表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

【十】天野とみく

(ゆい)様!?」


「おっと」


 頭を踏み台にされた雪緒(ゆきお)が結の行動に驚きながら背中から倒れそうになった処を、隣に居た天野(あまの)が自身の腕を伸ばして、その背中を支える。


(せい)兄様ーっ!」


 と同時に、星と駆けて来た二十代前半ぐらいの男が、両手で頬を押さえて山に向かって叫んでいた。


「星兄様に何を…っ…!!」


 そして、星をぶっ飛ばした張本人の結を睨み付けるが、ぼとりと芝が敷き詰められた地面に落ちた結は、ふーふーと鼻息が荒くて、今にも飛び掛からん勢いだったので、その男はごくりと喉を鳴らした(のち)


「ボク、星兄様を回収して来ますっ!!」


 そう叫び、脱兎の如く、その場から逃げ出した。

 

「あっ、月兎(つきと)様!?」


「頼んだ、月坊!」


 星と比べれば短いが、同じように馬の尻尾にした髪を揺らして遠ざかる背中に、雪緒と天野の声が被った。

 走りさる男の名は月兎。

 星の義理の弟だ。

 そして、結が混乱し、昂った原因であり理由である、星と同様の人の姿をした(あやかし)である。

 妖の特徴である血の様な紅い眼を持たないが、れっきとした妖なのである。


「ちょいと、なんだいなんだい!? 雪緒君が来たんじゃないのかい!? 何なのさ、この騒ぎは!」


(マ゙ダ、イ゙ル゙ッ゙!?)


 その月兎と入れ替わる様に、屋敷から一人の女性が走って来ていて、結の混乱は天元突破してしまった。

 つまり。


「あ〜れ~っ!!」


「みくちゃぁ――――――――んっ!!」


「みくちゃん様ーっ!!」


 結にとどめを刺したと言えなくもない、みくちゃんと呼ばれた、淡い桃色の作務衣を着た女性も、宙を舞ったのだった。


 ◇


「申し訳ございませんでした!」


「ゴメ゙ナ゙!」


 雪緒と結が土下座をしている場所は、絶賛家主不在中(結が星を山へ飛ばしたので)の杜川(もりかわ)家だ。

 そこの一室、二十畳程もある茶の間の真ん中には、卓上型の囲炉裏がどどんと設置してあり、梁から吊るされた棒の先は鉤状になっており、そこには大きな鉄鍋が掛けられていた。中身は、星が山で狩った猪の汁との事だ。

 因みに頭を下げながらも、結はそれをちらちらと気にしていた。


「アタイなら大丈夫だから、気にしないでおくれよ!」


「ああ。星坊と違って山までは行かなかったしな。あ、みくちゃんは俺の嫁さんな! 惚れるなよ!」


 頭を下げる二人に、みくは目立たない胸をばんっと叩いて笑い、天野はそんなみくの頭を撫でて白い歯を見せた。


「そうそう。ウチの人に担がれる事なんて滅多に無いから嬉しかったよ〜。いつもは、アタイがウチの人を担ぐからね。ありがとうね!」


「ア゙イ゙ガト゚?」


 滅多に無い経験だとにこにこと笑うみくに、結が首を傾げる。

 飛ばされたのに、何故怒らないのだろう? と。

 因みに、みくが自分より大きい天野を担ぐと云う処はスルーである。


「いえ、本当に申し訳ございませんでした。まさか、結様がこれ程までに驚くとは…」


「いいって、いいって! 星坊達が戻って来るまで、軽く話をするか!」


「そうさね、知らなきゃ驚くし、星も月兎も怒りゃあしないって! 元気があって良いじゃないか! 結も伊達巻きが好きなんだろう? たくさん焼いてあるから、それをツマミに話そうじゃないか。今、持ってくるよ」


 申し訳ないと頭を下げる雪緒に、天野とその伴侶のみくは、笑いながら怒涛の勢いでそれを流した。


「ほら、お食べよ」


 そして、みくがコトリと囲炉裏の縁に置いた皿に盛られた物を見て、見覚えのあるそれに結が声を上げた。


「ア゙ッ゙!」


 みょ〜んと身体を伸ばす結に、雪緒がくすりと微笑む。


「伊達巻きです。みくちゃん様の得意料理なのですよ。僕が初めて結様にお声がけした時に、結様が食べていた物です」


「ア゙! ア゙アッ゙!!」


 そうだ。

 そうだったと結は思い出した。


 ぽかぽかで居心地は良いけど、また石を投げられたら痛いから、姿を消してこっそりとつまみ食いをしていた日々の事を。

 最初は高い処にあったのに、何時の間にか低い処に食べ物が置かれる様になった事を。

 この茶色くて黄色い物が物凄く美味しくて、夢中になって食べていたら、雪緒に見つかった事を。

 雪緒がいっぱい話し掛けてくれたから、話せる様になった事を。


「ほら、遠慮は無しだよ!」


「ア゙」


 言うが早いか、みくが畳の上でみょ〜んと身体を伸ばす結を抱き上げ、囲炉裏の縁へと乗せた。

 目の前にある大量の伊達巻きに、結は目を輝かせる。


「…コ゚レ゙、ト゚ク゚ベツ゚ノ゙、ト゚ク゚ベヅ…」


 この伊達巻きが、自分と雪緒を結び付けてくれたのだ。

 だから、これは本当に特別で大切で忘れてはいけない物なのだ。

 これは、とてもぽかぽかとするのだ。


「ん?」


 それを作ってくれたみくを見上げて、結は目をかまぼこの形にして笑う。


「ア゙イ゙ガト゚、ミ゙ク゚チャ゙。ブツガッ゙デ、ゴメナ゙。イ゙ダダキマ゙ス」


「んん〜っ!!」


 みくが自分の頬を両手で押さえて身悶える(さま)に、天野が苦笑する。

 雪緒だけでなく、結も人たらしだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
星は遠くまで飛んだのねえ(´∀`) 久しぶりにみんなに会えて嬉しいぃ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ