第七話 やっぱり自由が一番なのさ
アタシたちは黒鳥に乗って、祖国へ帰ってきた。
窮屈な暮らしから解放されてとても清々しい気分。こんな夜には一杯呑みたいものだ。
「呑むかい?」
「ふざけないでよ姐さん。僕がまだ酒を呑めないの、知ってるだろう」
「ああ知ってるさ。でも今夜くらいいいじゃないか」
そう言って、アタシはグラスに酒を注ぐ。
拠点へ戻って来る前に、あの『黄金の秘宝』は金に変えてしまった。思い出の品だからどうしようかと悩んだが、ああいうものはすっぱり手放してしまった方がいい。
金は一生分に近いくらいある。少し贅沢してもバチは当たらないだろう。
蝋燭の光だけが灯る、薄暗い穴蔵のテーブルにグラスを並べ、乾杯。
アタシはグィと酒を呑む。「うん、美味い」
ポトはくすくす笑った。
「姐さんのそんな姿を見るのは久しぶりだけど、全然変わってないね」
「当たり前だろ? いくら王妃様になるかも知れなかったって言ったって、お作法のお勉強なんざ一個もしなかったんだからね。人間変わらないもんだよ」
今頃、ザヌープはどうしているだろう。
アタシがいなくなって泣いているだろうか? ざまぁ見ろな感じもするが、少し哀れにも思う。変な気持ちだ。
「きっとあの男は、姐さんの幸せを祈ってると僕は思うよ」
「そうかねえ。アタシはそんな風には思わないけども」
グラスが空になったので、また注いだ。久々の酒だし酔い潰れるまで呑もうじゃないか。
「そうそう。お前に謝らなきゃね、ポト。ごめんな、アタシ、お前のこと置き去りにして忘れようとしてた。助けに来てくれて嬉しかった」
「僕は全然何も思ってないよ。姐さんが無事でよかった、ただそれだけさ」
「そうかいそうかい。内心、ザヌープに嫉妬してるくせにね」
アタシは笑い、机に身を乗り出す。
そしてそのまま、こちらを見ているだけのポトへ、口づけをした。
……直後、彼の顔が一気に赤くなる。
見てて面白いくらいの照れように、アタシはさらに声を立てて笑った。
「驚いたろう」
「……びっくりさせないでよ。何の心の準備もできてないのに」
やっと喋れるくらいに落ち着いたポトが、少し怒ったようにそう言う。
そんな姿すら愛おしいと思うのだから、アタシはやっぱりこいつのことが好きなんだろうな。
「悪かった。……愛してる」
「うん」
しばらく無言になって、呑む。
酒のほんわり苦い香りが穴蔵に充満し、どこが心地よい。このまま眠ってしまいたいような、そんな気持ちになった。
「姐さんは、変わり者だね。王様じゃなく僕を選ぶんだから」
ふと、そう呟くポト。
確かにアタシは変わり者なのかも知れない。いや、女だてらに盗賊をやっている時点でそうなのだが。
「アタシはね、やっぱり自由が一番なのさ。縛られて生きていくのは嫌なんだよ」
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そうしてアタシとポトは、前と変わらぬ盗賊生活を続けている。
金には困らないが、アタシはもっと大きな仕事がしたい。だから盗賊をやめることは一生ないだろう。
そうだ、以前と変わったことが、一つだけあった。
それはアタシたちが夫婦になったこと。年の差はあれどそんなのはどうでもいい。
姉貴分、弟分の関係から、少し大人な二人になった。……かな?
ともかく、アタシはこれからもポトと仲良くやっていく。いつか子供が生まれた時には子供たちと一緒に。
王妃になるなんかより、それがアタシにとっての幸せなんだ。
END