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79:魔法使いのお宅訪問

中流階級居住区の最有力者が住んでいるとは思えない、居住区の外れにある小さく古い小屋だ。異国の布で覆われた入口を分け入ると、視界いっぱいに映る物量の多さに度肝を抜かれる。この小さな空間にどうやって納めたのだろう、これこそ魔法ではないかと見紛う、謎の薬草、謎の鉱石、謎の実験器具や謎の文献が壁一面の棚に所狭しと並んでいたり、床に転がっていたりする。多分奥にはもうひとつ部屋があって、そこがキリクさんの居住スペースなのだろうが、果たしてその部屋へ続くドアが開くのかどうか定かではない。誰もその部屋に入ったことは無いし、基本的に客はこの物だらけの部屋に通されて占いなり相談事なりしているようだった。


「ごめんください。キリクさん、いますかー?」


相変わらずな小屋の中を覗き込んで、ニコがどこともなく声をかけると、奥の方で平積みされた本のタワーがグラグラと揺れた後、ひょっこりとキリクさんが顔を出した。


「やあ、ニコじゃないか。久しぶり!それにリュードも。実に珍しい組み合わせだね」


「どうも」


「今日は一体どんな用だい?運勢でも占おうか?」


魔法使いの存在が、未だに庶民の間ではきちんと浸透していないので、キリクさんは近所の人達からは占い師だと思われている。胡散臭いひとだが、持ち前の話術やらコミュニケーション能力やらですっかり周囲の信頼を勝ち取っており、むしろ魔法よりもそっちの方がすごい気がする。


「占いは遠慮しときます。今日はキリクさんに聞きたいことがあって」


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