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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第三章 消された歴史
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四十二話 とある妖怪姉妹の物語 中


私は、なんでこんなに笑っているのだろう。


目の前には、死体、死体、死体。


これは全部私がやった事なのだろうか。記憶が曖昧で、私が今何に笑っているのかさえ分からない。


私は、徐に近くにあった赤い何かがついたナイフを持ち上げます。それを目の前にいる顔がグチャグチャな人の首筋に何故か分かりませんが押し当てます。


なんででしょうか?


その人が、泣いています。わんわん、子供みたいに泣いています。だけど、私の手が止まることはありません。止まりたくても止まれないのです。自分が自分じゃないみたいです。


でも、殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい……………助けて。


「お…え……ん…」


なにか聞こえます。でも、私の視界は黒で染まってしまいました。


「おね…ち…ん!」


なにか叫んでいるようにも聞こえます。でも、私の心は真っ暗です。


バチンッ!!


そんな鋭い音と一緒に急に視界が明るくなる。それと同時に、頬に痛みが込み上げてくる。


「あ、え……?」


「お姉ちゃんッ!」


「こいし?」


こいしが泣きながら私を胸に抱いていた。私は訳が分からず、一応それを抱き締め返す。何故かすごく、暖かく感じた。


「こいし、どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないよ!」


こいしは私から離れると、そこには………数体の死体があった。それが既に死んでいると確認せずとも分かるぐらいの血痕の量。死体には見るも無惨な、刺傷の跡。そして、精神崩壊しているどこかで見た事のある顔の潰れた妖怪。


私達妖怪でも血の気の引くようなおぞましい光景がそこにはあった。


「え………?」


最早、言葉も出ない。


急に足の力が抜けて、ぺたりと地面に座り込んでしまう。そんな私を、こいしは声を掛けながら心配してくれる。


「お姉ちゃん、大丈夫?何があったか分かる?」


何があった………?


私の脳内は今、困惑、喪失、恐怖。そんな感情で埋め尽くされていて、記憶どころか思考も安定していない。ただ、呆然とこの初めてみる光景を眺めていることしか出来ない。


だけど、自分の服についている血の色と鉄の匂いが混乱している私の意識を皮肉にも覚醒させていく。


段々記憶が蘇るにつれて呼吸が徐々に荒くなり、鼓動も早くなっていく。自分の体温が急激に下がるのを感じた。体も震えだして、顔が青ざめる。あからさまに、混乱している私を見たこいしがもう一度ぎゅっと抱きしめてくる。


「あ………あぁ………!」


「大丈夫だから………」


震える私を、こいしが抱きしめてくれる。それだけで、少しだけ気持ちが楽になった。全てを包み込んでくれそうな暖かい優しさを感じる。


こいしの抱擁で正気を取り戻した私は、大きく深呼吸をして精神を落ち着かせる。荒れていた脈拍も段々と落ち着いていき、震えも収まってきたので、こいしを一旦離す。


「大丈夫、お姉ちゃん?無理しないでね」


「えぇ……もう大丈夫よ」


落ち着いた私は、もう一度周りの状況を確認する。


何度見ても、惨い。


数人の周りには見ていて気持ち悪くなるぐらいの刺傷と血溜まりが出来ていて、既に死んでしまっていると分かる。だが若干名、まだ死んでいない者もいるが恐らく今から治療しても助からないだろう。出血が酷く、息すらしていない者が多い。


だが、一名だけ息をしており、無傷ではないが助かっている者がいた。

私は、まだ強ばっている足を動かしてその人の元へ向かう。そして、顔の潰れた男に声をかける。


「だ、大丈夫?」


返事はない。


どうやら完全に気絶しているらしい。


「………」


「お姉ちゃん?」


改めてこの光景を自分が造り出したと思うと、今でも信じられない。ぼやけた記憶が段々と戻ってはきているものの、はっきりとした記憶はない。全体としては何が起きたか分かっているが、要所要所の記憶が曖昧。まるで、夢から覚めた時のようだ。


「お姉ちゃんってば!」


「あ、ごめんこいし……どうしたの?」


いけないいけない。あまりに現実離れした状況に考えすぎてしまった。こいしが、心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。


こういう時ほど姉である私がしっかりしないと……。


「これからどうする?」


どうすると聞かれた私は少し返事に迷う。生憎、これから起こることは大方予測できていた。だからこそ私は、どうするべきか悩んだ末にこいしの手を握った。


「こいし……すぐにここから出るわ」


「え、えぇ!?ちょっと待ってよお姉ちゃん!」


私は、困惑しているこいしの手を引いて家の裏の道も整備されていない森の中に入る。あの状況を作り出したのは、他でもない私自身。それに、こいしを巻き込んだのも私。だったら、その尻拭いも私でしなきゃならない。


誰かがあの死体に気づかない限り、まだ私達が襲われる心配は無いはず。


村から少し離れたかつて人間の村があった廃村で、私達は立ち止まる。ここまで何も言わずに付いてきてくれたこいしは、ようやくここで口を開く。


「お、お姉ちゃん……?」


「こいし、よく聞いて」


こいしはまだ事の状況を理解してはいなさそうだが、「分かった」と頷いてくれた。


だから私は、安心して言葉を続ける。


「この廃村から山を下れば、人間の村が見えるはずよ。だから、あなたはその人間の村で匿って貰いなさい」


「あなたは……ってお姉ちゃんは?」


「私は………少しここに残ってしなければ行けないことがあるの。だから、先に行ってちょうだい。大丈夫、私も少ししたら行くわ」


いつも私の言うことを聞いてくれるこいしなら、これでこの言葉を信じて行ってくれるはず。そんな私の絶対的な自信は、この後のこいしの言葉で崩れ去った。


「やだ……」


「え?」


「絶対にやだ!お姉ちゃんが一緒に来てくれないなら、私も一緒に残る!」


「わがまま言わずに、今は言うことを聞いて!」


「絶対にやだ!」


こいしは目に涙を浮かべながら、私の袖を引いてくる。そんな目で見られたら、これ以上何も言えなくなる。


こいしから視線をずらし、私達が今まで通った道の先を見る。すると、木々に遮られ少し曖昧なものの、私の視線の先にはあの村の妖怪がこちらへ少しずつ近づいてきていた。

どうやら、思った以上に早く死体に気づかれたらしい。時は夕暮れが近く、橙色の空を段々黒の夜空が侵食し始めている。まだ、私達には気づいてはなさそうだがこのままだと気づくのは時間の問題だろう。


私は咄嗟の判断でこいしの手を引いて、また走り出した。


「こいし!あと半分私と一緒に頑張れる?」


私が走りながら問いかけると、こいしはこんな状況ながらパァッと満面の笑みを浮かべると「うん!」と頷いた。それを見た私も自然と頬が緩む。


全く……こんな状況で私は何を考えているのだろう。


こいしとこうして一緒に頑張る状況を少しでも楽しいと感じてしまった。


木々の少し間から見える里の光を頼りに、私達は荒々しい山岳地帯を駆け抜けた。後からは、妖怪達の炎が一定の距離を保ったままついてきている。私達の位置を大体予測しているのだろうが、そこまでスピードは早くない。


(これなら撒けるッ!)


そう思うと、一段とスピードを上げる。


だけど、私達は今までノンストップでこの山を下っている。その状況でスピードを上げたのは私の尚早だった。


こいしが木の根元に引っかかり転んでしまう。


「キャッ!?」


「こいし!?」


私の手から離れて、こいしは思い切り体を地面に強打する。蹲って、中々立ち上がれない。


「大丈夫!?」


「う、うん……これくらい平気」


「ごめんね、後で手当してあげるから今は我慢して」


こいしが痛いのを我慢して立ち上がっているのは心を読まなくても分かる。心の中で何度も謝りながら、痛そうに前を走るこいしに追随する。


このまま行けば逃げれる……そんな甘い考えは通用しなかった。


さっきのこいしの悲鳴を聞いた妖怪が私達に気づいたのか、火の玉が飛んできていた。その玉は私達の横を掠め、次々にもりに引火していく。だけど、その精度は決して高くない。


(もしかして、まだ私達の位置に完全に気づいていない?)


そんな希望を持つが、だとしてもまだ逃げれると決まった訳じゃない。夜も近くなり、炎が段々道を照らす事で私達の位置がバレることも予想出来る。


私は進路変更や他の逃げ切れる方法を模索しながら走っていると。


「お姉ちゃんッ!」


その声に気づいたのが遅かった。


火の玉の一つが私の左腕に直撃する。


「ウッ……!」


「お姉ちゃん!?」


「いいから走りなさいッ!」


心配するこいしにそう促す。


私は唇を噛み、声を押し殺す。ここで声を出したら気づかれるかもしれない。完全に炎で焼け、使えなくなった左腕を無視して走り続ける。激痛で今にも泣き出しそうだけど、必死に我慢する。


そのおかげで、気付かれずに済んだみたい。


その後も私達は、走り続けた。途中飛んでくる火の玉を避けながら、逃げて、逃げて、逃げ続けて………。


ようやく山を抜けた。


疲れ切った私達が後ろを見ると、山の中腹がメラメラと燃え、周りの木々を巻き込んで急速に勢いを増している。息たえだえの私達はお互い顔を見合わせる。


その顔は言葉で表さなくても分かるぐらい、安心していた。山にいるほとんどの妖怪は、食料を取りに来る以外滅多に山を降りてこない。だから、これ以上私達が追われる心配はない。そう思うと自然と笑みが溢れる。


だが、安心と引き換えに新たな問題が出てきた。


「お姉ちゃん!?」


「大丈夫……心配しないで」


よろっと体勢を崩す私を支えてくれるこいし。


実は、山を抜けた辺りから腕の傷が急激に痛み始めた。どうやら、今までは興奮状態である程度痛みも和らいでいたみたいだけど気持ちが落ち着いた事で脳が腕の痛覚をより強く感じ取るようになった。


もう、意識を保つのがやっとの状態。いつ、意識が無くなってもおかしくない。


「お姉ちゃんしっかりして!里までがんばって」


こいしの励ましの声ですら、痛みでかき消される。


「こいし……やっぱりあなただけでも……」


こいしに体を預けて、朦朧とした意識の中……不意にそんな言葉が出る。


今の私は完全に足でまといだ。こいし一人なら簡単に里に着くし、妖怪がまだ完全に追ってこないと決まった訳じゃない。もしかしたら、私のせいで見つかるかもしれない。


もう考えがまとまらない。


こいしが私の言葉をどう感じるかは分からない。ここで置いていかれても、文句は言わない。


(こいしが何か言っている……)


口が動き、何か喋るっているみたいだけど私にはそれは聞こえてない。


薄れゆく意識の中、こいしの温もりを感じたまま私は深い眠りに落ちた。






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