三十七話 幼女は怖い
「うわぁ〜、ふかふかベットにダ〜イブ!」
部屋に入ると早々、ルーミアがひとつしかないベットに飛び込む。子供のようにゴロゴロと布団の上を転がり、まるで怪獣のように布団達を蹂躙しているルーミアを見ていると、とても大妖怪だとは思えない。
「ルーミア……布団が汚れるから着替えろ」
「えぇー、面倒臭い」
「いいから、早くしろ!」
「はぁーい」と、気のない返事をする。俺達の着替えは全部地霊殿で用意しているとの事だ。申し訳なく思うが、紫に無理矢理連れてこられた為、何の準備もしておらず、正直に言うととてもありがたい。
たが、その感謝が一瞬でぶっ飛ぶような事態が部屋で起ころうとしている………。
「おい、何してる」
「え?着替えようとしてるだけだけど?」
「いや見ればわかる。だけどな……」
和也は、間を置き言った。
「なんでここで着替えるんだよッ!」
この部屋には男女部屋ということで更衣室があるにも関わらず、ルーミアはこの場で服を脱ぎ始める。もちろん、ルーミアも更衣室の存在は知っている。というか、一緒に確認したし……。
またこのパターンだと、俺は内心呆れている。
ルーミアは二人きりになると、決まって襲ってくる。もちろん、血が出るような襲うという訳では無い。
性的にだ。
いや、別に俺はいいんだよ?だけど、ルーミアは仮にも女の子だからね?そういうのいやがったりしないのかなぁ〜って……。
「私は別にいいよ……」
「そこは嫌がれよ!俺がきついんだよ」
パンツだけを履き、上半身は何も身につけていないルーミアが上目遣いで俺を誘惑する。だけど、俺は大人のルーミアならともかく幼いルーミアに欲情する程、アブノーマルな性癖ではない。至って……至って普通だ。
……普通のはずだ。
何故か、心の奥底で揺れ動く気持ちを押さえ込んでいると、ニヤニヤしたルーミアが裸のままで動き出し、、
「うりゃ〜!」
「うぉ!?」
俺に対して、タックルを繰り出してくる。完全に不意打ちで、綺麗に腰を捉えたタックルは俺の体勢を見事に崩し、後ろにあるベッドに押し倒される。そして、俺の上に馬乗りになったルーミアに自然と目を奪われる。
「何すんだよ!どけ!」
「や〜だ」
裸の少女に押し倒されるという、傍から見れば非常にまずい状況だが……本当にまずい。ルーミアの身体が子供だとはいえ……えっと、あの、なんというか……少しある。子供なのだが、あれが少しある。それだけは言っておこう。
あれが慎ましやかだが、あることによって完全に子供認定出来なくなった。
「お前は万年発情期か!」
「私がこんなことするのは君だけだよ〜」
「全く嬉しくないッ!」
さっきから抵抗はしているが、全く離れる気配がない。それは妖怪と人間の差だ。決して、俺がわざと抵抗を弱めている訳では無い。
「そんなこと言って……身体に正直になりなよ。今なら、邪魔もいないし、欲望のまま蹂躙しても構わないよ」
「本当にそういうこと言うのやめろ!」
怖い!ルーミア怖い!
……改めて言うが、俺は小さい子には興味無い!絶対そういうことはしない!ダメ!ゼッタイ!
自分の理性を必死に押さえつける。
ルーミアは小さい体をくねらせ、絡みついて、俺を逃がさまいとホールド。
ルーミアの顔が段々と近付いてくる。
(まずい!こんなとこ、誰かに見られたりしたら…!)
という、お約束の前フリをすると、やはりお約束通り、扉がガチャっと開き、人影が姿を現す。
「和也さん、少しお話が………」
俺はベットの上でバッチリ、さとりと目が合った。普通ならどうってことない行為だが、今の俺の状態は通常ではなく異常だ。
裸のルーミアが俺の上に乗り、さとりが部屋に入ってきた今でさえキスを迫ってきている。
(だ、大丈夫!心が読めるさとりならこの状況を理解してくれる!)
そうだ、さとりは心が読めるのだ。なら、俺をの心をq読んで無理矢理ルーミアに迫られたことを知ってもらえるはず。
俺は念じるように、心の中で訴えかける。
「不潔です」
そうさとりは一蹴し、部屋から出ていった。
「なんでだァァァァッ!」
「あは!これで邪魔者がいなくなったね〜」
「さとり〜!頼む!助けてくれ〜!」
俺の叫びは無情にも、壁のシミとなって消えていくのだった。
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ルーミアに嵌められた、和也の悲痛な叫びが地霊殿に轟いている頃、和也が突如いなくなった博麗神社では、紫と麗奈が睨み合っていた。
その理由はもちもん、、
「アンタはいつも勝手に……!」
「別に私の自由でしょ?」
麗奈が帰ってみると、和也がいなくなっていた。それだけでは、ただ出掛けただけかと思うが、居間に紫がいるのを見て、不思議に思った麗奈は紫に問い詰め、なくなく説明した紫に、麗奈が噛み付いたのが今の神社の状況だ。
「一言あっても良かったんじゃないかしら?」
怒り気味で、紫に言葉を発する麗奈。
「和也は居候なんでしょ?なら、彼がどうしようと貴方に影響はないわ」
冷静に、正論を並べる紫。紫が、言っていることは至極もっともな事だ。
それが分かっている麗奈は唇を甘噛みするが。
「はぁ…」と諦めたように大きなため息をついた。
「その件ついては、もう何も言わないわ。私だって、アイツが狙われていたのは知ってたし、もしもの場合は紫と同じような事もしたでしょうしね」
「それは良かったわ」
紫は麗奈が納得してくれたのを見て、素っ気ない返事と共にスキマを開き、片足を入れる。
「待って!」
それを、突然麗奈に呼び止められて、片足を入れたまま行動を止める。
「なによ?」
不思議そうに紫が振り返ると、麗奈は先程までの怒り顔をキリッと細め、何時になく怪訝そうな表情を浮かべて紫を見つめている。
そして、麗奈は言葉を続ける。
「紫って、アイツの能力知っているのよね?」
この場合、麗奈がアイツと言って意味するのは和也以外いない。今の会話からは考えつかない質問が紫に投げられる。
「まぁ、私が連れて来た訳だし……」
「それもそうよね」
そして、その次に麗奈は「なら……」と前置きをし言った。
「はっきり言って、アイツの能力……私はその片鱗しかみてないけど『結界を壊せる能力』……よね?もしそれが、本当の能力ではないにしろ、間接的に結界へ能力を働かせられる........そうでしょ?」
麗奈は尋ねるという口調ではなく、半ば口を割らせるような強い口調で話す。それに連れて、表情も焦りと不安に染まっていく。
彼女には、そうならざるを得ない理由がある。
「私は、確証のない曖昧な話はしないタイプなのよ。だから、私はあんたに聞いてるんじゃない........確認をしているだけ。で、それを聞いてあんたはどう答えるの?」
話を黙々と聞いている紫の表情は非常に冷ややかで、まるで焦る麗奈を嘲笑うかのように微動だにしていない。
そして、その態度と相応に、淡々と強かな声音で返答が告げられる。
「否定も肯定もしないわ。それで……なんでそれを私に話す必要があるの?」
紫の態度は、傍から見れば冷静そのものだ。
たが………。
長年、紫と付き合ってきた麗奈の目には今の紫は不自然にみえる。
でも、具体的な根拠は無い。
この気持ちは麗奈自身の勘……その勘がこいつは怪しいと囁いている........それだけで紫を疑う理由は十分だ。
「紫……貴方は一体何を隠してるの」
「隠しているも何も……あの文屋じゃないけど、私は清く正しい行いをしているわ。隠し事なんて一切してない」
そして、その場には静かな時間が流れる。場は静かでも、二人の思考は交差し、心の中では火花を散らしているだろう。
そうして、長いようで一瞬の無言の戦いは、引き分けのまま終わりを告げる。
結果としては、麗奈が折れる形で……。
「もういいわ……これ以上の追求は勘弁してあげる」
「それはどうも」
「けど、覚えておきなさい。貴方は、ここで否定しなかったのを後で後悔することになるわ」
麗奈の言葉を聞いた紫は、何も言わずに開いたスキマの中に消えていくのだった。




