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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第8章:足を止めて
230/230

230.はァ…そういう所だよなァ…


 あれから…何年くらいたっただろうか?


 3年くらいだろうか?まぁ多分それくらいだ。


 雪の降る夜道を一人歩く。


 手には大きな袋が2つ。


 魚、肉、野菜…あとはいくつかの生活用品。


 すこし前までは家族で買い物に出ていたが、今回からは俺が一人で行くことにした。


 …しばらく歩き暖かい光が漏れる家に、我が家に到着する。


 両手がふさがってはいるもののどうにか鍵を取り出して鍵穴に差し込む。


 ふさがった手で何とか鍵を開け、ドアを開けようとしているとふいにドアが内側から開かれる。



「おかえりなさい」


「ただいま」



 サリン様、いやサリンがドアを開けてくれたようだ。


 …いまだに様をつけてしまいそうになるのはやはり長年騎士として勤めてきた弊害だと言えるだろう。


 しかしどうにかなれなければならない、私はもう姫様を守る騎士ではなく家族を守る夫なのだから。



「寒かったでしょう?ほら、早く中に入りましょう」


「は……いや、そうだな」


「ふふ、まだぎこちないですわね」



 家族になったのだからと敬語をやめるよう言われているのだか…まだ慣れない。


 いつか慣れなければと思いつつも、ドアを開けっ放しにしていては大事な母体を冷やしてしまうのでさっさと中に入る。


 すると慣れた手つきでサリンが俺の外套を脱がしてくれる。


 少しだけついた雪を軽く落としてからそれをフックに掛けた。



「それくらいは自分で…」


「いいでしょう?ちょっとしたことでも…何かしてあげたいから」


「…ありがとう」



 一抹の気恥ずかしさを感じながらも彼女の優しさに甘え、暖炉のある部屋へ二人で向かう。



「おかえり買い出しお疲れさん。さァむかッたろ」


「ただいま。少しだけな」



 大人数で腰を掛けられる大きなソファーの三分の一程度を占有してくつろいでいるジオネが手をひらひらとさせてくつろいでいる。



「今日は何を作るんだ?」


「何がいい?ある程度のものは作れるだけの物を買ってきたが…」


「あら…どうりで大きな袋を」


「はァ?なんでまたそんな」


「当然二人の為だ」



 何を食べたいかはその日その時によって変わるものだ。


 ならば何でも作れるようにすればいい。


 魚や肉も冷凍魔術で凍らせてあるし日持ちもする…完璧だろう。


 愛する二人の願いを悉くかなえるのは夫の役目だろう。


 そんな話を聞いた二人は軽く笑う。



「かわりませんね」


「かわらねェな」


「成長は…しているつもりなのだが」



 一通り笑いあった後、今夜は暖かい物が食べたいという答えに至り…最終的にビーフシチューを作ることにした。



「それじャあ…ぱぱッと仕込みを終わらせるかァ」


「ですわね」


「いやいや、ゆっくりしていてくれ。それに今日からは俺が全部やると言っただろう?」


「しかし三人分ともなると…結構な量ですわよ?」


「そうだァそうだァー」



 少し動きづらそうにキッチンに集まった二人を極めて慎重に抱えてソファーに下ろす。



「何も問題はない。3人だろうが5人になろうが何も苦じゃないさ」


「そういわれてもなァ…こう一日中なにもしないでのんびりするッてなァ…」


「今日も二人で暇だね、と話していたんですのよ?」



 二人が少し大きくなり始めたおなかをさすりながらそう話す。


 そういった仕草を見ると…こう、じわじわと実感がわいてくるものだ。


 俺は父になるのだと。



「そんなこともあろうかと」


「これは…」



 俺は買い物袋の下からいくつかの物をとりだして空いているソファーの上に置く。


 テーブルに置いたら取りにくいだろうから、こういった細かいところでの気遣いも忘れない。


 それはそうと俺が置いたものは本だったりちょっとした裁縫道具だったり…用は手元だけで行える暇つぶしに良さそうな物だ。



「身体に新しい命が宿るというのは本当に大変な事だ、だから今はなるべく自分の身体を大切にしてほしい」


「…ホントお前良い父親になれそうだなァ」


「当然だ。騎士たるもの妊婦の生活補助からお助の補助まで完璧に行えなくてはならない。男だから助産師の資格を取ることは出来なかったが…」


「やりすぎでは?」


「…とりあえず安心して穏やかに日々を過ごしてほしい」



 実際にお産補助の経験もある、抜け目は決して無い。


 当然専門の者に頼むつもりだが、いざという時は全て俺一人で完璧にこなす自信がある。


 騎士たるもの妊娠から出産、そしてその後まで完璧に補助できて当然だ。



「でもこれだとよォ…カロンに負担がなァ」


「頼り過ぎるのも問題ではありませんこと?」


「これはただの我儘になるのだが…」



 二人に視線を合わせて話す。



「楽しいし、幸せなんだ。愛する二人の為に何かをしてあげられることが」



 愛する二人と同じ屋根の下で暮らしていて、たまに笑い合って、くだらない話をして。


 こうして生きている。


 良い人生を歩んでいる。


 二人の笑う顔が、穏やかな表情が、眠る姿が…全てが愛おしいのだ。


 そんな家庭を守れる事が…本当に楽しくて幸せだ。



「だから俺を頼ってほしい。頼りになる父親だと子供たちに思ってもらう為にも」


「はァ…そういう所だよなァ…」


「まぁそれがカロンの良さでもあり弱点でもあり…その、好きな所でもありますわね…」



 少しの沈黙の後。



「まァこういう所に惚れちまッた以上しャあねェな…恰好つけさせてやるよ」


「そうですわね。とはいえ大変な時はわたくし達の事も頼る事。いいですわね?」


「ああ。…ありがとうサリン、ジオネ」



 その後料理中何やら楽し気な声が聞こえたが少し小声で話していた為、あえて聞こえない振りをした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はァー…マジああいうところだよ…!昔ッからさァ、変わんねェんだもん…そりャ好きになるだろ…!」


「わ、わたくしは未だに目を合わせるだけで…し、心臓が痛いくらいに早まってしまいますわ…」


「それ、分かるゥ…!」

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