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10-6

 ゲストたちがさらにどよめく。

 結婚を祝福するしあわせなムードから一転して不穏な雰囲気になってしまいながらも、そうしてしまった張本人であるセレナは意に介さず、預けていたタブレットをクラリーチェから返しもらった。

 すばやくタブレットを操作し、『装備』を変更する。

 セレナの姿が一瞬消滅し、元に戻る。

 彼女は花嫁姿からいつもの冒険者の衣装に戻っていた。


「ふーっ。やっぱりこのカッコが落ち着くわね」


 俺と牧師があ然としている前で「うーんっ」と背伸びをする。


「お、おい、セレナ……。結婚式は――」

「だから、中止よ」

「ここまできて中止するのか!?」

「指輪を装備できないトキヤが悪いんでしょ? 指輪が装備できなきゃとーぜん結婚もできないわよね」

「うぐ……」


 そう言われると言い返せない。


「それってつまり、アタシたちにはまだ『結婚』は早い、って神さまが言ってるってのよ」


 ねっ?

 とウィンクするセレナ。

 ……。

 ……そうかもしれない。

 結婚式の真っ最中だっていうのに俺は妙に冷静になり納得してしまった。

 セレナがくちびるに指を添える。


「それとも結婚式の続き、する?」

「……いや、やめておこう」


 結婚式の中止。

 ありえない選択のはずなのに、それがもっとも正しい選択だと俺は確信してしまっていた。セレナとキスする覚悟がないとかそういうのではなくて。

 友達の延長で、なりゆきでしてしまうほど結婚はかんたんなものではない。たとえゲームのイベントであってもだ。

 もしも俺がペアリング装備の要求ステータスを満たしていて指輪交換が成立し、結婚していたら、俺とセレナとクラリーチェは以前のような幼馴染の対等な関係ではいられなかっただろう。いようとしても、いられなかったはず。

 ぎこちない幼馴染。

 それは俺たちにとっては不本意だ。ぜったいに後悔していた。

 俺たちのかけがえのない友情は『ごっこ』遊びでなくしてもいいものではない。なくしたくはない。

 それならば土壇場であっても結婚を中止にしたってかまわない。


「神さまっ」


 セレナが祭壇に立ち、ステンドグラスに描かれた神さまを仰ぎ見る。そして両手を口に当ててメガホンにして叫んだ。


「さっきの誓い、やっぱりナシにするわっ」


 天に届くほどの大声でそう言った。

 さっぱりとした、すがすがしい声だった。

 これだけ大声を張り上げれば神さまにも届いただろう。


「ルン。俺のタブレットを」

「はい、であります」


 ルンからタブレットを返してもらった俺も装備をタキシードから普段の衣装に戻した。

 窮屈さから解放されてほっとした。


「け、結婚式は中止といたします!」


 今にも気絶しそうなほど顔を青くした牧師がそう宣言した。

 ぞろぞろと礼拝堂の扉をくぐって教会の外に出ていくゲストたち。大勢いた人々はやがていなくなり、道具屋ココや細工師のマルガレーテさん、ギルマスのアサギさんといった知人たちだけがその場に残っていた。

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