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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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アサ


 きりひくれこめ、むら屋根やねをひとつのしろかたまりのようにつつんでいる。


 かやかれたひくがいくつもうようにならび、そのあいだかためられたみちはしっていた。


 湿しめったつちにおいが、まだあさねむりののこ空気くうきなかしずんでいる。


 ――どこかで、おとがした。


 つちとがう、にぶひびきだった。


 少女しょうじょアサは、裸足はだしのまま戸口とぐちっていた。 


 としころとおほど。


 かみいくつかにけてむすばれ、細縄ほそなわめられているが、そのむすびはあらく、どこかどもらしいざつさがのこっている。


 ほおにはまだまるみがあり、耳元みみもとではちいさなほねかざりがかるれていた。


 その表情ひょうじょうはおとなしく、まるでこえすことをわすれてしまったようにしずかだった。


 どもは、このむらにアサひとりしかいない。


 年寄としよりははたける。


 おんなたちはみずみ、おとこたちはやまっていく。


 だれ彼女かのじょばず、だれ彼女かのじょもとめない。


 ただ、時間じかんなかきざりにされているようだった。


 アサは、村外むらはずれのもりかうのがきだった。


 木々(きぎ)隙間すきまけ、みしめながらおくすすむ。


 やがて、巨大きょだいいわあらわれる。


 その場所ばしょでは、とりこえむし羽音はおととおい。 


 森全体もりぜんたいが、いきひそめているようだった。


 岩肌いわはだかわいた褐色かっしょくび、なが歳月さいげつけずられたざらつきが無数むすう陰影いんえいんでいる。


 そのれたうえに、異様いようなほどととのった紋様もんようきざまれていた。


 幾重いくえにもかさなる弧状こじょうせん


 うず

 えん

 ながれるような刻線こくせん


 ひとことでいえば――ほのおていた。


 みぞ内側うちがわには、にぶあかしずんでいる。


 鉄分てつぶんか、あるいはめられた顔料がんりょうか。


 だがアサには、時折ときおりそれがのようにえた。


 ななめからひかりすと、紋様もんよう一瞬いっしゅんだけあかかびがる。


 まるでいわそのものがますように。


 視線しせん自然しぜん中心ちゅうしんみちびかれ、またそともどされる。


 み。

 め。

 循環じゅんかんさせる。


 そんな意志いしが、紋様もんようなかにはあった。


 アサはいわれる。


 つめたい。


 けれど、そのおくかすかに脈打みゃくうつものがあるがした。


 こわい、とはすこちがう。


 ばれている。


 そんな感覚かんかくだった。



 アサは退屈たいくつという言葉ことばらなかった。


 だが、むねおくには、いつもうすひろがる空白くうはくがあった。



 その空白くうはくに、ある、ひとりのおとこはいってきた。 


 おとこ投馬国とうまこくから行商人ぎょうしょうにんで、ミナギと名乗なのった。


 にはかご


 ころもには、この土地とちでは見慣みなれぬりの文様もんようはしっている。



 投馬国とうまこく――


 うみにひらけ、とおくに言葉ことばしななが場所ばしょだと、村人むらびとたちはうわさしていた。


 アサは、そのおとこた。


 としころ十六じゅうろくしちほど。


 浅黒あさぐろはだ


 かみうしろでたばねられ、みみにはあお勾玉まがたまれている。


 ころも簡素かんそだった。


 だがのこなしはかるく、旅慣たびなれたもの空気くうきまとっている。


 商人しょうにんらしいおだやかなみ。


 ととのった顔立かおだち。


 けれど、そのだけはみょうするどく、みきっていた。


 ――そのとき


 ミナギの視線しせんが、不意ふいにアサをとらえた。


 れのなかから、ぐにけてくるように。


 アサはうごけなかった。


 う。


 その瞬間しゅんかん


 ミナギのひとみに、ごくわずかなおどろきがはしったようにえた。


 ――まるで。


 さがしていたものをつけたかのようなだった。 


 やがてミナギは何事なにごともなかったように視線しせんはずし、ふたた村人むらびとたちへなおる。


 だが、アサのむねには、まだその感触かんしょくのこっていた。


 かごなかには、ちいさないしほねかわいた薬草やくそうみがかれたたまはいっている。


 このむらではかた青石あおいしや、くろひか薄刃うすはいしじっていた。


 村人むらびとたちはかれかこみ、しなながめる。


 だがその視線しせんは、しなよりも男自身おとこじしんけられていた。


まじなだ」


 だれかがひくつぶやく。


 空気くうきが、わずかにざわついた。


 おそれと好奇心こうきしんじる。


 そのなかで、ミナギだけが微動びどうだにしなかった。


 しずかなのに、みょうはなせない。


 ――やがて、年寄としよりのひとりがった。


「しばらく様子ようする。やくつならいてやろう」


 それでまりになった。


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