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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
70/139

070.目覚め



...




ノワールは目覚めた。


目が覚めても、生きているのか死んでいるのか分からなかった。真っ白な虎に踏み潰される前、その虎の透き通った瞳に怯えたノワールが映ったのを見た。


それだけ思い出すと、口の中に色んな味がして酷い味である事を理解する。ウェッと小さく呻くと、目の前に差し出された袋に胃の中身を吐き出す。袋の中身は赤い血が混ざっていた。


血だけではない、既に胃の中身も全て出ていたのだろう。胃酸の味がますます最悪の気分にさせた。そして、またもサッと差し出された水を受け取ると、口を濯いで桶に吐き出した。



「ノワール、大丈夫...?」



まだハッキリしない頭のまま、その優しい声の主の方に目をやった。アンが心配そうに背中を摩りながらノワールを覗き込んでいた。アンが背中を摩る温かな感覚に、まだ生きているのだと認識が深まってきた。


ただ、少しずつ意識がハッキリしてきたノワールは、アンに桶を持たせていたことにも気が付き猛烈な恥ずかしさと申し訳なさに襲われた。


汚いところをお見せして申し訳ありませんと何度も何度も謝り、急いで顔を洗いに行こうとした。


だが、ベッドから降りた瞬間に今までで最も酷い右足の痛みに襲われた。低い呻き声を出して床にドタッと大きな音を立てて転がる。


その音でノエルとノラもノワールの意識が戻った事に気付き、部屋に駆け込んできた。2人はノワールを両側から支え、歩くのを補助した。






洗い場に着くと、顔だけではなく髪まで洗い、服も着替える必要があると気付いた。少し待たせる事をアン達に代わりに謝罪してくれるようノラにお願いし、ノエルに支えてもらいながら頭から水を被り全身を洗った。


髪の汚れはなかなか落ちず、ノエルに湯を沸かしてほしいとお願いをした。そして、身体をサッと洗おうと屈んだ途端にノワールは目を疑った。







痛みが酷くなったと感じた右脚は、()()()()()()()()()()()ようになっていたのだ。




色味こそ変わらないものの、枯れ枝のように硬くなっていた味がふっくらと少年らしい肉付きに戻っていた。




見るのも嫌になっていた脚が、少しでも戻ってくれた事に、喜びで手が震え、涙が出そうになった。それでも、これからまだアン達と話さなければならない事を考慮して水を頭から被り誤魔化した。


事前に準備していてくれたのであろう、ノエルは思っていたよりもずっと早くお湯を持って戻ってきてくれた。




汚れを洗い流しサッパリした事で、ようやく自分は、"魔物のような生物に襲われた"という記憶が頭を駆け巡った。




あの時、


死を覚悟したはずだった。




先程全員が部屋にいたため、ひとまずは無事だったようだが、今は安全なのだろうか?


悠長に湯で髪など洗っていた自分に、

「僕は何をやっているんだ」

と口の中で呟くと、ろくに髪を拭くこともせずアン達のいた部屋に急いだ。





部屋に戻ると和やかな会話が聞こえた。


「姉ちゃん、今度は美味いパンくれるなんて、やっぱいい奴だな!美人だしな!」

ノエルはアンにもらったであろうパンを頬張っている。両手に大きなパンを持っていた。


「私もお姉ちゃんとテディさん好き!ありがとう!」

ノラまで既に2人に懐いてしまったようだ。何やら可愛らしい絵の描かれたパンを食べている。



その穏やかな光景と温めたパンの甘く香ばしい香りに、ノワールはグウゥ......とお腹を鳴らしてしまう。


アンはノワールが入ってきた事に気付くと、温かい紅茶を入れてくれた。ミルクの入った贅沢な紅茶など、今まで飲んだことも無かった。




酷い醜態を見せた上に、こんなにも至れり尽くせりな状況に、話すべきだったことも纏まらなくなっていた。和やかな雰囲気に安心した事もあり、ズキンズキンと痛み疼く脚も幾分マシになった気がした。


「...色々あったけど、ひとまず今は安全よ。だから、食べれるなら食べちゃってね。」


アンがそう言ってノワールの分のパンと紅茶を用意すると、受け取る前にテディが髪をわしゃわしゃとタオルで拭いた。


「わっ!?」


「ハハッそんなビショビショな頭じゃ、パンが水浸しになっちゃうよ。」

と、テディは笑った。



父も母も働き詰めで、兄として2人の面倒を見る事に必死で生きてきた。誰かに面倒を見てもらう経験も、優しく頭を撫でてもらうのも久しぶりで、一言でも話したら涙が溢れそうになった。





「...がんばったのね。」


そう呟いたのは、ブウだった。

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