53:賭け2
ここで指輪だけ回収されて放り出されたりしなくて良かった。勤務態度が真面目な騎士達で何よりだが、二人してニコのことを連行しているので、門番が居なくなってしまったのだけど、大丈夫なのだろうか。
ニコがそんな心配をしていると、騎士達がコソコソと話す声が聞こえてくる。
「おい、この庶民、妙に落ち着いてないか?拘束されてるってのに」
「確かに……騎士団長の指輪を持っていることと言い、何者なんだ、コイツ……」
「い、いてててて!ちょ、ちょっと〜、あんまり手首をギュッとしないでください〜」
めんどくせぇ、と思いつつ、一応怯える演技も付け加えておく。もう手遅れだろうが。
いよいよモブキャラにまで普通のモブキャラじゃない認定されてしまったら、ニコはこの国で生活しづらくなってしまう。気をつけなくては。ニコだって表向きは普通のモブキャラの一人なのだから。
とは言いつつ、今回ばかりは確実に自ら渦中に飛び込んで来ている。言い訳は出来ない。前世の完全攻略の知識を持ってしても、どうなるかわからない。
「私」は転生してもなお、ショークラというゲームを思いっきり楽しんでいるらしい。セーブもロードもリセットも出来ないけれど。
作戦通り、許可証が必要なゾーンへ拘束されてはいるものの入ることは出来た。問題はここからである。
「あの、僕は一体どこへ連れて行かれるのでしょうか?」
ニコは騎士二人に問いかけた。
「尋問室だ」
「罪人や容疑者が一時的にまず運ばれる部屋だ。そこで話を聞かせてもらう」
なるほど。取調室、みたいなものだろうか。そこで自白を強要されたり、下手したら拷問されたりなんかもあるかもしれない。ここはドMで有名なエミールの管轄下なのだから。
そう、エミールの生活圏まではやって来たのだ。しかし、だからと言って必ずしもお目当てのエミールとエンカウントできるとは限らない。
(運良く通りがかってくれたりしないかな……流石にそれは都合よすぎか)
この国の政治の中枢を担うと言っても過言ではないエミールのことだ。庶民一人に時間を割く暇など絶対に無いはずだ。一方で、現国王に心酔するエミールのこと、ゼルが国王から賜った指輪を適切に扱ってないことを知ったら、めちゃくちゃ怒って自ら鉄槌を下す可能性がわずかながらに存在する。
ニコはそれに賭けることにした。




