7話 暗黒魂Ⅲ 案件配信
暗黒魂の案件配信当日俺は、久しぶりにクラウンの事務所にやって来ていた。
東京のビル街の中にある、そこそこの大きさのビルがクラウンの事務所だ。
その中の3階が俺たちライバーの控え室や、小さなスタジオに諸々の機材などが置いており、基本的に俺たちが事務所に来る時に行く階層だ。
俺は事務所の中に入ると、まず初めに受付の人に話して、自分の社員証を受け取ると、クラウンのスポンサーの1つが置いてくれた、社員なら飲み放題なエナジードリンク専用の自販機でエナドリを買い、それをポケットに1本詰めてからエレベーターに乗り3階へと向かった。
3階に着くと前来た時は他のライバーが居たりもしたが、今回は事務所のスタジオで撮影するのが俺だけだったので、他のライバーさんとは会うことはなかった。
そして今日の案件配信は、事前に向こうの会社の社員さんと話し合いをしてから行うらしく、遅れでもしたら大変なので集合時間の30分前に控え室に着いたのだが、何故か俺の控え室内から自称有能マネージャーとフユキさんの声が聞こえる。
それも和気藹々とした感じではなく、何か結構真面目な話をしているトーンでだ。
流石に聞くのはまずいと思ったので、ちょうど今万場先輩が配信をしていたので、イヤホンをつけて周りの音をできるだけ取り入れないようにして、控え室の近くにあるちょっとした広場でしゃがみ込んだ。
それから10分ほど経った頃に話し合いが終わったのか、フユキさんが控え室から出て来たが、あまり話し合いが上手くいかなかったのか、表情は少し暗いままだった。
そんなフユキさんを見送った後に、ちょうど控え室からは死角になっている場所から、俺がにゅっと立ち上がると、自称有能マネージャーは酷く驚いた様子だった。
「黒斗さん!?居たんですか?」
「そら、居ますよ。それにそろそろ向こうの社員さんがくる時間ですよ」
「あ、本当だ」
フユキさんとの話し合いに集中していたのか、自分の本来の仕事を忘れていたらしい。
自称有能マネージャーはたまに、と言うかちょくちょくこうやってしょうもないミスをしかけたりする為、自称有能マネージャーはどこまで行っても自称なのだと思う。
と言うか正直それ以外は普通にスペックが高いし、それに毎回ミスしかけるのも何か別の物に凄く集中していたからで、本当はこの人は優秀なんだと思う。
それに外見も優れていて、たまに仕事で一緒に外に出る時は、男女問わず2人で歩いていることから、周りからカップルのように見られる事があるのだが、その時の周りからの羨望と嫉妬の眼差しはすごく気持ちよかった覚えがある。
と言うかうちのマネージャー以外にも事務所の社員さんはなんだか美形率が多く、今までで会った事があるクラウン所属ライバー達も、もれなく全員美形で、特にPrin'Sのメンバーはリアルでもアイドルをやれる容姿をしていて、更にはみんな俺の状況の大変さを労ってか、曲を借りに行った時には歌い方を教えてもらったり、そのほかにも色々やってもらって、言い方が悪いがホストに貢ぐ女性の気持ちが少しわかった気がした。
◯
自称有能マネージャーと合流してから20分後、待ち合わせちょうどに向こうの社員さんがやってきて、軽く今回やらせてもらう暗黒魂の世界観やどう言うゲームなのかを説明してもらった。
そうして俺の初の案件配信が始まったのだが……
YOUDEAD
「あの社員め嘘吐きやがったな!!」
配信開始から30分が経ったがまだ俺は最初の雑魚モブ相手に一方的にボコボコにされていた。
「なーにが、『やってみたらわかりますけど、世間が言うほど鬼畜じゃありませんから』だよ!クッッソ難しいじゃねぇか!」
:そんなこと言っていいの?相手見てるよこの配信
:暗黒魂は鬼畜ゲー異論は認めん
:頑張れ
:まだ、チュートリアルだぞw
「はい頑張れ、ありがとうございます。これがチュートリアルってマジ?ラスボスじゃ無いの?」
そう言いながらもゲームを再開する、ゲームの主人公がリスポーンしたのは、周りに墓がある墓地で、そこから少し進んだところには、全身を布で覆った謎のモンスターが居て、そいつが主人公を見つけると、勢いよくこちらに近づき襲い掛かってくる。
そして黒斗は毎度この敵に倒され、たまに左手に持った盾でガードし、そのモンスターを倒しても少し進んだ所には全く同じモンスターが居ており、進めてもここで倒されてしまっている。
「んぁ!勝てん!」
いつもの配信ならこの後もグダグダ何10時間でもやらせればいいのだが、残念ながら今は案件配信な為、ある程度はちゃんとやらないといけない為、いちリスナーとしてこの状況を見守って居たかったが、さすがにやらなければと思い自称有能マネージャーは立ち上がった。
「あ、ちょっと待っててマネージャーに呼ばれたから行ってくる」
そう言ってマイクを切ってからマネージャーと社員さんが居る方に向かうと、そこにはこちらと同じ暗黒魂Ⅲをパソコンで開いているマネージャーが居て、そこで自称有能マネージャーから基本的な操作方法や、攻撃の避け方に敵は後ろから攻撃するのがいいなどの、攻略に必要な情報を教えられた。
その情報をもとに再度ゲームを始めると、先程までのように最序盤で詰まることなく、途中景色に見惚れて崖から落下死したり、マップ内で迷子になった挙句、強いモブにエンカウントして瞬殺されたり、雑魚モブに集団リンチされたりもしたが、そこまで詰まる事もなく、たった2時間程度で今回の案件でやる最後のボスがいる、闘技場のような場所まで辿り着いた。
「おお、ここがラスボスのいる場所か……」
:まだまだ序盤なんよなw
:新しい敵を見つけるとラスボスに仕立て上げる系vtuber
:ようやくかw
ボスの身長は3メートルはありその全身を鎧で固めて、何故か胸に大剣が刺さっておりながら膝をついていた。
そしてそのボスの横にはボスよりもさらにでかいハルバードが置かれていた。
「何こいつめちゃくちゃ強そうじゃん。え?俺今からこいつと戦うの?絶対無理だろ」
:いいから早くやれ
:いけるいけるw
:武器の持ってない左に回り込んだら余裕
:さっさと剣を抜け
「わかったわかった、やるからちょっと待ってろ」
そう言いながら黒斗はボスの方へと近づき、胸に刺さっている剣を引き抜くと、ゆっくりとボスは立ち上がり戦闘が始まった。
「皆んな知ってるか?こう言う大きいボスって図体はデカいけど、ノロマって事が多いだろ。多分コイツも遅いと思うから、配信的にはあんまりよく無いと思うけど、ヒットアンドアウェイを続けて倒すけど、別にいいよな?」
:まぁそれで倒せるのなら
:そうだよなデカいと遅いもんなw
:これが暗黒魂を未プレイの人の考え方か
正直本当に配信の事を考えてない、つまらない方法を提示したのに、コメント欄から反感はなく、逆にやれる物ならやってみろと煽られる始末で、何が何やらと思っている間にボスは完全に立ち上がり、横にあったハルバードを持つと、黒斗の居る方に素早い動きで近づいてきて、そのまま黒斗を薙ぎ払った。
「はあぁぁぁあ??おま、は?何でお前そんなに早いの?マジで」
:草ァ
:ザコ乙
:ヒットアンドアウェイはどうしたんですか?
:配信映えしない勝ち方するんじゃなかったんですかwww
「マジ意味わからん」
その後も黒斗はその体からは想像もつかない素早い動きと、力強いハルバードの薙ぎ払い攻撃に苦戦しながらも、コメント欄やマネージャー更には向こうの社員さんからも、助言をもらいながらダメージを与えていき、相手の体力が残り半分となった時、いきなりボスが悶え苦しみ出したと思えば、身体中から黒い謎の物体を出し、その黒い謎の物体が鎧を着たボスを飲み込み、新たな化け物へと生まれ変わった。
「おいおいおいおい、第二形態があるなんて聞いてないぞ!やっぱりコイツがラスボスなんじゃねぇのか?」
:違います
:チャウチャウ
:まぁ形態変化はラスボスのイメージ強いもんなw
「絶対無理だって!!」
それからさらに1時間、合計で4時間近く続いた案件配信にも終わりの時は来た。
そう、黒斗がボスの討伐に成功したのだ。
「うおっしゃあぁぁぁあ!!勝ったぞ!!!」
:おめでとう!
:888888
:くそッスパチャをしたい!
:おめでとうございます
:まさか本当にクリア出来るとは……
「皆んなマジでありがとう。自称有能マネージャーと、あと社員さんもありがとう。みんなのおかげでクリア出来たよ」
そう言いながらマネージャー達の方を向くと、マネージャーと社員さんはお互いの手を取り合いながら、無言で頷き合っていた。
「いやー、でも暗黒魂ってびっくりするぐらい神ゲーだったな。そらみんなが勧めてくる理由がわかったわ」
:続きどうすんの?
:続きやるん?
:続編希望!
「続き?うーん今はわからんけど、いつかは1から順番にやっていきたいかなってのは考えてるかな」
:言ったな
:言質取ったぞ
:絶対やれよ
「わかってるわかってるちゃんとやるから、それと本当に暗黒魂神ゲーだったから、3だけじゃなくて1と2も買ってくれよな!以上案件配信でした。また明日」
:乙
:お疲れ様
:あ、これ案件配信だった
:乙
:おつかれ
◯
無事に配信が終わり、向こうの社員さんに感想を聞いてみると概ね満足で、見ていてすごく楽しかったと言う感想をもらえてすごく嬉しかった。
そしてマネージャーと社員さんは何か他にも話す事があるらしく、俺は2人に挨拶をして帰りの支度をしていると、万場先輩からメッセージが届いていることに気がついた。
万場「男魂集で今度コラボしようぜ!」
黒斗「俺は別に大丈夫ですけど、一体何をやるんですか?」
万場「いや、自分も色々考えたんだけど、自分達は男魂集って言ってるんだから、やっぱり男を前面に出したコラボをやりたいと考えたわけよ。そしたら思いついたわけよ、男は度胸だってな!」
そのメッセージからすごく嫌な予感を感じたが、それでも男魂集は俺が更にvtuberとして、もっと上に行くには必要不可欠な存在な為、正直ヤバそうな気はするが、これこそ万場先輩の言う男は度胸という物なのだろう。
俺は万場先輩のメッセージに楽しみですと、その企画に賛成の旨を伝えるメッセージを送りつけた。
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