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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
65/139

065.愚王



...



その頃、王宮では。


「カドガン、ヘンリー。例の件は調整つきそうか?」

国王陛下は客間で信頼できる関係者だけを集め、内密に会議をしていた。


「はい。特権階級の者も、本の本来的な価値を理解するものは少なく、さほどうるさくは言ってこないでしょう。それこそ複写機を利用して文書で通達します。」

ヘンリーは表情も変えずに答えた。


「王宮内の印刷事業は、既に人員を選定済みです。それから、魔法使い殿が言っていたように下級層の者達が自身で稼げるようになるのであれば、どうせならば住み込み形式にするのも良いかと。


自分達で稼げるのですから、稼ぎのうち何割かを差し引き衣食住の費用にあてましよう。その管理人として女性数名を登用する事で、それもまた雇用に繋がります。」

カドガンは仏頂面のままに意見を言う。


「下級層の生活の質の向上にこれまで手をつけることができませんでしたが、ここで王の懐の深さを国民にアピールする事も可能ですね。」

ヘンリーが口を挟んだ。


「そうか。カドガンの案はすぐにでも取り掛かってくれ。王都内に国で持っている閉鎖中の繊維工場があるだろう。それを利用すればいい。


だが...今回の下級層への事業は決して誇り、アピールできるような事ではない。魔法使い殿が発案したものであり、格差の是正には手をつけてこなかった我が先祖の怠慢の象徴のようなものだ。」

国王陛下は悲しげに眉間を狭めて言う。


ヘンリーは、国王陛下は優しすぎる事を懸念しつつも、そういう人間らしさが人を惹きつけるのだろうと考える。


「それで、もう一方の件は?」

国王陛下は溜息をつくと、次の話題へと促した。


「はい。遠征中のグレイソン団長に代わり、私セトからご報告致します。魔法使い殿の製作した防御力・回避力向上のポーション...のような紅茶ですが、効果はグレイソン団長及び私の方で検証済みです。


Bランクまでの魔物であれば、死傷者を出す事なく対応していけると思われます。また、Sランク級の魔物であっても、副団長クラスのレベルであれば完全回避・防御は楽々こなせるかと。私自身、グレイソン団長に銃弾を至近距離で弾かれております。」


セトが説明すると、国王は目を見開いて立ち上がった。


「馬鹿な!銃弾を至近距離で弾くだと!?それは盾か?鎧か?」


「いえ、剣です。剣で薙ぎ払いました。」


国王はセトの言葉に、放心状態のようにドサッと後ろの荘厳な椅子に腰掛けた。


「よもやそこまでの回避力...速さが手に入るとは。褒美も欲しがらず、なぜ魔法使い殿はそのような国宝級とも言うべき代物を我らに差し出して下さったのか。」


国王は顎の髭を撫でながら、何か裏でも...それこそ思惑の見落としがあるのでは、と考える。だが、そもそもあのポートマン夫妻の孫だ。大層な褒美よりも、普通の生活を望むのは理解できる。


むむ、と難しい表情で考え込む国王に対し、アンの通常のふわふわ感を知っている者たちは苦笑いだった。


((まぁ、アンですからねぇ...。))

と、ヘンリーとカドガンは口の端だけで笑う。


「ふむ...セト、お前には何か魔法使い殿は目的を伝えたか?」


「ええ、先日のルーンドッグによるグレイソン団長の怪我がキッカケだったと。騎士団の任務の危険性を憂いて我らに授けて下さいました。」


セトは綺麗にまとめたが、実際のアンの言葉はもっとざっくりしたものだった。



『きっと強くて偉い団長さんが怪我をしてしまうなら、他の方はもっと危険なんですよね?だから、こんなものでよければどうぞ!じゃんじゃん使ってください!材料はまた取りにいけばたくさん作れますから!』


その言葉にセトが驚いていると、袋に入った茶葉をドサっと持たされた。貴重な品をまるで藁を扱うかのように、あまりに無造作に渡されたために落としそうになった。横に並んでいたグレイソンとマークはそれをとんでもない反射神経で支えた。セトをギロリと睨んだその4つの目からは、「国宝級の品を...茶葉一匙すら死んでも取りこぼすな!」と訴えているのが伝わった。





国王は、あの時のアンを思い出して遠い目をするセトなど目に入っていないかのようにまた悩ましげに眉間に皺を寄せた。

「ルーンドッグ...?たしか群れで行動するのが厄介な上に、強靭な歯で噛まれればひとたまりもないという、あれか?」


「はい。グレイソン団長はそれに左腕全てを持っていかれてもおかしくない噛まれ方をしました。が、実際には腕はひどく腫れたのみだったと。事前に魔法使い殿が下さった紅茶によって騎士生命を絶たれる左腕の欠損を、内出血程度に抑えたとの事でした。」


「なんと言う事だ!それをあんなにも簡単に寄越したという事か!?私は効能の高さも理解しきれていないままに、受け入れてしまったという事か...。これでは甘い蜜だけを吸う愚王ではないか...。」

国王陛下はこれにはもはや人目も憚らず、ズルズルと背もたれに身を預けた。


「いえ、あれは魔法使い殿の伝え方に問題があったかと...。」

ヘンリーが苦々しげにフォローする。アンには後でお説教だ。


「それにしても、何故だ。謁見で魔法使い殿は、『たいした役には立てないが、御守りがわりと思って騎士団で受け取ってもらえればそれでいい』としか言わなかったではないか!普通謁見の場合はそれ相応の報酬・見返りを求めてくるものとばかり...。」

国王はもはやブツブツと独り言のように話す。


実際に、カドガン含めもらうべき報酬は正しく受け取る。受け取らぬもまた無礼に値する事もある為だ。


「まぁ、ある意味では見返りを受け取らぬ事も魔法使いの特権ではありますね...。祖父母のポートマン夫妻がそうであるように。」

ヘンリーは困ったように眉を下げつつも、国王を宥めた。


「あ、あの...恐れながら陛下。」

セトは今の状況に冷や汗をかきつつも、今のうちに誤解を改めねばと意を決して口を開いた。


国王は、良い事なのに、嫌な予感!と思いつつもセトへ発言を促した。


「今回贈っていただいた品は、ルーンドッグ討伐時の数段上の効能だそうです。戦闘時にやたら重い鎧すらも不要かと!」

セトは冷や汗ダラダラで早口に報告した。






国王陛下は「ほぅ...。」とだけポツンと言葉を放つと、机にベシャリと突っ伏した。

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