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どういうことだ!?
フォレストタイガーは俺たちに気付いていなかった。にもかかわらず、セレナの先制攻撃に背後を向いたまま対応してきた。
俺の疑問はすぐに解けた。
フォレストタイガーのしっぽをよく見て見ると、先端が二又に裂けていた。そしてその外側には斑点と見間違いそうな小さな『目』が二つあり、内側には鋭いキバがずらりと生えそろっていた。
フォレストタイガーはしっぽにも『頭』があったのだ!
フォレストタイガーが唸りながらセレナのほうを振り向く。
セレナは不意打ちをくらって剣を落とし、しりもちをついている。
まずい!
「幻獣! 俺に力を貸してくれ。『エンチャント』だ!」
――わかったよ!
よし、契約成立だ!
幽霊型幻獣の姿が発光し、光の球となる。そして光の球は俺の手にした槍の矛先に宿った。
槍が白い光を帯びる――『エンチャント』成功だ。
「フォレストタイガー、俺が相手だ!」
フォレストタイガーの注意を向けるため、俺はあえて大声をあげて藪から飛び出した。
目論みどおり、フォレストタイガーの敵意がセレナから俺に切り替わる。
そのとたん、フォレストタイガーは俺に飛び掛かってきた。
真横に飛び退く。
フォレストタイガーの攻撃をギリギリで回避する。
目の前をフォレストタイガーが横切り、前髪がふわり、舞い上がる。遅れて獣特有の悪臭が鼻をついた。
休む間もなく、続けざまに二度目の攻撃。
避けれるか?
間に合わない!
槍で防御する。
俺の喉笛に食らいつかんと、フォレストタイガーが爪を立て、牙をむき出しにして真正面から襲いくる。
『エンチャント』された槍がその攻撃を受け止める。
速度を乗算したフォレストタイガーのすさまじい体重が俺の全身にのしかかってきて、背骨が折れそうなくらい大きくのけぞった。
目の前に猛獣の顔面。
大きく開けた口。生えそろった牙からは粘っこい唾液がしたたっている。二本の前脚は槍の柄にかかり、鋭い爪で押さえ込んでいた。
「弾け!」
そんな重い一撃であったにもかかわらず、激しい光が俺の槍から発せられると、フォレストタイガーを軽々と跳ね返して横倒しにさせた。
今だ!
「くらいやがれええええええええっ!」
振りかぶった槍をめいっぱい振り下ろした。
槍からほとばしった光の奔流がフォレストタイガーを呑み込む。
爆発する白い光。
視界が真っ白になる。
もはやフォレストタイガーの姿も見えなかったが、HPバーが真っ赤になっているのが細目でかろうじて見えた。
光が収まると、すでにフォレストタイガーの姿は消滅していた。タブレットのログで『フォレストタイガーを撃破した』と表示されているのが勝利の証であった。
――すごい! フォレストタイガーをやっつけたんだね!
額の汗を服の袖で拭く。
防御できるとはわかっていたとはいえ、敵の攻撃を至近距離で受け止めるのはやはり怖い。牙をむき出しにしたフォレストタイガー、すごい迫力だったな。夢に出てきそうだ……。
一撃必殺の『エンチャント』だが、俺自身も攻撃をくらえば即死だから緊張する。こんな縛りプレイをしているのは『ハルベリア・オンライン』でも俺くらいだろう。
「危ないところだったな。セレナ、立てるか?」
「……」
セレナは無言のまま、俺が差し伸べた手を取って立ち上がった。
そしてそれきり棒立ち状態。
「どうした? どっか痛いのか?」
彼女が少し涙目になっているのに気付いた俺は、そんな間抜けなことを訊いてしまった。
「アタシってホントばかよね。また先走っちゃって」
「フォレストタイガーは倒した。それでいいじゃないか」
「倒したのはトキヤじゃん」
俺から目をそらすセレナ。
しかたないな……。
「前にアタシ、トキヤを足手まといって言ってパーティーから外したけど、足手まといなのはアタシだったわね。失敗ばっかで。ごめんなさい」
「足手まといって、誰がだよ」
「だから、アタシだって言ってるじゃない」
「セレナ、忘れたのか?」
「えっ?」
「薬草を取ったのはセレナの手柄だぞ」
セレナはしばしきょとんとしていた。
うるんだ目をしばたたかせている。
それからしばらく経って、俺が俺なりのなぐさめかたをしているのに気づいてくれたらしい。
セレナは涙をぬぐってにこりと笑った。
「……そうだったわねっ」




