第38話 暴虐皇子は帝国軍の腐敗を目の当りにする
全ての起点となった、あの古いコインのついたペンダント。
そのペンダントが、選択をやり直すために舞い戻ったこの2周目の俺の手元に戻って来た。
これは何を意味するのか...1周目の時におれにこのペンダントを売りつけて来たのは、怪しげな老婆だった。
その時に言われたのだ。
――『ヒィヒッヒッ、お前さんは良い取引したぞい、そのネックレスに願えば一度だけ、やり直したいと思う人生の岐路に戻れるのじゃ…使い処を見誤るなよ?』
そしてそれは現実となった――
1周目の俺の最後は悲惨だった…愛していた女に裏切られ、信頼していた親友に裏切られ、臣下からも民衆から見放され――挙句、俺の傍から離れて行った連中によって討たれる所だった。
炎に包まれた玉座の間で、このペンダントは確かにあの老婆の言っていた通り…
(ん?まてよ…確かにこのペンダントの力かもしれないが、死の直前にこのペンダントが光っただの、震えただの異変があった訳じゃないよな…もしかしたら、あの時のペンダントの力じゃなく別の力が―――)
その真相を探るため、あの時、俺に水を差し出してくれた病気がちの少女、サラの家を探し市街地から少し離れた、あばら家が建ち並ぶ貧民街へとやって来ていた。
「んっ!?アーサー様・・・この匂いはっ」
「あぁ酷いな・・・とても下水が整備されてるとは思えない」
俺の言葉にリリスも顔をしかめながら頷く
―――当然だが、俺も貧民街に足を踏み入れたのは初めてだ。
道は舗装されておらず、常に砂埃が舞っている。
そのくせ、路上には雑草一つない――
「リリス、匂いが気になってもそんな表情は見せるな!」
「!?も、申し訳ございません、気を付けます」
俺は小声で気持ち悪くてハンカチで口元を押さえているリリスに注意した…俺たちにとっては耐えられない程の悪臭だが、ここで生活している者にとってはこれが日常…
「これも、集めた税収をキチンと民衆の生活に還元できてない俺たちの罪だ・・・」
「・・・・・」
敢えて俺の言葉に答えないリリスだったが、貧民街を見渡すその眼はいたって真剣だ、先ほどまで気持ち悪いとハンカチで口を覆っていた女性とは思えないほど凛としている。
(さすが、リリス=ミョルニル・・・根性は誰にも負けぬな)
そんな貧民街では俺達の格好は珍しいらしく、ときたまあばら家の玄関が少し開き、中から俺たちの様子を眺める者が大勢いた。
その者たちを見て・・・感じた事を口にする
「――年寄に子供・・・あとは、女ばかりだな・・・働き盛りの男を見かけないぞ」
「――たしかに、これは一体どういう事なのでしょうか」
見れば、家から顔を覗かせるのは、ボサボサの白髪頭の老人に、みすぼらしい服を着せられ俺たちを羨ましそうに指を咥え見ている子供・・・そして、農作業や家屋の保全など、力仕事をしているのは、全て女性だ。
そんな貧民街にてようやくレンの教えてくれた地図に記された家を見つける事が出来た・・・
ボロボロの木造の長屋、あばら家と言った方が正しいのだろう・・・表札もなければ玄関に鍵もない
コンコン
手の甲で軽く木のドアをノックし
「ごめん下さい!こちらサラちゃんの家で間違いないでしょうか?」
・・・・・・・・・・
――反応がない・・・が、中からは何やら女性の声と、男の声が聞こえている・・・おかしい、この家に男手はいないはず・・・
「リリス」「はい」
リリスに目で合図してから
バン!と、勢いよくドアを開き中へ入る。と、同時に護身用の剣を抜き構える。
「!?なっ何だ貴様らは!!」
「だ、誰!?」
見るとボロボロの布団の上で痩せ細った裸の女性と、ブクブクに太った男がまさに行為の最中だった。
「きゃっ!?」
リリスは恥ずかしそうに顔を隠し俺の後ろに隠れる。
「お前こそ何者だ・・・ここは、兵役で戦死した夫の家族が住んでる場所だぞ、何故お前のような男がいる?」
護身用の剣を突き出し、ブクブクに太った男を睨みつけた
「お、おい、ガキが物騒な物もってんじゃ――ねぇ!!」
ブクブクに太った男は、布団の横に置いてあった剣を抜くと、俺に向かって斬りかかって来た。
キィン!ザシュ
しかし、男の剣はその手を離れ、男の背後へと弾き飛ばされ床に突き刺さった。
太った男の喉元に剣先を突き付け、不敵に笑う
「これは正当防衛だ・・・いま貴様を切り刻んでも罪にはならんぞ?」
しかし、太った男は怯む様子もなく
「はっ、俺は兵長だぞ!この女の元旦那の上官だったんだ、戦死した元部下の嫁が娘の薬代金に困ってるって聞いて、おれが一肌抜いたんだ…部下の娘の命とその妻を助けるなんて、あぁ――俺はなんて心が広いんだ!」
何故か自分を慈善家だと自己陶酔しているが、要約するとコイツがサラの父親の戦死者遺族金をピンハネした一人ってことになるな
背後に隠れていたリリスも、俺と同じことに気付いたのか背中越しにも殺意がわかる程に、憤慨してるようだ
「あ、あの――どなたか存じませんが、このまま帰って下さい、その・・・娘が帰ってくるまでに、終わっておかないと・・・ですので――」
部屋の奥でシーツで身体を隠しながら、震える声で涙交じりにそう訴えてくるサラの母親――
「ゲヘヘへ、そういうことだ、俺は慈善活動をしてるんだ、というか、帝国軍の兵長にこんな真似しておいて、見逃してもらえるだけ有難いと・・・ん?あっお前のツレとんでもない美人じゃないか!!」
俺の前で涎を垂らす太った男の股間が再び大きく膨張している
「気が変わった、お前のツレは置いていけ、それがお前の命を助けてやる条件だ」
そう言い、俺の肩越しに背後に隠れているリリスへと手を伸ばす太った男
「断る」
短く答えて俺の声に、伸ばそうとした手が止まる
「はぁ?ガキ、俺の耳がおかしいのか?もう一度この兵長さまに聞こえるように言ってくれ」
「汚い手で、俺のツレに触れるな、このゴミクズが」
「!?アーサー様!?」
太ってダルダルの顔が真っ赤になり、背後の床に刺さった剣を抜くと殺意の籠った眼で俺の事に睨みつける
「死んだぞお前、このブル兵長にそんな口きいたんだ」
「―――決めたぜ、お前の死体の前で、後ろのツレを首を絞めながら死ぬまで犯しまくってやるぜ!覚悟しろ!!」




