81:キリクさんのお仕事
「カーニバルの前後は観光客もだけど、お祭りに乗じて一儲けしようとする商人や旅芸人も多く訪れるからね。きちんと国の許可を得て商売する人たちばかりなら助かるんだけどねぇ」
キリクさんは大袈裟なため息をついてみせる。国のトップ、すなわち執政官のエミールになるが、彼の許可を直々に取りにくる国賓級のVIPならともかく、中流階級居住区には無許可でふらりとやってくる人々もそれなりに存在する。それ以前に貧民街が無許可の来客の溜まり場みたいになっているし、余程の問題を起こさない限りリュードのように普通に暮らしてはいけるくらいにはおおらかな規制だった。しかし、恐らくそういう連中の情報や、上層にバレていない小さな揉め事やトラブルはだいたいキリクさんの元に第一報が届くのだ。観光シーズンを前に、キリクさんが多忙なのも頷ける。
「まぁリュードの前でする話でもないか」
リュードも話をきちんと通せば国賓級ではあるのだが。いかんせん本人が隠しているので仕方がない。
「アンタに迷惑かけるようなことはしない」
「だろうね。君は賢いからなぁ。立ち回りも上手だし」
憮然と言い放つリュードに、キリクさんは納得して頷いた。
ニコはというと、二人の会話をよそに、一人物思いに耽っていた。やはり中流階級居住区の情報を得ようと思ったら、キリクさんを避けては通れない。面倒なことになりそうだが、それでも、ニコには踏み込んで見るより他に手立てがなかった。
「どうかしたのかい、ニコ。難しい顔をして」
「あの、キリクさん……」




