068.お説教
「ところで、ヘンリーおじさんどうしてこちらに?」
アンが聞くと、ヘンリーは外に出るように促した。その上で風魔法で会話が漏れないやうにアンが音の遮断をする。
「いい質問ですね。それは...あなたへのお説教のためです。」
ヘンリーは狐目は弧を描いて笑みを浮かべるが、目の奥は1mmも笑っていない。その目つきだけでアンはヒッと背筋を伸ばした。
「国王陛下への謁見では、思い切りましたね?」
ヘンリーはズズィッとアンに顔を近付け圧をかける。アンに向かって懇切丁寧な敬語が恐怖を助長する。
「えぇえええええ!きちんとご報告は...!!」
アンは両手をブンブンと振って否定しようとするが、恐怖でその先の言葉が浮かばない。
こんな時こそ精霊達に助けを求めたいが、彼らは火の精霊のカゲとコショコショ攻撃で戯れあっている。
ヘンリーは一息吸うと、
「まったくあなたがしっかりと効能を伝えず、御守り程度などとふざけた事を言うもんですからねぇ...。国宝級の品を600も搾取したあげく、褒賞もなく帰してしまい、現国王は、愚王として名を馳せるところでしたよ。それもセト団長が後程正しく効能をお伝えくださったからいいものの...彼も冷や汗をかきながら陛下へ報告を重ね、可哀想で仕方ありませんでした。ですので、私がこちらにこっぴどく説教をするためだけに足を運んだ次第だが、弁明の余地はありますか?」
と、罪状を述べるかのようにサラサラとアンに毒を吐いた。
「も、申し訳ございません...。」
アンはヘンリーが喋っている間息をつくのも忘れていた。終わった途端に息を大きく吐き出し、煮るなり焼くなりしてくれと言わんばかりに項垂れる。
「まったく、君はスコットウォルズの田舎にいる時から相変わらずだな。」
ようやく通常の話し方と表情に戻ったヘンリーは、アンの頭をガシッと掴む。
「いいか、我々魔法使いに対し、確かに国王陛下でさえ基本的には大きく出ることはできない。魔法使いはそれほどの大きな特権を得ている。
だが、我々の言動次第では国王陛下だけでなく、騎士団・地方の貴族・下級層まで影響が派生する事もある。ましてや国王陛下に恥をかかせるなど言語道断だ。それをゆめゆめお忘れなきよう、魔法使い殿。」
ヘンリーはアンの頭をワシワシとしながら、最後にピシッとデコピンをお見舞いした。
「ご迷惑おかけしましたぁああ。陛下に謝罪に伺った方がいいかしら?」
アンはオデコを摩りながら尋ねる。
「いや、今回は既にセトから正しく報告を上げてもらっている。それにアンがまだ成人したばかりの魔法使い、かつまだ世間的には新たな魔法使いの誕生も知らされていない状況だ。そのため、代わりに私がわざわざ懇切丁寧に指導することとなったんだがな。」
またもヘンリーは言い終わると同時にデコピンをお見舞いした。
「きょうしゅくです...。今度おじさんにも何かお詫びします...。」
アンは再びオデコを摩りながら反省する。
「話は以上だ。...今度、詫びにクロエの好きな色や食べ物といった情報を頼む。」
ヘンリーはムスッとしながらもアンをチラリと見た。
「謹んでお受け致します...!あ、ついでに魔法をとく前にさっきクロエさんに何を言ってたのか教えて!」
「...却下する。」
ヘンリーはよほど恥ずかしかったのか、ポッポッと周囲に火の粉が散った。
...
ヘンリーを見送った後、アンとテディはクロエに何を言われたのか聞いてみた。
すると、
クロエは恥じらいながらも答えてくれた。
「あ、明日の夜夕飯に誘われてたんだけど...せっかくなら明日の夜の満月にはきっと、この美しい服がよく映えるから...着て来てもらえないか...?って。
ヘンリー様ったら、セリフが恥ずかしすぎるわよ!!!」
とクロエはまた思い出したように両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。アンはニヤニヤしながらクロエと恋バナに興じる。
一方のテディは、今後ヘンリーが来るたびにクロエに似合う服を仕立てておこうと決めた。
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