第二章 幕間 下
宴会が始まり、三人が一杯飲み干した所で和也が適当に作った料理が運ばれてくる。
それを食うルーミア、料理お構い無しに呑む麗奈。そして、それを見て呆れている和也。
「お前ら、どんだけ飢えてんだよ」
お猪口に入ったお酒を呑んでいた麗奈が、料理に手を出して美味しそうに食べている。その顔を見れただけで、作った甲斐があった。
「ほらほら、遠慮せずに和也も飲みなよ〜」
既に酔っているのかルーミアが悪絡みしてくる。俺の前にお猪口たっぷりの注がれた酒を差し出す。
「そう言ってもな…俺、酒なんか呑んだことないぞ多分」
「いいから、いいから。飲んでみなよ?美味しいよ」
あまりにもルーミアが勧めてくるので、諦めて呑むことにした。注がれた酒を豪快に喉に流し込む。
「!?これはいけるな!」
お酒の甘い風味と喉に透き通る感覚が癖になる一杯だった。つまりは物凄く美味かった。
「へぇ〜、アンタお酒の良さがわかるのね」
もう瓶を五、六瓶開けてしまっている麗奈が酒をあおりながら、言う。一人で大量のお酒を呑んでいるのに全く寄っている素振りも見せない麗奈を少し尊敬するが、あまり呑みすぎてもらいたくない。
「麗奈、明日も仕事あるんじゃないのか?」
「いいのいいの。私いくら呑んでも酔わないから」
「何だよその特殊能力…」
そんな麗奈に比べて、大妖怪(笑)さんはというと。
「ほへぇ?なにみてんの〜?」
ひと瓶でもう出来上がっている。何をしていたのか服がはだけて、肩が丸出しになっている。
「そいつ、酒弱いのよ。妖怪の癖に」
「なにいってんの〜!わたしはよってなんかいませ〜ん!そうだ!あのはなししよ〜!麗奈がね、十歳の頃ね!」
「また始まった……」
唐突にルーミアは麗奈の昔話を語り出した。しかも、酒瓶片手に踊りながら。
「真面目に聞かなくていいわよ。酔ったらいつもこの話するのよ」
麗奈はお酒をグイッと飲み干して、まるでルーミアを相手にしていない様子だった。それもなんだか可哀想なので、一応俺だけは聞いておくことにした。麗奈の昔話も気になるし。
「和也〜、人里に剣道場があるのは知ってる〜?」
「まぁ一応。実際に行ったことはないけど」
人里には計十の剣道場がある。それぞれ流派は異なっていて、親衛隊で働いている人達も全員どこかの流派に入っているらしい。俺も行って、手合せでもしたいと思っている。
「それぞれの師範はね、すごく強くて!一人だけで、妖怪を倒せるくらい!でも、私には秒殺だけどね〜」
「へ、へぇ〜」
ルーミアの自信たっぷりな発言は実力が伴っているから怖い。それにしても、師範がそんなに強いことに驚いたな。ますます、やりたくなってきた。
「それでね、ある日。一人の少女が、殴り込みに来たんだって!でも、その子はまだ幼くて、師範もイタズラだと思って相手にしなかった。けどね、一番弟子が瞬殺されちゃって驚いた師範はその勝負を受けちゃったの!」
「もしかしてその女の子って……」
「そう!まだ五年前、十歳だった麗奈!」
「それで?麗奈と師範の勝負は?」
「それが相手にならなかったらしいの!」
それはそうか。流石に十歳の女の子が大人相手、しかも妖怪をぶっ倒せる程強い人に……。
「なに勘違いしてるの?麗奈の圧勝だよ?」
「デスヨネ〜」
分かってたよ!ただそんな天才がここで酒をあおりながら、料理つまんで、おじさんみたいになってるから否定したくなるんだよ!
そんな現実逃避をしている俺を置いて、ルーミアは酔っているのか疑いたくなるほど流暢に話を続けていく。
「これが、ここで話は終わらない!見事に師範を倒した麗奈はまた一軒、また一軒と剣道場を訪ねては師範と戦って、遂には!全剣道場を制覇してしまったのだ〜!アッハッハ!面白いね〜!」
「いや、確かに凄いけど……ほら?あの、反感とか出なかったの?」
「それが、麗奈の剣技に惚れ込んだ師範達が弟子にさせて欲しい頼み込んだらしいよ!ねぇ麗奈!」
「…うっさい」
「その時も、こう言って断ったらしいよ。ついでに言うと、麗奈がうっさいって言うまでがこの話の流れだから」
「何回この話してるの?」
「今ので百十一回目よ」
何故数えていたのか謎だが、麗奈は毎回付き合ってあげてるらしい。なんだかんだ言って優しい。
楽しい宴会もだんだん夜が更けて、静かになっていく。ルーミアは散々話した後に爆睡してしまった。俺も酒の呑みすぎか段々瞼が落ちて、意識が遠ざかる。
そして、意識が無くなって何分、いや何時間経っただろうか。何やら動くような物音で俺は起きる。相変わらず、ルーミアは爆睡して起きる気配もない。ひとつ変わった点と言えば、そこにいた麗奈が居なくなっていた事だ。
俺は、まだ完全には覚醒していない意識の中、徐ろに立ち上がって眠い瞼を擦る。すると、廊下で何かが歩いているような音が聞こえてくる。
「……麗奈?」
俺は一応ルーミアが起きないように静かに襖を閉め、廊下に出る。神社の廊下は月明かりのおかげで、ロウソクが要らないほど明るかった。
「今日は満月か」
廊下から見える月を見ながら呟いた。ここに来てから、こんな風に月を見ることは無かった。
「……あっ?」
この廊下の突き当たりに一瞬人影が見えた。一瞬だけでも分かる。それは麗奈だ。
俺は麗奈の後を追う。別にやましい気持ちはないが、自然に忍び足になる。こっそりと後をつけていくと、麗奈は廊下の縁側に座っていた。
博麗神社の中庭には一本の桜の木がある。境内に植えられているもの程立派ではないが、こちらも中々綺麗だ。
麗奈は桜を眺めながら、お酒をあおっている。その情景はとても彼女に似合っていた。
俺がその美しさに見惚れていると。
「そんな所で立ってないで、アンタもこっち来なさい?」
「バレてたのか」
「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ」
「可愛いおじさん?」
「なによそれ!まったく…ふふ」
「アハハ!」
何故かおかしくなり、二人とも大笑いした。そして、俺も麗奈の隣に座る。
「アンタも呑む?ここで呑むお酒も風情があっていいわよ」
「なら、頂こうかな」
俺は麗奈からお酒を注いでもらい、目の前にある桜を見ながらグイッと飲み干す。麗奈に言われた通り、居間で呑んだお酒よりちょっぴり違う気がした。
そのまま、お猪口を置いて、桜を見ながら話し始める。
「そういえば、私達が初めてちゃんと言葉を交わしたのも、桜の木の下……だったわよね」
「その時も麗奈、お酒呑んでた」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
そう言って、去年のこの時期に幻想郷に来た頃のことを思い出す。紫に連れてこられて、何もわからなかった俺の最初の目標はこの博麗神社だった。そして、慧音さんから貰った目標は俺の目標に変わった。あの時の目標はちゃんと達成しているのだろうか。だけど、今の麗奈の表情を見て安心する。
この綺麗な桜を見ていると、何でも話したくなってくる。今不安なことや、これから何をしていきたいのか。全てを話したくなってくる。
そして、俺は唐突に聞いてしまう。
「麗奈……俺の事好き?」
自分でも一瞬何を口走ったか分からなくなった。そんな事言うつもりではなかったのに、何故か言葉に出してしまった。急な馬鹿な質問に麗奈は困っているだろう。そして、「アンタなんか嫌いよ」と言われる。そう思い俺はそっと、麗奈の顔を見る。
麗奈は桜を眺めながら、すごく可愛らしい笑みを浮かべて笑っていた。そして、そのまま桜を見ながら言った。
「そうね。嫌いじゃないわ」
「どっちなんだよそれ」
そして、また二人で笑い合った。さっき見せた笑顔にどんな感情が隠れていたのかは俺には分からない。だけど、これだけは思った。
『俺も嫌いじゃない』
その後も、麗奈とたわいも無い話を永遠として夜は更けていった。
翌日、縁側で一緒に寝落ちしているのを二日酔いのルーミアに見られてからかわれたのはすごくイラついたので。麗奈と一緒にボコボコにした。




