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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
第八針 やって良いこと悪いこと
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3.

「あ、いたいた。心奈!」

 少女を見つけた美帆が、こちらに走ってきた。

 その後ろに立つ五十代ほどの女性は、きっと美帆の母だろう。彼女は少女に一礼した。

 少女も一礼を返すと、美帆と向かい合った。

「大丈夫?もう平気だからね?」

「う、うん…」

 少女は話づらかった。一体、どっちの自分で彼女と話せばいい?心の中で、ずっと迷いを巡らせていた。

「心奈?」

「え?な、何?…かしら」

 迷いながら答えた言葉は、思わず変になってしまった。それを聞いた美帆が、表情をムッとさせる。

「あー!もうっ!その話し方はダメ!せっかく可愛い心奈が台無しだよ」

 美帆は少女の口に強引に手を当てる。

「ん!?んん!!」

「心奈。これから私と話すときは、その口調は禁止ね?約束して?」

「ぷは…。で、でも…」

 美帆が口から手を放した。少女は思わず口ごもった。

「もう、人に嫌われようとしちゃダメ。心奈はいい子なんだから、そんなの勿体ないよ」

「だ、だって!本当の自分を見せたら私、きっとまた…!?」

 少女は息をのんだ。美帆が少女を優しく抱きしめたのだ。彼女は温かくて、微かにリンゴのようないい香りがした。

 それはまるで母のようで、懐かしい感覚だった。

 ―そういえばお母さんも、リンゴが大好きだったっけ?

 今までずっと忘れていた母の温もりを、少女は再び思い出した。

「大丈夫だよ。その時は、私が必ず助けてあげるから。だから、安心して心奈は、自分らしく生きていていいんだよ」

「っ…!!美帆…!」

 嬉しかった。自分らしく生きていい。心のどこかで、自分はその言葉を待っていたのかもしれない。

 思わず涙腺が緩んでしまった。今日一日、辛いことが沢山あった。それまでため込んでいた涙が、一気にあふれ出した。

 そんな少女を、美帆はずっと背中をさすりながら、触れていてくれた。


 次の日

 病室で、少女は眠っている祖母を見ていた。

 息はしているのに、彼女は目覚めない。それがもどかしくて、何もしてやれない自分にも苛立ちを覚えていた。

 コンコン。

「ん…どうぞ」

 ふと、扉がノックされた。少女が呼びかけると、一人の見知った顔が中に入ってきた。美帆だ。

「ごめんね、ちょっと話が長くなっちゃって、遅くなっちゃった」

 彼女はそう言うと、少女の隣に座った。

「おばあちゃん、まだ目が覚めないの?」

「うん…頭を強く打ったみたいだから、いつになるか見当もつかないって。最悪の場合…」

 少女はそこで言葉を切った。それ以上は、言いたくなかった。そんなはずはないと、信じているからだ。

「そっか…」

 美帆は短く言うと、一つ息を吸って続けて言った。

「あのね、心奈。こんな時に話すべきじゃないと思うんだけど…。今から私が話すことは、怒らないで聞いてほしいんだ」

「どうしたの?美帆にしては珍しいね」

「その…昨日、陽子と二人きりで話してたでしょ?その話、実は全部聞いてたの」

「えっ…?」

 少女は驚愕した。

「あれだけ信頼できるって言ってくれたのに、悪いよね。本当にごめんなさい」

 美帆が頭を下げた。

「…でも、知りたかったんだ。どうして心奈が、自分から人に嫌われるようになったのか。陽子から逃げたのか。昔、何があったのか。悪いとは思ったけど、つい聞きたくなっちゃって」

「そう…。まぁでも、聞いちゃったものはもういいよ。どうせ、いつか話そうとは思ってたし」

 少女は立ち上がると、窓の前に立った。

「それでね。ここからが本題なんだけど…。今日、陽子に頼んで、裕人君に会ったの」

「…へ?」

 窓の外を見つめたまま、素っ頓狂な声を少女が上げた。

「いい人だった。喋ってても、全然悪気なんてなかったし、心奈が好きになった理由も、分かった気がする」

「いい人?あいつが…?」

 少女は、振り向かずに言った。

「…心奈だって、今でもそう思ってるんじゃないの?」

「私は…。やっぱり、あいつは嫌いだよ」

「本当に、そう思ってる?」

 美帆が問うた。窓に反射して映るその表情は真剣で、嘘などすぐに見抜かれそうな顔をしていた。

「…はぁ。やっぱり美帆は、なんでもお見通しだね」

 ため息を吐く。すると美帆は、優しく微笑んだ。

「違うよ。心奈がバレバレなんだよ。嘘がド下手で、必ずどこかでボロが出てるし」

「な、何よ!私だって、一応真剣に嘘ついてるんだよ!?」

 少女が叫ぶと、美帆は面白可笑しく笑った。

「心奈は本当に優しい子だってことだよ。純粋で、透き通った心をしてる。本当に、心奈が羨ましいと思うな」

「え?そ、そんなっ…!私は、美帆が羨ましいよ。美帆みたいに、みんなと仲良くできればいいなって、いつも思ってるし…」

「ふふっ、ありがとう」

 彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「…本当はね?私だって、あいつと会いたいと思ってる。でも、怖いの。あいつと会うことで、また嫌なことが起こるんじゃないかって」

 少女は自分の腕を強く掴んだ。

「どこかでずっと、私を切ったのは理由があったんだって信じてる。でも、本当のことを知るのが怖かった。それを知ったら、また私は一人になっちゃうんじゃないかって…」

「大丈夫、心奈はもう一人じゃないよ」

 美帆が、力強く言った。

「…そう、だね。ありがとう、美帆。もうちょっとだけ、考えてみる」

 少女は、再び窓の外を見つめた。

「…あいつ、元気だった?」

「ん?うん、元気だったよ。早くしないと、誰かに取られちゃうんじゃない?」

 皮肉交じりに彼女は言った。こういう時だけ、彼女は笑えない冗談を言ってくれる。それは憎たらしかったが、反面で嬉しく思えていた。

 少女は外の夕焼けを見つめながら、可愛らしく笑った。

「そっか。じゃあ、尚更早くしないとね…」

 彼があの日、あの山の上から見せてくれた夕陽の景色。それは今でも忘れられない景色の一つだった。

 今度彼と再び会うときは、夕陽が綺麗な日にしよう。そして、色々文句を言ってやるんだ。

 少女は、彼との再会の想いを固めた。

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