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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
第八針 やって良いこと悪いこと
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2.

一方 前日


 少女は、ただひたすら祈っていた。

 祖母が倒れた。それは、心の片隅でずっと予測していたことだった。いつか、いつの日か。その日が来ることは分かっていた。それが、もしかしたら今日になってしまうのかもしれない。

 そう思うと怖かった。祖母の存在は、少女の最後の砦だった。彼女の存在があったからこそ、本当の少女も存在できた。それが消え去ってしまったら、少女は本当の自分では無くなってしまうだろう。自分を見失ってしまうかもしれない。それが何よりも恐ろしかった。

 病院に来てから、一時間ほど経っただろうか?集中治療室のランプは、未だ点灯している。

 そう言えば、さっきの電話の相手をしてくれた男性は、彼の声に似ていた。まるで彼と話をしているようで、心のどこかで安心感が生まれていた。

 ―私、やっぱり…。

 キィ…。とっさに前を向くと、中年の看護婦が一人、部屋から出てきた。

「明月心奈ちゃん、よね?」

 彼女は少女を見つけると、優しく声をかけた。

「は、はい…」

「大丈夫。一命はなんとか取り留めたわ。ただ、後はどのくらいで意識が戻るか…」

「そう、ですか」

 一命は取り留めた。その一言で、今までの緊張は解けた。張りつめていた気持ちが、一気に楽になる。

「階段から落ちて頭を強く打ったようね。左足も折れていたわ。二ヶ月くらいは、入院させていたほうがいいかもしれないわね」

「入院…分かりました」

「ところで、親御さんはいらっしゃるの?」

 何も知らない看護婦が聞いた。

「親…その…両方、いなくて」

「どこかに出かけてるの?」

「いえ…その、えっと…」

「もしかして、既に亡くなられて?」

「はい…」

 両親は亡くなっている。その言葉は、半分本当で、半分嘘だった。

「そう、困ったわね…。他に、親戚の方はいらっしゃるかしら?」

「…いない、です」

「誰も?ご両親のご兄弟とかも?」

「はい…」

 不運なことに、両親はどちらも一人っ子だった。そのため少女には、いとこという存在はおらず、いつも彼と二人きりだった。

「困ったわね。それじゃあ…心奈ちゃん、今高校生?」

「え?あ、はい」

「信頼できるお友達とか、いるかしら?」

「信頼できる…?」

 ―美帆…?

 今一番少女が信頼できる存在。まず浮かび上がったのは、彼女の名だった。

 だが、彼女の家は大手の家庭だ。自分たちなんかを、助けてくれるだろうか?

「一応、います」

「そう。なら、これからその子に連絡してくれないかしら?心奈ちゃんには気の毒だけど、色々大人の方の証明とか許可が必要なのよ」

「分かり、ました…後でまた来ます」

 少女は看護婦に一礼すると、重い足で病院のリラックススペースへと向かった。ここでなら、院内での電話も許可されている。

 少女は、最近登録したばかりの彼女の電話番号を連絡帳から開いた。宝木美帆、と彼女の名がスマートフォンに表示されている。

 もう、彼女しか頼れない。少女は決心を決めて、彼女に電話をかけた。

≪もしもし、心奈?≫

 早いことに、たったワンコールで彼女は出た。嬉しかった半面、心の準備もまだ不十分だった。

「あ、あのっ…美帆!」

≪え?ど、どうしたの?≫

「あのね、美帆!助けて…助けてほしいの!」

≪ちょ、ちょっと!落ち着いて?助けてって、どういうこと?≫

 困惑した様子の彼女が、ゆっくりとした口調で話す。

「あ、えっと…おばあちゃんが、倒れちゃって…」

≪おばあちゃん?救急車は呼んだの?≫

「呼んだよ。一命は取り留めたって。ただ、入院が必要みたいだけど、未成年の私じゃ無理だから、信頼できる大人の人に頼んでって…」

≪え?お父さんとか、お母さんはいないの?≫

 美帆が問うた。

「そっか…美帆には、言ってなかったよね。私の両親、もういないんだ」

≪え!?そ、そうだったの…?ご、ごめん!まさかそうだとは思わなくて…≫

「ううん、平気。慣れてるから。それより、今私が一番信頼できるのは美帆なの。だから、美帆のご両親にお願いできないかなって思って」

≪心奈…うん、分かった。そういうことなら、頼んでみるよ!≫

 美帆はそう言うと、ちょっと待っててと言って声が聞こえなくなった。親御さんに頼みに行っているのかもしれない。

 本当に、彼女が友達でよかった。少女は改めて、心の底からそう思えた。

≪あ、心奈?大丈夫だって!じゃあ、病院の名前教えて?今から、そっちに向かうから≫

「本当!?ありがとう!えっとね…」

 少女は、必要な情報を彼女に伝えた。

≪それじゃあ、私も今から行くからね≫

「うん、ありがとう」

≪それと、心奈?≫

「ん、何?」

≪心奈、そっちの話し方のほうが、やっぱり可愛いよ≫

「…ふぇ!?あ!ち、ちがっ…!」

 彼女はふふっと笑うと、強引に通話を切ってしまった。

 しまった。彼女に、本当の自分をさらけ出してしまった。

 どうしよう。このままだと、また同じ悲劇が繰り返されてしまうかもしれない。

 少女は、自分を思わず憎んだ。

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