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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
63/139

063.複写機



...


グレイソンとセトに効能を試してもらってから、1週間。あれからのアンは文字通り大忙しだった。紅茶の寄付に際し、やはり"騎士団だけで黙っていて"なんていうわけにはいかず、2日後にはヘンリーと国王陛下の知るところとなった。仰々しい褒美や勲章はいらない代わりに、それだけでお目溢しとなったのは幸いだった。


また、それとあわせて予めジャスパーから許可を得て存在を公表することとした複写機についても、それを用いた貧困層への職業提供をする許可を得た。本来的には許可が必要なわけではないが、時代を変えるほどの魔道具となる可能性や、大々的に動く事もあり事前共有の意味合いが強い。それについては国王陛下も重く受け止め、ヘンリーを相談役に付けてくれることとなったので大変心強かった。




そして、白亜の本屋の開店時間前。



「デザイン含めできあがりました。」

ジャスパーはゴロゴロっとテーブルにウサギ型のマウスのようなものを置いていく。10個の複写用魔道具だ。


「ありがとうございますジャスパーさん!デザインもとても可愛いです!」

アンは手を叩いて喜んだ。


「いえ、アイディアは尊き貴方様のものですから。」

ジャスパーは淡々と話す。連日一緒に過ごすうちに、前ほどポートマン崇拝の発狂はなくなったが、それでもところどころにまだ崇拝感が残る。


「あら?ウサギだなんて、可愛いわね...これは何の魔道具なの?」

クロエも見にきた。


ジャスパーが説明する気は無さそうなので、アンが説明する。


「これはですね〜"複写機"というものです!」


「複写機?聞いたことがないわ。」


「ジャスパーさん、私にも使い方を教えていただきたいので...!せっかくなら、このクッキーに何かお願いしてもいいですか?」


「クッキーに...ですか?良いですが、焦げますよ?」


「印刷部分だけが焦げるのは味に問題はないはずですので!」

アンは前世で和菓子に焼きごてで模様を描いていた事を思い出しながら言った。


「...では。何を描きますか?」


「うーん、そうですねぇ...。


 あ!では、クロエさんのお店のロゴを。」


「承知しました。」


ジャスパーは返事をすると、魔道具を一つ持ちクロエの店に向かった。そして、うさぎの目の部分を店のロゴに近付け、尻尾部分のボタンをカチッと押した。


ジャスパーはテラスまで戻ってくると、

「準備はできました。」

と言って、うさぎの耳部分をギギッという音とともに倒した。レバーのようになっているらしい。


ジュッ。


アンには懐かしい焼きごての音がした。クッキーにはしっかりとクロエの店の薔薇のロゴが描かれた。少し焦げた部分からクッキーの甘い香りが漂う。




「「...可愛い!!!」」




クロエとアンの声が重なった。


「凄いわ!ジャスパー!こんな可愛いお菓子だったら、飛ぶように売れるわよ!」

クロエは大興奮だ。


「そうですね。クロエさんのお花とセットにして特別な日に売るのもいいですね!あとはジョシュアさんのパンに印刷するのもありです!きっと可愛くて子どもや女性は喜びますよ。」


アンは前世でのキャラクターパンを思い出して提案した。


「...なるほど、そんなものが嬉しいのですね。パンにもそんな用途があるとは。」

ジャスパーは真顔でアンの話に聞き入った。


(前世での印刷とは異なり茶色のみだし、完全に焼き印でしかないわよね。燃えやすい素材には今のところ使えなそう...。でも、看板や絵姿、羊皮紙への印刷などは可能かしら...。)

と、アンが眉間に皺を寄せて考えていると、テディもやって来た。


「やあ。おはようアン、クロエ、ジャスパー。なかなか面白そうな事をしているね。」

テディはニコニコとクッキーを眺めていた。


「服にも使える。」

ジャスパーはサラリとテディの思考を先読みして答えた。


「え!?燃えないの!?」

最も驚いたのはアンだった。ギミックとしては、雷の魔石で焼き付けているはずだ。燃えやすい素材になど使えば、発火するだけだろう。


「ででででも、さっきクッキーが焦げるって...。」


「先程申し上げたのは、真っ白なクッキーに絵柄の焦げがついてもいいのか?ということです。燃えてもいいか?とは言っておりません。」


クロエは違いが分からず首を傾げている。


アンは何となくジャスパーの言いたい事はわかった。正しく言っていただけの事だ。可愛い絵柄など、ジャスパーにとってはただの焦げでしかない。洋服のシミのようなものだったのだろう。クッキーに"絵柄の焦げ=シミ"がつくと。それはジャスパーにとって、燃える事とは全く別の意味だ。


「ジャスパー、これ僕も2つ買うよ♪ちなみにどんな使い方をして、どれだけ売れてもいいのかな。君が作ってくれた水と風の魔石ランドリーだけでも僕は生きていくのに困らないくらいだけど。やはりここは売上の何割かジャスパーに納める形の方がいいかな?」


「魔道具の代金だけで問題ない。むしろ2つくらいなら代金も要らん。金なら腐るほど余っている。」

ジャスパーはまた、誰しもが言ってみたい事をさらっと言ってのけた。そして二つ、ポケットに入れていた魔道具をテディに放った。


「ありがとう!そう言うとは思っていたけどね。コレで面白い商売をしてみせるよ。」


テディはウフフっと笑うとランドリー屋へ戻って行った。途中、パン屋のジョシュアにも魔道具を見に行くよう声をかけていた。実際、テディは殆ど働く必要がない。お金の計算や、使い方の分からない客に説明するくらいのものだ。ジャスパーの作った魔道具のランドリーは抜群に性能が優れている。壊れることも殆どない。必要なのは年に4回、消耗した魔石の交換だけだ。




ワイワイと盛り上がっていると、そこにウィルが入ってきた。

「おう!皆今日は早いな。」


「ウィルさん!おはようございます。聞いてください!」

アンはウサギ型の魔道具を一つ、両手で包むように持つとウィルに差し出した。


「ん?なんだこのウサギ。あー、ジャスパーの魔道具か。」

ウィルは見慣れた動物型に、すぐに察しがついていた。ジャスパーは自身のブランドである事を分かりやすくするために、いつも動物の形を取り入れていた。それと、単に興味のある動物の骨格や機能の研究を兼ねているらしいが。


今回は、キリンかウサギどちらがいいかアンに聞いてきてくれた。キリンだった場合にはレバー部分を首にするつもりだったらしく、首を横に折るのが気が引けたアンは「是非ウサギで」と丁重にお断り...お願いをしていた。


クロエやジャスパーは興味がある部分は終わったため、店に戻って行った。入れ替わりでジョシュアがやってきた。


「おう!何やってるんだ?テディに俺も見に行ってこいって言われたんだが。」

ジョシュアの手にはちょうど朝ごはん代わりに食べようとしていたであろう、白い丸パンが握られていた。


アンはそれを少し拝借すると、百聞は一見にしかずとばかりに焼印を押して見せた。


「見てください。これ、ジョシュアさんのパン屋さんのロゴです。」


アンはニコニコと2人に差し出す。


「「...!!」」

2人は面食らったように、そのロゴに見入った。


「可愛い動物や、顔などを描くと女性や子どもに人気が出ると思うんです。これ以上の元手はいりませんし、どうでしょう?」


「〜〜〜ッ!!!ジャスパーーー!!俺の分1個注文させてくれ!!!」

ジョシュアがジャスパーに向かって叫んだ。


ジャスパーは、振り向き様にジョシュアへ複写機を放った。

「それをやる。金は要らん。」


「ジャスパーさまぁああああ!!!」


(ジョシュア、現金...!)

と、思ったがアンは心に留めた。


一方、ウィルの反応を見ると、顔が思い切り引き攣っていた。


「アン、これ...俺に見せた理由ってまさか...。」


「お察しの通りかと思います。本の複写です。」




「...だよな。これ、本屋の生業そのものひっくり返すぞ...。」

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