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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
卯月-『十字架のプレゼント』
94/164

13.

二千×八年現在


「っていう、ワケなんだけど…」

 他の四人の様子をうかがう。やはり少し重たい空気になってしまったのは承知の上だが、特に心奈は複雑そうな顔をしていた。

「なるほどねぇ。そりゃあ陽子が裕人君を好きになるのも無理ないね」

 美帆が…食べ飽きないのか、リンゴケーキを口に運んだ。

「で?その十字架のキーホルダーって、それ?」

 ふと、香苗が西村の胸元を指差した。

「ん?うん、そうだよ。ちょっと改造して、ネックレスにしたの」

「へぇ。いつもなんか、女の子らしくないもの付けてるなぁとは思ってたけど、そういうことだったんだ」

 西村の胸元では、その日彼に貰った十字架が、当時以上に鈍い輝きを放っている。それでもこのネックレスは、彼の想いがこもった、大切な一品だ。

「で、告白は私達が思っていた以上に大成功だったわけね」

「まぁ…そうだね。まさかヒロ君が、デートに誘ってくれるなんて思ってもなかったから」

「それで卒業式の日、ヒロはずっと陽子に付きっ切りだった訳かぁ。あの時は、ちょっとだけ寂しかったなぁ」

 心奈がコップに入ったリンゴジュースを一口飲んだ。

「まぁ、その時がそうでも、今のヒロ君は心奈の彼氏。私はもう、関係ないもん」

 両手を後ろの床に置く。とは言ったものの、こちらとて複雑な気持ちなのだ。西村は、天井を仰いだ。

「そうそう。それで心奈、最近はなんかあった?」

 美帆が彼女に問う。

「最近?うーん。というか、先週ヒロの家行ったきりほとんど話してないなぁ。なんか、『部活が大変でー』とか言ってさぁ。急に部活に熱入っちゃったらしくて、電話かけても構ってくれないんだよね」

 心奈がため息を吐く。

 彼女のようなタイプは、少しでも好きなものが欠けると落ち込むタイプだ。無理もあるまい。

「裕人君、フットサルだっけ?」

「うん。大会にも出られない部活だったんだけど、六月までにメンバーが揃わないと廃部なんだって。そしたらなんか、急にやる気になっちゃって。だったらなんで今までやる気出さなかったのって話なんだけど」

「まぁ、メンバーもメンバーだから仕方ないか」と、言葉に付け加えると、再び心奈がため息を吐いた。どうやら、向こうのチームも訳ありのようだ。

「まぁ、カップルの最初の壁ってやつだね。会いたかったり、話したかったりしても、それがどうしてもできなくて辛いやつ。我慢するしかないよ」

「はぁ。うん、そうだ…美帆、もしかして全部食べた?」

 モグモグと口を動かしながら話す美帆に、テーブルを二度見して思わず心奈が聞いた。

「え?うん、食べたよ?」

「えぇーー!?」

 気が付くと、ワンホールケーキが一つ丸ごと、テーブルから消え去っていた。どうやら、西村が話している最中に、ほとんど食べてしまっていたらしい。

「美帆、よくそれで太らないよね…」

 南口が絶句する。従姉妹どうしでも、そこらへんの体質は違うようだ。

「えへへ、まぁしっかりと運動はしてるからね。土日は、朝起きたら一時間、ジョギングしてるんだ。その他にも色々やってるし」

「へ、へぇ…知らなかった」

 ―いや、それでも消費しきれないカロリー絶対取ってるよね?明らかに取ってるよね?

 一同納得いかない様子で、一人微笑む美帆にただただ渋い笑みを返した。

「まぁ、その話はいいんだけど。とりあえず、裕人君と心奈はひとまずそれで置いといて。今度私が一番心配なのは…」

 表情を一変させると、美帆がチラッと彼女を見る。

「…私?」

「うん。玲奈、和樹君と今どうなの?」

 次に美帆が目をつけたのは、南口と中田のようだ。西村は事情を知らないが、どうやら何かあったらしい。

「どうなのって…私は別に、いつも通りだよ?」

 彼女が微笑む。

「本当に?」

「うん。特に中田君に不満もないし、大丈夫だよ」

「ふーん…じゃあ、玲奈に一つだけ言っておくよ」

「え、美帆?」

 ふと、心奈が美帆の言葉を聞き尋ねる。どうやら、心奈は事情を知っているようだ。

 美帆は心奈に微笑むと、南口に目の色を変えて言った。

「和樹君、今別の女の子と仲良くしてるって知ってる?」

「…え?」

 南口が驚く。どうやら、彼女は何も知らなかったらしい。突然告げられた話に、彼女は口をぽっかりと開けていた。

「相手は部活のマネージャー。二月のバレンタインの日に告白されたらしくて、それ以来だいぶ仲良くなったみたい」

「…それ、誰から聞いたの?」

「和樹君から直接」

「…そっか」

 美帆の唐突な話題に、再び一同に重い空気が走る。南口は俯いたまま、何やら考え込んでいた。

 怒ったり、泣いてしまうかとも西村は思った。だが、彼女は意外にも違う反応を見せた。

「まぁ…中田君らしいんじゃないかな」

 南口は、何故か嬉しそうに笑ったのだ。その反応に、一同は再び驚愕する。

「だって、中田君に告白したのは私のほうだし。私は中田君が好きだけど、中田君がもし私に飽きちゃったり、嫌いになっちゃったのなら、それはそれで仕方ないと思うんだ。私は付き合って欲しいってお願いした立場だから、何も言えないよ」

「…玲奈、それは違う…」

「分かってるよ!!」

 美帆の言葉を、らしくない様子で南口が叫び遮った。

「でも、私は中田君がそうなら、それでいいの。別に怒ったりはしない。興味が無くなったのなら仕方ない。っていうか、そもそも私なんかに、何年も彼女として付き合ってくれたんだ。それだけで、私は感謝してる。私は、それだけで満足だから…」

 南口が言い終わったタイミングで、ふと誰かのスマートフォンが鳴った。それは場の空気を読まない、南口への電話だった。

「…ごめんね、ちょっと部屋出る」

「あ、うん…」

 バタンと扉が閉められると、一同は静寂した。誰も口を開かず、顔を見合わせず、ただただそこに居座っていた。

 ―玲奈も…大変なんだな。

 西村は重い空気の中、彼女らしい答えに胸を痛めた。

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