053.非凡なる魔道具師
ジャスパーはスタスタと歩いて行ってしまう。
アンはケントの腕の中、驚きのあまり両手で口を覆ったままだった。ケントもジャスパーの奇行に思考が止まったようにアンをローブで庇ったままである。
マークは多少落ち着いたのか、
「ほれ、置いていかれるぞ。」
とだけ言うとケントとアンの肩をポンポンと叩いた。
ハッとした2人も歩き出し、陣形を整え直す。
「それで、お前さんさっきの行動はなんだったんだ?」
マークが気になるところを聞いてくれた。
「魔道具の設計だ。」
ジャスパーは地図を見ながら応える。
「設計とな?凄まじい光と轟音だったぞ。」
「実験も兼ねていた。複写というものを実現できるか考えていた。」
「で、できるんですか!?」
アンは驚きのあまり、ジャスパーの方に振り向いて聞く。
「概ね可能だとはわかった。今は完成には道具が足りないが。」
ジャスパーはサラリと応えた。
「「「...。」」」
3人はジャスパーが魔道具師として非凡でいるという事はなんとなく知っていたものの、天才の域なのではないだろうかと思った。
「ジャスパーさん...あの一瞬で複写を魔道具として具現化しちゃったんですか...?」
アンはコピー機を知っているために、より驚愕だった。地図の精密さを見ている上、ジャスパーの魔道具の完成度の高さは知っている。ジャスパーは王宮からもいくつも定期注文を受けるほどの腕だ。ちょっと不恰好で愛嬌のある魔道具など、先日見たメッセージ用の鳥を模した魔道具くらいである。
そんなジャスパーがあの精密な地図を複写する魔道具を考えたという事は、カラーコピーではないにせよ、モノクロでも完璧にコピーできてしまうという事だろう。
「.......っ!!?」
アンはある事に思い至り、更に鳥肌が立つのを感じた。
「アン?どうしましたか?」
ケントがアンの足が止まったのを察知して、アンを覗き込む。
「おっとぉ...!?」
マークがアンが足を止めたためにぶつかりそうになった。
「...少なくとも.......ジ、ジャスパーさん...が......とんでもなく時代を押し進める事になるとだけ理解しました...。」
アンはハハッと力なく答えた。
「「どういう事だ...??」」
ジャスパー以外の2人にとっては理解が及ばない事だった。
「複写というものが一般化すれば、そうだろうな。」
ジャスパーはサラリと答える。
「で、できてしまうんですか?」
アンは恐る恐る聞く。
「可能。先ほどの魔石は利用価値が無いと、値段もつかず市場取引がされないくらいには溢れている。」
「ジャスパーさん、つまり下手するとその魔石も値段跳ね上がるんじゃ...。」
「だろうな。他にも幾つか同時に思いついた魔道具がある。早急に王宮に連絡して魔石の回収に勤めてもらおう。」
ジャスパーにとっては、作りたい魔道具ができただけの事でそれ以外はあまり興味がない。あくまで淡々としていた。
アンは恐らく手法は違えど"印刷技術"が生まれる瞬間を目撃したのだと分かった。教科書があれば、そこに間違いなく載るレベルの出来事である。
今は紙こそあるものの、全て手書きで書き写している時代だ。先ほどの魔石がどのように魔道具に組み込まれるかは分からないが、石ころ同然の扱いを受けているものが下手すると水や火の魔石まで価格が跳ね上がるのではないかと想像した。
「...!!」
ふと、アンは口に手を当て考え込んだ。ジャスパーのこの技術がまだ誰にも知られず、そして確実に価値が高まるこの状況ならば...と。
アンは常日頃心に引っかかっていた事があった。それを解消できる時かもしれない。
アンは顔を上げると、ジャスパーを真っ直ぐに見つめて言った。
「ジャスパーさん、ご相談があります。」




