8-5
「こ、腰のポーチはさがしたか……?」
アホか!
と叫びたい衝動を抑えつつ俺は建設的な意見を口に出した。
「さっきさがしたわよ。もう全身さがしたしストレージを見てもなかったのよ、ワープクリスタル」
セレナは涙目になってその場にしゃがみこんでしまった。
俺だって泣きたいよ……。
ぐぅ……。
追い打ちをかけるかのようにセレナの腹の虫が鳴く。
「おなかへった……」
おなかをさするセレナ。
あいにく、冒険で食べる食料はクラリーチェが全部管理してくれているため、俺が持っているのは一枚のチョコレートくらいしかない。ああ、あとは干し肉くらいか……。
セレナは俺から受け取ったチョコレートの角のところを一口かじった。
「空腹で倒れたら戦闘不能扱いになるのかしら」
「さあな」
へたりこむセレナは心身ともに大ダメージを追っていて、とても立ち上がれそうにはなかった。
弁当どころか、まさか冒険に必須のアイテムを忘れてくれるなんてな……。
「アタシたち、迷子になっちゃったのかしら」
「丘の道から外れた森の中だからな。道なんてないだろうし、誰も通らないだろ」
「ごめんねトキヤ。トキヤだけでもワープクリスタルで帰還してよ」
「こんな状態のセレナを残して帰れるわけないだろ」
ほら。
と手を差し伸べる。
セレナは俺の手を借りてどうにか立ち上がった。
それから俺はセレナがワープクリスタルを持っていない旨をチャットでクラリーチェとルンに伝えた。
クラリーチェ:遭難しちゃったの!? ><;
ルン:助けにいきます!
セレナ:必ず帰るから、二人は街で待ってて。
パーティーチャットを閉じる。
「あーあ、アタシったらまた強がり言っちゃった」
セレナは自嘲した。
「いざとなったら適当な魔物と戦ってデスワープするしかないな」
デスワープとは、わざと魔物に倒されて街に強制転移するテクニックである。魔物に倒されて戦闘不能になると経験値の八割を喪失するが、レベルアップしたてで蓄積経験値が0に等しいならこのペルティの影響を受けずにデスワープできるのである。
しかし、セレナの蓄積経験値は60%近くある。
これの八割を失うとなれば、数日分の経験値稼ぎが台無しとなってしまう。
それ以前に、わざと魔物に負けるなど彼女のプライドが許さないかもしれないが。
かといって、闇雲に森の中を歩いたところで脱出できるとは到底思えない。
なにか手がかりはないかと俺はタブレットを開いた。
「あっ!」
「どうしたの、トキヤ」
「幻獣がいる!」
表示されているマップの隅のほうに緑色のアイコンがあった。
「幻獣なら森の出口がわかるかもしれない」
「そっか、トキヤなら幻獣の声を聞けるもんね。行くわよ!」
俺たちは緑色のアイコンに近づくように森を走った。
湿った土と落ち葉を踏みしめ、木々の間を縫うように走り、ときには藪すら突き抜けていく。先頭に立っているのはもちろんセレナ。森の中に道なんてなかったから、セレナは緑アイコンめがけて一直線にガンガン突き進んでいった。立ちはだかる障害物を力ずくで乗り越えて。
なんと勇ましい姿。
俺は感心半分呆れ半分で彼女の後ろについていった。
緑色のアイコンがどんどんマップの中心に近づいてくる。
そしてとうとう俺たちは幻獣と遭遇した。




