表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
卯月-『十字架のプレゼント』
PR
79/164

3.

 桜はよく、曲の題名として用いられる事が多い。漢字、平仮名、片仮名。また、色々桜にかけた題名で桜をイメージに作られた曲は、きっと幾数とあるだろう。

 各々が、各々で思う桜のイメージを詩として書く。それだけでも、各々で様々なイメージがされ、聴いているこちらとしても面白い。この時期の、楽しみの一つだ。

 音楽は、詩を書く人、音楽を作る人などで全く同じ曲になることはない。それぞれが自分だけの音楽を作る。そんな音楽の魅力に、自分は惹かれたのだ。

 そして、そんな桜の木が並ぶ道を、イヤホンから流れる音楽を聴きながら、黙々と歩いていた。

「おっはよー!陽子!」

「いたっ!…もー!香苗!いつも言ってるけど、力強すぎ!」

 西村陽子は、友人の香苗に背中を思い切り叩かれて、現実へと引き戻された。

 左耳のイヤホンだけを外し、嫌々と彼女と並ぶ。

「だって、陽子いっつもイヤホンして音楽聴いてるからさー。呼びかけても返事してくれないんだもん」

「でも、叩くことないじゃない」

「んー。まぁ、それはそうなんだけどさぁ。なんかこう、叩きたくなる気持ち、分かる?」

「それは…うん、分かる」

「え!?分かる?やっぱり!?よかったぁ、やっぱり陽子は私の友だよぉ。他の子に言ったらさー、『それは香苗がそんな性格だから』って言っちゃってさー。失礼ったらありゃしないよ!」

 ―あ、それは否定できないや。ごめんね香苗。

「…何、その涼しい目線」

「いや…何でもないよ?」

「嘘!絶対陽子もそう思ったぁ!もー!みんな何でそう言うかな?こんなにも可愛い乙女が嘆いてるというのにぃ!」

「ぷっ…ふふふ…」

「あー!何で笑うのさ!」

「だって…香苗が可愛いって…」

「にゃーー!!もういいよ!知らないもん!」

 香苗がプイッとそっぽを向いた。まぁ、よくある事だ。時間が経てば、気も逸れるだろう。

 怒ってもなお隣を歩く香苗と共に、西村は教室へと向かった。

 西村の学校は、一年生から一切クラス替えが行われない。担任も変わらず、教室が毎年変わるだけで、特に新学期としての新鮮味もないのだ。

 そんな変わり映えの無いクラスの雰囲気に迎えられながら、西村たちは教室へと入った。

「あーあ、ウチの学校ってクラス替えもないのに、あのバカ担任だけが席替えもしないーって言い張るから、特になーんの面白みもないよねぇ。他のクラスは、席替えはあるってのに」

 香苗が自身の机に荷物を置くなり、西村の前の席に座り突っ伏しながらぼやいた。

「まぁ、それはあるよね。席替えくらいは、ちょっとしてほしいかも」

「ねー。そうでなきゃ、乙女の新しい出会いなんてないっつーの」

「ああ…うん」

「だから!涼しい目でみるなぁ!」

 香苗が肩を思い切り叩いた。

「いたっ…。でも、そう言いながらもどうせ気にしてるんでしょ?」

「それは…そうだけど」

「ふふっ、香苗らしいや」

 西村は、机に突っ伏する香苗を見ながら微笑んだ。

「ぬぅーーー!それもこれも、男との出会いが無いからいつまでも変わることができないんじゃ!どこかにいい男は転がってない!?」

「そんな事言われても…渡辺とかは?」

 ふと、数人の男女グループの中で楽しそうに話しているクラスメイトの渡辺を見た。

「えー、あいつはなぁ。性格はいいけど、ウチの趣味じゃないし」

「じゃあ、どういう人がタイプなの?」

「うーん…。引かない?」

「え?う、うん」

「…間宮みたいな、何考えてるか分からないタイプ」

「え、あいつ?」

 彼の名が出た途端、西村は彼を覗き見た。彼はいつも通り、一人で黙々と読書をしている。

「そ。まぁ、あいつが好きって訳じゃないけどさー。ああいう、物静かなタイプがいいんだよねー」

「それは…ちょっと意外かも」

「むぅ…どうせ、うるさい人と一緒にお酒飲みたいとか考えてそうーとか考えてたんでしょ?」

「うん、もちろん」

「ああー!二重肯定するなぁ!」

 香苗は教室中に響き渡るような大声で叫んだ。

 皆こちらに注目する中、一人健二だけが、気にせずに読書をしていたことを、西村は見逃さなかった。


 次の日

「えぇー!?席替え!?」

 担任の彼の一言で、クラス中から歓声が湧いた。

「うるさい!少し静かに!…まぁ、三年生だしな。一学期と二学期で二回くらい、してやろうかと思ってな」

「わぁー!先生マジ神!」「さすが先生!」

 生徒から、様々な声が上がっている。そんな中西村は一人、嫌々とその様子を見ていた。

 ―うるさいなぁ…。席替えは確かに嬉しいけど、そこまで喜ぶ必要ある?

 自分が大人なのか、彼らが子供なだけなのか。こういう時、よく分からない感情に陥る。

 そこまで嬉しい気持ちを表現するのは、本当にバカバカしい。嬉しくても心の中で思っていればいいし、第一他人に迷惑だ。どうして彼らは、そういうことを考えてくれないのだろう。

 そんなこんなで席替えが決まり、先生がお手製で作ったクジで、席順を決めることになった。

 左前と右後ろの二人でジャンケンし、勝ったほうから蛇行回りで順番が決められる。結局、左前の人がジャンケンに勝ったおかげで、西村は後半にクジを引くことになった。

「次、西村ー」

 学級委員長である野球部の一人が、順々に名前を呼び、次に自分の番となった。

 前へ歩み出ると、袋の中から一枚、クジを引く。

「…二十二番!」

 黒板に席がかかれ、適当に割り振られた数字の席に西村の名前が記される。自分の席は、黒板から右の一番後ろの席だった。

 ―まぁまぁかな。隣、誰になるだろう。

 香苗は既に、他の席へと決まってしまってる。隣が誰になるのか、多少ドキドキしていた。

「はい次―。お、健二じゃん!いい席引けよ?」

 彼の名が呼ばれた途端、クラスから歓声やら罵声やら、様々な声があげられた。それでもなお彼は、いつも通りの冷めた顔である。

 現状空いている席は西村の隣と、もう二席だけだ。できることなら、自分の隣だけは引かないでほしい。西村は必死に祈った。

「…三十一番!」

「隣は?」「え?どこ?」などなど、色んな声が上がる中、委員長が番号の席に名前を書いた。

 ―…え?

「お、隣西村じゃん!やっぱりお前ら仲良いな!」

 一人の他の野球部が、楽しそうに声をあげた。

「え、嘘?私?」

「おう!仲良くやれよー!喧嘩すんなよな!」

 バカな委員長も便乗して、同じくバカにしたように笑っている。

「嘘でしょ…?はぁ…」

 クラス中から、西村に向けて歓声が湧いた。これはもう、噂のことをみんな知っているらしい。

 数ヶ月前から西村は、「健二と付き合っているらしい」という噂に悩まされていた。特に二人にそんな事実は無いし、西村自身そのような感情は全く抱いていない。

 ―ああ…最悪。どうして私、こうなんだろう…。

 頭を抱えながら、西村はざわめく教室の雑音をなるべく聞かないように、机に突っ伏した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ