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8-7

 どういうことだ!?

 フォレストタイガーは俺たちに気付いていなかった。にもかかわらず、セレナの先制攻撃に背後を向いたまま対応してきた。

 俺の疑問はすぐに解けた。

 フォレストタイガーのしっぽをよく見て見ると、先端が二又に裂けていた。そしてその外側には斑点と見間違いそうな小さな『目』が二つあり、内側には鋭いキバがずらりと生えそろっていた。

 フォレストタイガーはしっぽにも『頭』があったのだ!

 フォレストタイガーが唸りながらセレナのほうを振り向く。

 セレナは不意打ちをくらって剣を落とし、しりもちをついている。

 まずい!


「幻獣! 俺に力を貸してくれ。『エンチャント』だ!」


 ――わかったよ!


 よし、契約成立だ!

 幽霊型幻獣の姿が発光し、光の球となる。そして光の球は俺の手にした槍の矛先に宿った。

 槍が白い光を帯びる――『エンチャント』成功だ。


「フォレストタイガー、俺が相手だ!」


 フォレストタイガーの注意を向けるため、俺はあえて大声をあげて藪から飛び出した。

 目論みどおり、フォレストタイガーの敵意がセレナから俺に切り替わる。

 そのとたん、フォレストタイガーは俺に飛び掛かってきた。

 真横に飛び退く。

 フォレストタイガーの攻撃をギリギリで回避する。

 目の前をフォレストタイガーが横切り、前髪がふわり、舞い上がる。遅れて獣特有の悪臭が鼻をついた。

 休む間もなく、続けざまに二度目の攻撃。

 避けれるか?

 間に合わない!

 槍で防御する。

 俺の喉笛に食らいつかんと、フォレストタイガーが爪を立て、牙をむき出しにして真正面から襲いくる。

 『エンチャント』された槍がその攻撃を受け止める。

 速度を乗算したフォレストタイガーのすさまじい体重が俺の全身にのしかかってきて、背骨が折れそうなくらい大きくのけぞった。

 目の前に猛獣の顔面。

 大きく開けた口。生えそろった牙からは粘っこい唾液がしたたっている。二本の前脚は槍の柄にかかり、鋭い爪で押さえ込んでいた。


「弾け!」


 そんな重い一撃であったにもかかわらず、激しい光が俺の槍から発せられると、フォレストタイガーを軽々と跳ね返して横倒しにさせた。

 今だ!


「くらいやがれええええええええっ!」


 振りかぶった槍をめいっぱい振り下ろした。

 槍からほとばしった光の奔流がフォレストタイガーを呑み込む。

 爆発する白い光。

 視界が真っ白になる。

 もはやフォレストタイガーの姿も見えなかったが、HPバーが真っ赤になっているのが細目でかろうじて見えた。

 光が収まると、すでにフォレストタイガーの姿は消滅していた。タブレットのログで『フォレストタイガーを撃破した』と表示されているのが勝利の証であった。


 ――すごい! フォレストタイガーをやっつけたんだね!


 額の汗を服の袖で拭く。

 防御できるとはわかっていたとはいえ、敵の攻撃を至近距離で受け止めるのはやはり怖い。牙をむき出しにしたフォレストタイガー、すごい迫力だったな。夢に出てきそうだ……。

 一撃必殺の『エンチャント』だが、俺自身も攻撃をくらえば即死だから緊張する。こんな縛りプレイをしているのは『ハルベリア・オンライン』でも俺くらいだろう。


「危ないところだったな。セレナ、立てるか?」

「……」


 セレナは無言のまま、俺が差し伸べた手を取って立ち上がった。

 そしてそれきり棒立ち状態。


「どうした? どっか痛いのか?」


 彼女が少し涙目になっているのに気付いた俺は、そんな間抜けなことを訊いてしまった。


「アタシってホントばかよね。また先走っちゃって」

「フォレストタイガーは倒した。それでいいじゃないか」

「倒したのはトキヤじゃん」


 俺から目をそらすセレナ。

 しかたないな……。


「前にアタシ、トキヤを足手まといって言ってパーティーから外したけど、足手まといなのはアタシだったわね。失敗ばっかで。ごめんなさい」

「足手まといって、誰がだよ」

「だから、アタシだって言ってるじゃない」

「セレナ、忘れたのか?」

「えっ?」

「薬草を取ったのはセレナの手柄だぞ」


 セレナはしばしきょとんとしていた。

 うるんだ目をしばたたかせている。

 それからしばらく経って、俺が俺なりのなぐさめかたをしているのに気づいてくれたらしい。

 セレナは涙をぬぐってにこりと笑った。


「……そうだったわねっ」

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