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無属性の落ちこぼれと笑われた俺は、独りきりの古代遺跡で"本物の魔法"に目覚める ~世界の魔法は、最初から間違っていた~  作者: kariya


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第1話「無属性」

初投稿になりますので温かい目で見守ってください!

鑑定の儀は、人生でたった一度きりだ。

 その日まで、僕は——レオン・アークライトは、自分が特別だと思っていた。


 火属性のヴァルド・アークライト伯爵を父に持ち、十歳にして上級魔法を操る兄を持つ。アークライトの血が、僕の中にも流れている。だから当然、強い属性が出る。そう信じて、僕はこの日を待っていた。指折り数えて、何度も予行演習して、鏡の前で胸を張る練習までして。


 水晶球に手をかざす。

「魔力を流せ、坊ちゃん」

 言われるまま、ありったけの魔力を注いだ。早く光れ。赤でも、青でも、何色でもいい。父が、誇らしげに頷くところが見たい。


 球は、光らなかった。


「……もう一度」

 鑑定官の声に、不安が背筋を這い上がる。流す。もっと、もっと強く。手のひらが熱くなるほど、魔力を込める。

 光らない。

 球は、ただ静かに、僕の手の下で透き通ったままだった。まるで、僕という人間など最初から存在しないみたいに。


「無属性」


 その一言が、広間に落ちた。

 最初は、誰も声を上げなかった。それが、かえって残酷だった。やがてさざめきが広がる。けれどそれは、嘲笑ですらなかった。嘲笑なら、まだ僕に向けられている。そうではなく——皆の視線が、すうっと僕から逸れていった。"見る価値のないもの"から目を離すように。


 無属性。

 魔力はある。でも、どの属性にも変換できない。火も水も風も土も、光も闇も。何ひとつ。つまり、魔法が使えない。一生、使えない。

 貴族の世界で、それが何を意味するか。十歳の僕でも、嫌というほど知っていた。


「……何かの、間違いです」

 声が震えた。情けないくらい、震えた。

「もう一回、お願いします。きっと、流し方が——」

「三度測って、同じだ」鑑定官は手元の紙に何かを書きつけながら、僕の顔すら見なかった。「無属性は無属性。記録は正確を期す。これ以上は意味がない」

 意味がない。

 その言葉が、胸の真ん中を貫いた。


 父を見た。

 ヴァルド・アークライトは、何も言わなかった。怒ってさえいなかった。その顔に浮かんでいたのは、もっと冷たい何か——たぶん、計算だ。この事実を、家にとってどう処理するか。もう、そこを考えている目だった。父はその目を一度だけ伏せると、踵を返した。僕を、見もせずに。

 兄が、すれ違いざまに小さく息を吐いた。憐れみでも、嘲りでもない。ただの、落胆。「お前なら、と思ってたんだけどな」とでも言いたげな、それだけの吐息。


 僕は、その場に立ち尽くしていた。

 膝が笑っていた。視界がぼやけて、広間の煌びやかな魔導灯が、滲んで、いくつにも割れて見えた。泣くな、と思った。貴族は人前で泣かない。父にそう教わった。

 でも、教わったその父は、もう僕を見てくれない。


 ——だったら、もう、いいじゃないか。

 僕は、生まれて初めて、人前で泣いた。


 その夜、僕は自分の部屋で、机の引き出しを開けた。

 中には、ノートが詰まっている。何冊も。六つの頃から、書き溜めてきた落書き帳だ。兄の魔法を見て「すごい」と思ったこと。屋敷の魔導具が動く仕組みが知りたくて、職人にしつこく質問したこと。真似して失敗して、寝込んだこと。——全部、いつか自分も魔法使いになるんだと、信じていた頃の記録だ。


 馬鹿みたいだ。

 無属性が、いくら魔法を眺めたって、何になる。一行も、僕の役には立たなかった。


 一冊を、暖炉に放り込もうとした。手が、止まった。

 火属性なら、指先ひとつで燃やせる。でも僕には、それすらできない。暖炉の火を借りるしかない。無属性は、自分のノートを燃やすことすら、自分の力ではできないのだ。


 ——笑えてきた。涙が止まらないのに、笑えてきた。

 結局、僕はノートを燃やさなかった。燃やす価値もない、と思ったからだ。そっと引き出しに戻して、鍵をかけた。


 窓の外、兄の部屋の灯りが、まだ点いている。じきに城下の魔法学園へ発つ、優秀な跡継ぎの灯りだ。

 僕の行き先は、どこにもない。


 この時の僕は、まだ知らなかった。

 価値もないと閉じ込めたこの落書き帳が——いつか、世界の常識そのものを引っくり返す鍵になることを。

 そして、本当の絶望は、まだ始まってすらいなかったことを。

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