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生垣の迷路を脱出すると、その先は開けた空間だった。
四方を生垣が覆い、中央には円形の花壇。その中心に美しい意匠の噴水がある。
吹きあがる水のしぶきが小さな虹をつくっている。
今はクエスト攻略中で立ち止まってはいられないが、花園で憩うにはもってこいの場所だった。
「あははっ。つめたーいっ」
セレナは花壇に近寄って噴水のしぶきを浴びる。
むじゃきだな。
躍る長いツインテール。
ひらりと舞うスカート。
子供みたいに笑いながら水しぶきを浴びて遊ぶ彼女はかわいらしく、俺はつい彼女に見とれてしまっていた。
この子と俺はこれから結婚するんだな……。
むじゃきな幼馴染の彼女をこれからひとりじめできる。
そう意識すると、自分はとても幸福な人間なんじゃないかと思えてくる。
――って、いかんいかん。あくまでゲーム! ゲームの話だ!
セレナも言っていたが、リアルで結婚するわけじゃないんだ。単に結婚システムのメリットを得るためだ。夫婦のまねごとまでするはずないだろ、俺よ!
心の中で言い訳を続けて、俺はどうにか胸の高鳴りを抑えようとした。
……大した効果は得られなかった。
「どうしたのよ、ぼーっとして」
「い、いや、ちょっと疲れたのかもな。もう平気だ。先に進もう」
「そんな急ぐことないじゃない。花壇に座って休みましょ」
セレナに手を握られる。
そのとたん、自分の顔が熱くなるのを感じる。
手を引っ張られるなんて今までいくらでもあったのに、なんで今更照れくさくなるんだ俺よ!
俺はセレナに抗えないまま花壇に腰を下ろした。
セレナと並んで座る。
どぎまぎする……。
彼女に接しているほうの肩がむずかゆい……。
「ホント、キレイな花園よね」
「ああ。そろそろ行くか」
「まだ5秒くらいしか座ってないでしょ!?」
立ち上がった俺の腕をセレナがつかみ、強引に座らせる。
「こっから先も魔物がいるかもしれないんだから、休めるときに休むわよ」
「せ、セレナにしてはまともなことを言うな……」
「それってケンカ売ってるのかしら?」
セレナが握りこぶしをわなわなと震わせていた。
結局、セレナの命令に従って俺は花壇に腰を下ろして長い時間休憩した。
隣にこれから結婚する相手がいるというのを否応にも意識してしまい、なかなか落ち着くことができなかった。セレナのほうはそうでもないらしく、機嫌よく鼻歌を歌いながら足をぶらぶら揺らしていた。
そのしぐさがかわいらしい。愛おしいくらいに。
俺は視線をさとられないよう、こっそり彼女を見ていた。
「今頃クラリーチェとルンはアタシたちの衣装を用意してくれてるのかしら。ホント、おかしいわよね。アタシたちよりあの二人のほうがノリノリなんだもん」
「こういうのって案外、外野のほうが楽しいのかもな」
「あー、それはあるかもしれないわね。アタシがクラリーチェの立場だったら――」
セレナは途中で言葉を途切れさせる。
それから少し声のトーンを落として、真剣な口調で続きを言った。
「アタシがクラリーチェの立場だったら、気が気じゃないかも」




