を背景に山田君の天然パーマはよく目立った。

 なつかしい顔ぶれだったから、テンションが上がって一段と高い声がでた。

 すっかりテンションが上がってしまい、頬がやわらかくなり白い歯が見え、笑みがこぼれおちていた。


「幸介君、どうしたの? 久し振りじゃない。」

「久し振り!! 学園祭に会ったばっかりだから、3週間は会ってないのかな。

 そうなると、綾子とも3週間は会ってないのかなぁ?」

「あれ、そうだったかしら?」

「あっきぃのクラス、回ってあげたじゃん。覚えてないの?」

「変ね――。私、学園祭なんてやった覚えないのよ。」

「えっ!?」


 山田君は驚愕しているようだった。

 物憂いになった私の顔をのぞきこみ、ひたすら慌てる行動を見せていた。


「学園祭のこと覚えてないなんて異常だぜ!?

 お前、受験勉強で頭がくるいはじめたんじゃねーの。」

「何を言ってるの。まだ9月でしょ。」

「莫迦! 本当に頭がおかしくなったみてーだな!!

 もう2月だぜ。長袖だって着てるのに9月なわけねーだろ。」

「9月って言っても……。」

「付き合ってらんねぇ。用件だけ言うぜ。

 眞鍋が体育館の裏にこいって言ってた!

 言っとくけど、眞鍋には恋人がいるから告白じゃねーのは確かだ。

 じゃーなっ。」


 私は、目の前で起こってる事がよくわからなかった。

 そういえば、見知らぬ黒紅の制服に、赤いリボンまでしているのに後から気付くのだった。

 2月って言われれば肌寒い気もするし、よくみれば予定黒板に2月23日と書かれていた。


 私は、どこの世界に来たのだろうか――。


 私は不安になった。

 中学生で別れたはずだった山田君は私をあだ名で呼び、親しげな口調と目を細めた時のくしゃっとなった顔は覚えがあるけど、私の知ってる山田 幸介君ではないのだろうか??

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