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【十四】蜘蛛の手

 そうして、わやわやしながら山へと続く屋敷の裏門へと辿り着いた三人、いや、二人と背負われた一人は『わああ〜!!』と泣き叫ぶ声を聞いて、慌てて屋敷内へと向かい走り出した。


「わあ〜、なんだろうね〜?」


「ゆきおでもたけるでもみくの声でもないぞっ!!」


「はっ!! まさか、星(せい)兄様を飛ばした事で結(ゆい)様が叱られているのでは!?」


「えぇ〜? あの雪緒(ゆきお)君が泣くまで叱るかなあ〜?」


「おじさんを泣かせたゆきおだぞっ!!」


 月兎(つきと)に未だ背負われたまま、疑問の声を上げる相楽(さがら)を星はじとりと睨んで叫んだ。

 星が言うお(・)じ(・)さ(・)ん(・)とは、雪緒の伴侶の高梨(たかなし)紫(ゆかり)の事だ。

 天野(あまの)と相楽と、雪緒の伴侶である高梨は同年代であるのだが、星は頑なに高梨をおじさんと呼ぶ。少年時代からそう呼んでいるからなのだと思うが、こればかりは星の頭を覗かなければ解らないだろう。


「ああ〜。でも〜、あれは〜…」


 星が口にしたのは、昔も昔、雪緒が少年の頃の話だ。互いが互いを心配するあまりのすれ違いの末に、雪緒が『おばかちんさん』と、捨て台詞を吐いて出奔した事があったのだ。その場に、相楽も星も居たし、何なら相楽が火付け役だったかも知れない。

 確かに、高梨は顔に後悔を滲ませていたが、涙は流していなかった。

 いなかったのだけど、星には泣いている様に見えたのだろうか?


「急ぎましょう!」


 過去を思い出す相楽の思考をぶった切る様に月兎が叫び、足を速めた。

 裏口から屋敷内へと入り、茶の間へと続く廊下を進めば、外れた障子戸と、そこからはみ出す黒い塊が見えた。


「んあっ!?」


「えっ!?」


「え〜? なになに〜? どう云う状況〜?」

  

 驚きを滲ませる星と月兎とは違い、相楽の声音は普段と変わらず、のほほんとしたものだった。

 ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、相楽は月兎の背中から下ろしてもらい、ぺたぺた、いや、さわさわと黒い塊、否、黒い毛玉に触れた。


「柔らかいし〜、暖かいね〜」


「って、部屋に入れないぞ!」


「雪(ゆき)兄様、猛(たける)様、みく様、中に居ますか〜?」


 月兎が黒い毛玉の向こうへと届く様に声を上げれば、直ぐに返答があった。


「はい、居ます!」


「居るよ! 結の涙でぐちょぐちょだけどね!」


「潰れたりしてないから、安心してくれ! そっちからは無理だから、表玄関から周って来てくれ!」


 天野にそう言われた三人は、廊下から庭へと出て玄関へと周りこみ、土間を抜けて茶の間へと入った。


「わあ〜、大きな妖(あやかし)だね〜」


 そこには囲炉裏を避ける様に(ぶち破ってしまったが)障子戸の方へと、身体を寄せる大きな妖が居て、傍には伊達巻きがこんもりと盛られた皿を持つ雪緒が居た。


「結だ」


 相楽の言葉に答えたのは、囲炉裏の傍で胡坐を掻く天野だ。


「え〜? 雪緒君の〜、頭に乗るのが〜好きだって〜聞いていたけど〜?」


「色々とあってこうなったんだ」


 こんな大きさのものが雪緒の頭に乗ろうものなら、雪緒が潰れてしまうではないか。

 こてりと首を傾げる相楽に、天野は両手を肩の高さまで上げて苦笑する。

 

「相楽のダンナが何で居るのかは、アタイらの話の後にしようかね」


 そんな天野の隣に座り、その肩に頬を乗せたみくも、天野と同じく苦笑してみせた。


「ほら、結様、伊達巻はまだまだありますよ」


「ア゙イ゙ガト゚。オ゙レ゙、ユキオ、マ゙モ゙ル゙」


 雪緒が結を見上げながら伊達巻きの皿を肩の高さまで上げれば、大きな身体の割に細い手が頭上から伸びて来て、さっくりと伊達巻きに刺さった。

 そんな結の手を見た相楽は、蜘蛛の手、いや前脚のようだと思った。

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― 新着の感想 ―
どうしたどうした 楽しそうだな 全然すんなりと対面しないねぇこのメンバーは。 最高です(^^)
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