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「見つけたわよ、幻獣!」
――わあっ! なんでこんなところに人間が!?
幻獣と出会ったときのセレナの格好は、森の中を突き進んだせいで葉っぱと枝と泥まみれのみっともないものなっていた。おそらく俺も似たようなありさまだろう。
幻獣の姿は――幽霊タイプ、なのだろうか。子供が白いシーツをかぶって目の部分をくりぬいたような、絵本に出てきそうなオバケの格好をしていた。
幽霊型幻獣は半透明で浮遊している。
――僕が人間をおどかす役なのに、キミたちが僕をおどかすなんてひどいよ!
「幻獣はなんて言ってるの? また『肉をくれ』って?」
「セレナにおどかされて怒ってるみたいだぞ」
「アタシのせい!?」
――それにしても、こんなところに人間がやってくるなんて珍しいね。
幽霊型幻獣に崖から落ちて迷子になったのだと説明する。
――薬草を取りに丘を登ってたんだね。大変だろうけどがんばってね。じゃあね。
「ちょっ、待ちなさい!」
幽霊型幻獣がくるりとうしろを向いて立ち去ろうとしたため、セレナが慌てて引き留めようとする。しかしセレナの伸ばした手はするりと幻獣の身体をすり抜けてしまい、バランスを崩したセレナは思いっきり前のめりに倒れてしまった。
「トキヤ! 幻獣を引き留めなさいって!」
「待ってくれ、幻獣。俺たちを森の外まで案内してくれないか」
すると幽霊型幻獣は足を止めて再び俺たちのほうを向いてくれた。
――いいけど、タダじゃイヤだよ。
やはり『エンチャント』のときと同様に取引が必要か。
「干し肉ならあるけど……」
――僕は食事はしないんだよ。
「ならどうすればいいんだ?」
――そうだねー。『フォレストタイガー』を追い払ってくれたら森の外まで案内してあげてもいいかな。
「フォレストタイガー……」
「なにそれ? 魔物?」
「ああ。その魔物を倒したら道案内してくれるらしい」
俺がタブレットを起動させて魔物図鑑で『フォレストタイガー』を検索しようとした、そのとき――
――出た! フォレストタイガーだ!
幽霊型幻獣が声を上げた。
――二人とも、隠れて!
幻獣に従うまま藪に隠れる俺とセレナ。
枝葉の隙間から向こう側を覗き見る。
そこには黄色い毛皮に黒い墨を垂らしたような模様の獣がのそり、のそりと歩いていた。
「おっきな虎ね……」
森の中に住む虎――だからフォレストタイガーか。
藪越しにタブレットをかざす。
フォレストタイガーのレベルは18。
「ふーん、レベル18ね。上等だわ。アタシがやっつけてきてあげる」
「待てって!」
セレナでは敵わない相手……ではないが、確実に倒すのならクラリーチェの補助魔法が欲しいところだ。言うまでもないが、俺ではまったく戦力にならないし。
こうなれば幻獣と『エンチャント』の交渉をしてみるか。道案内の約束に加えて『エンチャント』の力まで貸してくれるかどうかはわからないが。
――アイツ、最近この森に住みつくようになって、僕たち幻獣をいじめるんだ。
「行くわよトキヤ」
「待てってセレナ。フォレストタイガーの動きを観察して弱点を――」
「先制攻撃よっ」
セレナは片手剣を腰から抜いて藪から躍り出た。
そしてフォレストタイガーの背後から奇襲をしかけた。
「きゃあっ!」
しかしセレナの攻撃はフォレストタイガーがムチのように振り回した『しっぽ』によって叩き落とされた。




