54:今回ばかりは君じゃない
「ニコじゃないか!どうしたんだこんなところで」
「げっ」
聞き覚えのある声がして振り返ると、ニコは思わず顔を顰めていた。
赤い甲冑を身にまとった好青年が走り寄ってくる。違う。あんたはお呼びじゃない。チェンジ!と言いたいのをグッと堪えて、ニコはうっかりこの人物とエンカウントする可能性をすっかり失念していたことにようやく気づいた。エミール邂逅に向けて猪突猛進するあまり、計画が穴だらけだったのは否めない。
「ウィネガー騎士団長!お疲れ様です!」
ニコを拘束していた騎士二人が、ビシッと姿勢を正して敬礼する。
ショーンクラウド王国騎士団長、ゼル・ウィネガーが人好きする微笑を浮かべて目の前に立っていた。
「ん?なんだニコ、捕まってるのかい?何か悪さしたの?」
「いや、してな」
「ハッ!この者が、騎士団長の指輪を所持していたので、事情を聴くところであります!」
ニコが返事する前に、甲冑の騎士が状況を説明してくれた。
すると、ゼルが見る見るうちに満面の笑みを浮かべたので、あ、何か誤解されてるな、とニコは察した。
「ニコ、わざわざ俺に直接指輪返しに来てくれたの?俺がまた店に行くまで待ちきれなかったんだ?」
あまりのポジティブさに呆気に取られていると、その反応にゼルははまたポジティブな解釈をしてくる。
「照れなくてもいいって!じゃなきゃわざわざ危険を冒して上流階級の領域まで尋ねて来たりしないよね。いやぁ、この手のベタな手口がニコに通用するか心配してたんだけど杞憂だったなぁ」
「……」
何だか一気に疲労感に襲われてぐうの音も出ないニコだった。




