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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第三章 消された歴史
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三十話 日常


黒雲異変が終わり、いつも通りの生活になり始めた博麗神社は、うるさい居候が一人増えた。


「ルーミア!アンタ自分の家があるんだからそこに帰りなさいよ!」


「いいじゃん!もう少し居させてよ!」


今まさに麗奈から追い立てたれている少女。


今回の異変を起こした張本人『ルーミア』である。今は訳あって元の姿より幼くなっている彼女は、異変が終わった後から何かしら理由をつけて神社に居座り続け、今に至る。そして、この毎朝の喧嘩は日常と……というより日課と化してしまった。


「ルーミア!アンタは人に迷惑をかけている自覚がないわけ!アンタもそう思うわよね!」


そう言って、共感を求めてくる麗奈。


「和也くんは私を迷惑だなんて思ってないよね?」


潤んだ瞳で、守ってくれと言いたげな表情を向けてくるルーミア。そんな顔で言われると守ってあげないといけない気持ちになるが、そこはグッと我慢する。


これも毎朝行われる地獄の選択だ。どちらか一方の意見を取ると、もう片方の機嫌が最悪のなるという仕組みだ。どっちを取っても救われない。主に俺が。


とてもめんどくさい朝の恒例行事だが、最近覚えた事がある。この状況を一番穏便に済ませられる方法を今朝、俺は考えついてしまった。


「それじゃあ俺、仕事行ってきまーす」


とことん無視だ。この方法を使えば、片方の機嫌が悪くなることはない。


と、思ったんだけど……。


「は?逃げんの?」


「それは良くないと思うよ和也」


このように、二人とも機嫌が悪くなった。そして、軽蔑にも似た眼差しを受けるのだ。あまりにも理不尽過ぎて泣けてくる。


「お前ら、そんな時は仲いいんだなッ!」


共同戦線を組んで、俺を睨みつけてくる麗奈達に悲痛な叫びをぶつけて逃げるように神社を後にする。今日は本当に人里の見回りがあるので、せっせと仕事をやりにいく。


ここだけの話、博麗神社の経済状況は結構シビアで収入はたまに誰かが入れていくお賽銭と俺の仕事の給料だけになっている。

給料と言っても正式な隊員では無い俺の給料は、雀の涙に等しい。それでも、麗奈と今はルーミアを養ってるって凄くない!?

しかも、料理をするのも交代制とはいえほとんど俺がやってるんだぜ?


「はぁ〜」


「どうしたんですか、ため息なんてついて?幸せが逃げてしまいますよ?」


今日、一緒の当番になっている魔璃さんに心配される。あぁ、なんて優しい人なんだろう。魔璃さんから溢れ出す母性に思わず涙が零れそうになる。


この人はきっといいお母さんになるだろうなぁ〜。あぁ!こんな人が奥さんの旦那さんが羨ましい〜!!


「いえ、麗奈と居候が僕に対して辛辣なんですよ」


「そうですか……。和也さんも色々と大変なんですね」


魔璃さんはそう言うと、俺と同じ様に大きくため息をつく。魔璃さんがため息をつく理由は何となく分かる気がする。


「それじゃあ、気分転換にでも行きますか」


そう言って、魔璃さんは勢いよく立ち上がって俺に手を差し伸べる。


「気分転換ですか?」


「はい。人里の外で、少し付き合ってください」


俺は、差し伸べられた手を取ると魔璃さんに引っ張られていく。


「人里の見回りはいいんですか!?」


「大丈夫ですよ!見回りは他にもいますし、副隊長権限です」


そう言って、笑みを浮かべる魔璃さん。


案外この人も、豪快な人だな。


俺は魔璃さんにされるがままに、人里の外まで連れてこられる。


空は生憎の曇り空で冷たい風がピリピリと肌を刺激する。そんな中、俺は手を引かれ、魔璃さんに連れてこられる。周りを見ると開けた草原を俺達二人は走っていた。

そして、魔璃さんは急に立ち止まる。俺は訳もなく連れてこられた理由を聞く。


「それで?こんな所まで来て、付き合って欲しいって何をですか?」


「これですよ。こ・れ」


魔璃さんは、腰に差してある自分の刀を叩く。


「まさか試合をしろと!?僕が?魔璃さんと?」


「他に何があるんですか?さぁさぁ、早く剣を抜いてください」


「しかも真剣で!?本当に言ってるんですか!?」


魔璃さんは俺の言葉を一切聞かず、自分の腰に差した刀を抜く。気合いの入った刀身が真っ直ぐと俺に向けられる。どうやら、もう言葉はいらないらしい。

俺も、致し方なく背にかけてある柄に手を掛け、鞘から剣を抜く。そして、腰を落とし、下段に構える。一方の魔璃さんは先程の姿勢からピクリとも動かない。

不本意な試合だけど、やるからには真剣に。和也は既に切れかけている集中をもう一度入れ直す。


風になびく草原を上を大きく一歩、力強く踏み出す。初動が速かったのは和也だった。


魔璃の懐に入り込み、剣を横払いに斬ろうとしている。魔璃は何事も無いかのように、刀を片手に持ち替え、手首を捻る。両者の武器は激しくぶつかり合い、火花が散る。


(流石に力押しじゃ勝てないか)


和也は一旦剣を引き、間合いを取ろうと後ろにステップを踏む。


だが、その隙を見過ごさなかった。


魔璃は和也の一瞬の緩みをついて、一気に距離を詰める。


(まずいッ!)


魔璃の攻撃は上段から下段にかけての斜め斬り。体勢を崩している和也は咄嗟の判断で、振り上げられている魔璃の手首と首襟を掴み、身体が地面に落ちる勢いで後ろに投げ飛ばす。


いわゆる巴投げだ。


競技が違えば、確実に一本を取れていそうな綺麗な巴投げが決まり魔璃は和也の後方へかなりの距離投げ飛ばされる。


だが、和也が体勢を立て直す時には戦況は振り出しに戻っていた。


「和也さん、体術もお得意なんですか?」


「まぁ少々。いつも麗奈にかけられていたので」


軽い会話をした後は、また静寂に包まれる。


和也は構えを変え、背筋を伸ばし腕を上げて上段に構える。魔璃は腕を下ろし、下段に構えている。


善と悪、賢と愚のように相対する言葉は沢山あるが、この戦闘に置いてもそれが言えるだろう。

和也は上、魔璃は下。この相対する構えをする事で相手の行動を狭めることが出来る。細かい事かもしれないが、これさえ出来ない奴はこの妖怪が蔓延る世界で生き残ることはできない。


それを分かっている二人は、この体勢のまま膠着する。


その間に和也は考察する。


(霊力を使える俺に対して、魔璃さんは単純な剣術のみ。一見、俺の方が有利に見えるがそうじゃない。魔璃さんは霊力で固めた俺の一撃を完全にいなしている。なら、わざわざ霊力を使う必要も無い)


和也から霊の気が引くのを感じ取り、魔璃が心配して声をかける。


「いいんですか?別に本気を出してくれても構いませんよ?」


「俺は本気ですよ?これで貴方に勝ちます」


和也は先程よりも深く腰を落とし、刺突の姿勢を取る。何故わざと手を抜くような事をするか分からない魔璃は鋭い瞳を和也に向ける。そんな魔璃を見て、和也は苦笑いを浮かべる。


(魔璃さんと剣術勝負で勝てる気はしないけど、タフさだけは自信がある!)


和也は何も考えずに突撃する。魔璃はそれを見てゆっくりと構える。和也の剣先が魔璃の胸に向かって放たれるが、それは見事に空を斬る。


魔璃は素早く和也の横に回り込むと、刀を真っ直ぐ振り落とす。間一髪のところで体勢を立て直し、避ける。だが、地面を傷をつける形となった刀は急激にその方向を変え、横払いに和也の胴体を斬らんと向かって来る。

避けること出来ないと思った和也は地面に剣を突き刺し、向かって来る刃の勢いを殺す。


そこからは一進一退の剣戟勝負が始まった。だが、圧倒的に魔璃の方に分があった。

その証拠に、和也の身体には幾つもの傷が刻まれていく。和也は明らかに、魔璃の流れるような剣撃に反応が遅れてしまっている。

致命傷になりかねない傷も受けてはいるが、それは霊力を灯して治す。そして、それを繰り返す。


疲れたのか魔璃は一旦距離をとる。


「そういう事ですか。剣の方に霊力を回さないのは、自分の傷の修復に集中する為でしたか。……なかなか和也さんも無茶をしますね」


「今はまだ、両方に霊力を灯してられるほど器用じゃないんでね……」


話している間にも、魔璃につけられた細かい傷も治す。傷が多いせいか霊力の消費量が尋常ではない。身体的な疲れもそうだが、霊力的にもガタがきている。


(賭けるなら一撃必殺、魔璃さんの刀を弾き飛ばす!)


和也は全身に霊力を回して一歩を踏み出そうとする。和也の霊の気に気づいた魔璃は気を引き締め、固く刀を握る。


和也が一歩を踏み出そうとしたその時。


地響きと共に嫌な気配が二人の身を震わせた。


「分かりますか和也さん」


「はい。派手にやり過ぎましたね」


遠くを見ると、妖怪の群れがこちらに向かって走ってくるのが見える。明らかに俺達を目掛けて走っている。

俺は魔璃さんの顔を見ると、魔璃さんも同じ考えだったのかため息をつく。


「ため息をつくと幸せが逃げますよ」


「そうですね、たった今逃げてしまいましたから。折角の和也さんとの勝負に水を差されてストレスが溜まっているので、あれで発散しましょう」


完全にキレている魔璃さんのその表情に押され気味の俺は、とりあえず剣を構えた。

数はさほど多くない。統率の無さからあれは知能が低い雑種妖怪。たまたまここら周辺に霊力を感じたから寄ってきてしまったんだろう。


半ギレ状態の魔璃さんは今にも飛び出して行きそうだが、それだと余りにも妖怪が可哀想に思えてくる。


「それじゃあ私行ってきますね」


笑みを浮かべながら、そう俺に挨拶して少し手前の丘に移動していく魔璃さんを見送りつつ、妖怪達の安らかな眠りを祈った。


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