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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第七章 王家篇Ⅳ
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第81話 出来損ない少女と冷血の貴公子




元気の良い声がマナとキリュウの寝室に響いた。

部屋の外でそわそわしていた臣下達は、一斉に息を吐いた。


「入っても良いですぞ」


医師に言われて、我先にとキリュウが入室し、次に三人の臣下が入室する。


「マナ様は眠られておるからこちらでの」


寝室の隣の部屋で、赤子を抱いた初老の助産婦がいる。

全員が覗き込む。


「あれ? 揃い子?」

「ええ。女の子と男の子ですよ」


ヘンリーの言葉に助産婦が頷く。


「………」

「あれ? キリュウ?」


固まってしまっているキリュウの目の前で手を振るヘンリー。


「………マナに似ている」

「ああ、そうだね」

「………どうすればいい?」

「何が?」

「………このマナ似の女児がラインバーク家に行くなど、許せないんだが……」

「早くない!?」


早くも溺愛に近い言葉を吐くキリュウに、ヘンリーは突っ込み、オラクルとイグニスは苦笑する。


「あんなに子のことで揉めたのに、産まれたら愛せるのなら、僕たちが頑張った意味ないじゃない」

「だな…」

「まぁ、そこがキリュウなんじゃないのか?」

「………すまん」

「リョウランちゃんをちゃんとねぎらいなよ?」

「ああ」


キリュウが頷くのを見て、ヘンリー達は笑う。


「皆様、こちらを」


控えていたスズランが、四人に布を差し出した。


「これは?」

「マナ様が皆様へと作った物です」


それぞれが手に取って広げる。

布はマントだった。

胸元に五人だけの関係を示すマークが刺繍されている。


「現在皆様はマナ様の臣下となっておりますが、それぞれ魔導士と剣闘士の制服のままです。皆様の関係を他の者と区別する物は何もない。マナ様は皆様の絆を表す物を作りたいと言い、作っておられました。どうぞお受け取りください」


布地はマナの髪の色である紫だった。

紫の髪はこの国ではマナのみ。

アルシェイラを除けば。

象徴とするにはもってこいの色だった。


「わぁ、ぴったり! 嬉しいね」

「そうだな」

「これで身が引き締まるってもんよ!」

「………」

「はい、キリュウ。嫉妬しない」


キリュウだけが難しい顔をして皆を見ていた。


「リョウランちゃんとのお揃いは別に持ってるでしょ。我慢」

「………分かった」

「今日はキリュウもお休みしなよ」

「だが……」

「こんな時ぐらい、傍に居たって女王も怒らないよ」


皆に微笑まれ、キリュウは頷いて寝室へと入っていった。







「………よく似合ってるね」


マントを羽織ってベッドに近づくと、マナと目が合う。

ウトウトと寝そうだが、キリュウを見て微笑んでいる。


「………ありがとう」

「ん。良かった。間に合って」

「体調が悪くならないように作っていたなら良いが……」

「夜にチェックしてたでしょ? 大丈夫よ」

「………ぁぁ」


微笑むマナに困ったように笑うキリュウ。


「………どうしたの?」

「………女児がマナ似だった」

「そう。………それがどうかしたの?」

「………ラインバークに渡したくないと思ってしまった」


キリュウの言葉に暫く唖然とし、マナは苦笑した。

キリュウがこんなにも変わるなんて思ってもみなかったけれど、嬉しい変化だ。


「次も女児なら魔力次第で行く子は変わるよ」

「………マナは自分の子を渡しても平気なのか?」

「平気、というか……」


マナは天井を見て微笑んだ。


「自分が二つの名前を持ってるからね。だから、そんなに変わらないと思う。どっちにいても私の子に変わりない。私には二人の父親と二人の母親が居るから。どっちも大事」


マナの言葉にキリュウは微笑んだ。


「そうだな」

「改めてありがとう。子供を愛してくれて」

「マナと俺の子だ。それに気づかされたのは俺の方だ。俺の方がありがとう、だ。産んでくれてありがとう。俺を見捨てず好いてくれてありがとう」


キリュウの言葉にマナは涙が溢れた。


「………私も。出来損ないの私を見つけてくれてありがとう、キリュウ。私、キリュウの妻で、キリュウの子の母で、幸せだよ」


マナの額にキリュウは口づけた。


「それも俺の台詞だ」


二人は笑い合い、口づけた。




その後、マナは子宝に恵まれ、生涯で五人の子供を授かった。

一人はフィフティ家へ。

その子供はのちにフィフティ家歴代最強の情報屋となった。

一人はラインバーク家へ。

その子供はユーゴが言っていたとおり、ラインバーク当主と関係を持ち、ラインバークの血筋を残した。

その他の三人の子供は、マナとキリュウの元で修行し、親以上の魔法の使い手となり、国を守っていた。

うち一人が、ホウメイの後に王となる。

マナは子供を生むごとに魔力量が少なくなり、問題が起きた時はキリュウ達臣下に任せ、書類処理を主に担当した。

五人の子供は父と母を愛し、父と母も子供を愛した。

危惧していた事は起こらず、生涯仲良く交流していたという――


ここまで読んでくださってありがとうございます!


この話で完結させていただきます。

中途半端感は否めませんが、一度ここで一区切りさせていただきます。

キリュウとマナの修復までは掲載できましたので。

二人が人として悩んで変わっていく感じを、少しでも出せていたら幸いです。


今残っている謎やその後は、番外編などで書いていければいいなと思います。

ありがとうございました。


2019.08.29 神野 響


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