054.思い付きとオヤツ
...
「...なるほど。」
アンからの相談を受け、考え込んだジャスパーだった。魔道具以外のことは考えるのに多少時間がかかるようだ。
「いかがでしょうか?」
「それも可能でしょう。私が日頃王都内で見てきた中でも97人いましたから、全部が全部は不可能でしょうが。それでも数十人からでも始められることかと。」
「ジャスパーさん、それってもしや...ただすれ違った人個々を把握して数えられるという事ですか...?」
アン達3人は衝撃で言葉が出なかった。
「知っている事なら知っているというだけですが?」
ジャスパーは淡々と言葉を返すが、ジャスパーは見た事をほぼ完全に記憶する事ができるという事だ。街ですれ違った人間の数など、今日1日分だって全く覚えていないのが普通だ。それを一人ひとり顔の照合までできているという事なのだろう。
「お前さん、何者なんだ...。」
マークは感心したように呟く。
また、スタスタと歩き始めたジャスパーだったが、それに対し振り向いて答えた。
「魔道具師だ。」
...
ジャスパーの事で収集作業が止まっていたアン達だったが、一旦休憩をとることにした。
アンは可愛らしい赤いシートを敷くと、せっかくなので3人にもそこへ座って欲しいと促した。
「ほう、シートなど持ってきてくれたのか。野郎だけではその辺にそのまま座り込むだけだからな、たまには気分も変わっていい。」
マークはピクニックのようだと笑っていた。
「あと、皆さん良かったら紅茶をどうぞ。疲労回復の効果が少し付与されています。それと、こちらは試作品なんですが味噌バターマフィンです。ジャスパーさんは一度試作で食べた事のあるもので恐縮ですが...。」
「なんと、王宮でも今話題の紅茶がいただけるのか!?しかもミソバターマフィンとはなんだ!?」
ケントは嬉しそうだ。目がキラキラと輝いている。
「ケント!仮にも護衛業務中だぞ。警戒は怠るなよ。」
マークは一言注意する。
「はい!私が見張りで立ったまま食べます!」
良い返事だが、目がキラキラ、ワクワクしている感じは変わらない。
アンはそんな2人を見てクスクスと笑った。
「それにしても、疲労回復の紅茶とははじめて飲みます。どのくらいで効いてくるのでしょう。」
ケントは不思議そうにアンのいれてくれた紅茶を眺めている。
「そうですね...皆さんはこのくらいの距離ならさほど疲れないでしょうから、もしかすると分かりにくいかもしれません。けど、数十秒もすれば効いてくるはずです。」
アンはそう言って紅茶に口を付けた。
それにならって3人も紅茶を口に含む。男性用に甘さはないシンプルな味わいだった。
ケントはやはり若いこともあり、疲労回復の効果はほぼ必要がなかったようだ。変化が分からないらしい。
一方でマークは長年蓄積した肩や腰の痛みが少し和らいだと大喜びだった。ジャスパーは魔道具制作で酷使した眼精疲労と頭痛がおさまっていると、嬉々としていた。
味噌バターマフィンはケントが1番気に入ったようだ。
「これ、香ばしい風味と味わい深さ、ほどよい甘さが最高だな!バターのコクがまたいい。定期購入させてほしい!!」
「あ〜これは酒のつまみにはならないが、オヤツにはいいな。若造だけではなく、年配の騎士達にも気に入られるだろう。」
マークも味わって食べてくれた。
ジャスパーは美味いとだけ言った後、サッと食べきってしまった。
そして4人は食べ終わると再び素材収集に向けて歩き出した。